最後の魔法使い

まめ

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番外編 01 二人の道のり

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「なあ、アルド。いつになったらオレと交尾すんの?」

 アルドとティカが守りの森を旅立ってから数日、彼らはアルドの故郷がある方角に向かって、のんびりと街道を歩いていた。
 
 指輪の光だけを頼りに、道無き道を進み続けて守りの森にたどりついたアルド、旅の途中からはお金もなくなり、新たな地図を買うことも出来なかった。よって、普通の街道を通って、村まで帰るルートがよくわからない。
 あの山脈を越えたなーとか、あの川泳いだなーとか、記憶をたどりながら、方角だけを頼りに道を進んでいた。
 
 一方、何百年も守りの森に囲われていたティカは、見るもの全てが珍しく、家の屋根についている風見鶏に喜んだり、畑にある獣避けの鳴子をつついたり、うれしそうにはしゃぎまくっていた。
 アルドは、そんなティカがかわいらしく、急いで村に帰るよりも、のんびり遊山を楽しむのもいいかと思っていた。二人の関係を、好意から愛に育てたかった。 
 
「うん、ティカ、そういうことは俺の村についてからにしようか。ね。」

「オレは早く大きくなりたいんだよ!」

 ティカは、ぷうと頬をふくらませる。

「ねえ、ティカ。俺はもっとティカを好きになりたい。交尾――セックスだって、魔法を解くためじゃなくて、ティカを大好きになって、その気持ちで結ばれたいんだ。って言ったら笑う?」

「笑わない……。オレもそっちがいい……。でも、アルド、オレのこと同情じゃなくて、ほんとに好きになれんのかよ」

 ティカは、もじもじと顔を赤らめながらうつむいた。アルドは自分たちの間で、今までまったく好意を表す言葉のやりとりがなかったことに気がついた。
 「交尾しよう」は、好きでも、愛してるでもない。「魔法を解くためにセックスをしよう」という意味にしかとれない。
 ティカが自分に好意を抱いているのは気がついている。しかし、アルドにはっきり伝えてこないのは、拒絶されるのが怖いのだろう。ティカはまた一人になってしまうから。

「ごめん。今まで伝えてなかったけど……俺、ティカのことが好きだよ。最初は同情もあった。でも、今はティカが好きって前提があって、そこから、もっと好きになりたいんだ。愛してるって胸をはって言えるくらいに」

「……ん、オレもアルドが好きだ。ずっと一緒にいたいし、もうアルドじゃなくちゃ嫌だ。……でも、オレずっと一人でいたから、これがどういう好きなのかわからない」

「うん、わかるまで、一緒に歩いていこうよ。セックスはそれからだ」
 
 ティカの体は、まだ不老不死の魔法がかかったままだった。それを解くことが出来るのは、緑の一族のアルドだけ。
 アルドは、早く解いてやりたいと思いながらも、道中の危険も考えて、村についてから――自分たちが愛を育ててからにしようと決めていた。

 ちょっとしょぼくれてしまったティカの手を、アルドはきゅっと軽く握って、道を進んだ。
 二人はゆっくりと旅をした。
 ティカの空間魔法で出した宝石を換金して、たまにいい宿に泊まってふかふかのベッドで眠ったし、美味しいレストランでお腹いっぱいその土地の料理を楽しんだり、新鮮な果物を買って、歩きながらむしゃぶりついたり、野宿のときはお互いの体温を感じながら、くっついて眠った。
 ティカの笑顔も、こどものようにはしゃぐ様も、日に透けてなお赤い髪の毛も、すべてがアルドの胸に焼き付いていく。アルドは、恋心が大きくふくらんでいくのを感じていた。
 
 暗い森で野宿をした夜、ティカは、アルドの胸に持たれて眠りながら、今日一日の出来事を反芻していた。
 自分も男なのに、アルドはいつもティカをやさしく気遣ってくれていた。
 馬車が横を通りすぎるときは、さりげなくティカをガードするし、料理だってなんだって、先にティカにくれる。今日行ったレストランでは、景色のよい席を譲ってくれたし、大きいほうの肉をくれた。
 その上、今も眠りながらティカの髪を無意識に撫でている。自分よりひとまわり大きい体も、控えめなほほえみもぐっとくる。こんなの好きにならないほうがどうかしてる。
 ティカは、完全に恋に落ちていた。
 わからないと言ったのは、こんなに好きだなんて恥ずかしくて言えないからだった。アルドとの温度差に気づいてしまったからだった。――くそぅ、アルドの人たらしめ。オレのこと、もっと好きになれよ!おまえ、純粋すぎてちょっとめんどくさいぞ!

◇◇◇
  
 二人が旅を始めて、半年くらいたった。
 アルドは三年近くかかって、ティカの元にたどりついたので、それくらいの月日は覚悟の上だった。しかし、好きという思いがふくらむにつれ、村についてからティカの魔法を解く=セックスと、自分で決めた縛りがつらかった。
 ティカは、いつも同じベッドに入ってきては、アルドの胸にぎゅっとすがりつくようにくっついて眠る。最近は、ふわふわの髪が自分に触れるだけで、心臓がばくばくと音を建てるようになった。

 ――季節は秋を迎え、二人は紅葉した森の中を進んだ。
 木漏れ日すら赤みを帯びている、赤や橙、黄、色づいた木々の間を行くティカの赤毛は、一段と輝いてみえた。同じ赤の中にあっても、彼だけは別格だった。
 落ち葉を踏みしめる、踊るような軽快な足音に、ティカが今を謳歌し、楽しんでいるのが伝わってきた。
 ティカが拾ったどんぐりを両手にこんもり持って、こちらに駆けて来る。――そんなに拾ってどうするんだよ。なんでいつもそんなにうれしそうなんだよ。かわいすぎるだろ。……ティカ、ティカ、ティカ。アルドの頭の中が、ティカの笑顔でいっぱいになっていく。
 思わず口から言葉がこぼれた。

「ティカ、愛してる。……ティカ、かわいい。好きだ。すごく好きだ」

 アルドはティカをぎゅっと抱き締めた。せっかく拾ったどんぐりが、ころころと転がっていく。ティカはあっけにとられながら、アルドの背中にそっと手をまわし、ぎゅっと抱きしめかえした。

「うん、オレもずっとアルドのとこ大好き。やっとオレに追い付いたな。ずいぶん待ったぜ」

 そう言うと、ティカはニカッと笑って指を鳴らした。―― ぱちん!
 
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