7 / 8
番外編 02 アルドの村
しおりを挟むぱちん!
アルドは、ティカと抱き合いながら、耳元でその音を聞いた。
周りの景色がぼんやりと混じりあったかと思えば、いきなり体がひゅんと引っ張られる感覚があった。とっさにアルドはきゅっと目をつぶった。
「いひひっ、着いたよ! アルドの村ー♪」
アルドが目を開くと、そこには懐かしい故郷の村が広がっていた。さっきまで森にいたのに夢かもと、アルドは目をごしごしとこすった。しかし、やっぱり村はそこにあった。
「アルドぉ、オレがなんなのか忘れてない?こう見えてもちゃんとした魔法使いなんだぜ?」
「えっ、うそ。じゃあ、なぜ半年も旅を?」
「アルドと一緒に、世界を見て歩きたかったんだ。あと、アルドにもっとオレを好きになってほしかった。すぐ村に着いたら、おまえの望む愛あるセックスにならねーだろ」
アルドは、ティカを気遣うつもりが、自分が気遣われていたことを知った。
「ティカ、ごめん。ありがとう!」
抱き合う二人に気がついた、村の人たちがどんどん集まってくる。
「あれ、アルドじゃないの?」
「旅から帰ったのか、そういや久しぶりだな」
「隣の子は誰かしら?」
「おまえら、よく見ろよ!二人の手、おそろいの指輪光ってんじゃん!アルドは指輪の相手を見つけたんだよ!」
「ほんとだー!やったな!」
じわじわと、みなのお祝いムードが盛り上がりつつある中、アルドとティカは体を離し、村人たちと向かいあった。
「……ただいま、今帰りました。こちらは指輪が会わせてくれた人、ティカです」
「はじめまして! オレ、ティカって言います。アルドの嫁ですー!よろしくお願いしますっ!」
ティカのいきなりの嫁宣言に、アルドも村の者も驚いた。すると、一人の少女が声をあげた。
「あなた男でしょ!男同士で結婚なんて、おかしいわ!」
さっきまでのあたたかい空気を切り裂くように、その言葉は全員の胸に刺さった。村人たちは、戸惑いながら顔を見合わせた。
アルドは、ティカをかばうように一歩前に出た。
「ミチル、きつい言葉はいけないよ。きっかけは指輪だけど、俺はちゃんとティカを愛してる……」
「オレもアルドを愛してるんだ。でも、確かに男同士は普通じゃないかもしれないね……」
二人の言葉に、村の少女――ミチルは、少し悔しそうな、傷ついたような表情をした。幼い恋心が、誰にも知られることなく、静かに散った。
気まずい沈黙を破るかのように、人の間をかきわけるようにして、長老が現れた。息の乱れから、彼が急いで駆けつけたのがわかった。
「……、アルド、よく帰ってきたな。おかえり。そちらが指輪の相手か。二人とも無事でよかった。やっぱり対の指輪があったのだな。ようやく出会えたのだな」
長老は、アルドとティカの手をとると、そこに輝く指輪に目をやった。赤と緑、色違いの石が入ったお揃いの指輪は、二人の指にしっかりと嵌まっていた。
「長老、ただいま!こいつはティカって言うんだ。詳しい話は、またあとで。父さんと母さん、どこにいるかな?」
急かすアルドに、長老は北の畑を指さした。銀色のすすきの穂が波のように揺れていた。
「今日は、北の畑で芋の収穫をしているはずだ。行ってくるといい」
アルドとティカは手をつないだ。自分たちを取り囲む村のみんなに軽く頭を下げ、人の輪から抜け出した。
「父さんたちに会ってくるよ!」
◇◇◇
アルドは、いきなり村に着いたことで、頭が十分に働かなかった。ティカがもっと村にしす馴染めるように、受け入れられる下地を作りたかった。
しかし、緑の髪を持つ者ばかりの村で、ティカの赤毛は異色で浮いてしまっていたし、ミチルの男同士発言でさらに、自分たちの関係を受け入れる者ばかりではないと気がついた。
この村は好きだけど、もっとティカの安心できる場所がいい。
芋畑への坂を登りながら、アルドは両親に対しても不安を感じていた。ティカを傷つけたくなかった。
「おーーーい!」
アルドは、芋畑の端に小さく見える人影に、声をかけた。
ほっかむりをした女性が腰を上げる。と、まっすぐにこちらに向かって駆けてきた。つまずきそうになって頭の手拭いが外れる。泣きそうな顔で、懸命に向かってくるのは母だった。
アルドも芋畑を走った。
畑の真ん中で、アルドは少し小さくなった母と、ぶつかるように抱き合った。
「アルド!無事でよかった!大きくなって!」
「ただいま母さん!元気にしてた?」
ティカは、アルドが母と再会を喜ぶのを見ながら、遠い昔に亡くなった自分の家族を思い出していた。そして、自分が今、たった一人なのを自覚した。
ゆっくり歩いてくる父に、アルドは手を振った。そして、そばにいる不安気な顔をしたティカを引き寄せて、腕の中にぎゅっと囲ってから、父に声をかけた。
「父さん、ただいま!手紙にも書いたけど、こいつが俺の結婚相手のティカ。俺、誰がなんと言っても、こいつと結婚するから!反対するなら村を出る!」
数年ぶりの息子の口から出る言葉に、両親は驚いた。息子の胸に収まる赤毛の少年が、顔をくしゃくしゃにして涙をこぼすのに、もっと驚いた。いったい彼に何があったのだろう。もしかして村で何か言われたのだろうか。
大人から見ると、アルドの姿は、怯えた子猫がしゃーしゃーと威嚇するようにしか見えなかったが、両親は、あの朴念仁な息子が、好きな相手を守ろうとしているのを、くすぐったいような気持ちで見つめた。
「アルド、久しぶりだな。そして、ティカくん、この村にようこそ」
「長旅疲れたでしょ。うちでゆっくり休んでね。あなたたちを歓迎するわ」
ティカは、初めて"ようこそ"と言ってもらえたことが、うれしくてまた泣いた。
アルドは、自分の両親がすんなりとティカを受け入れてくれたことが、ちょっと誇らしかった。
「父さん、母さん、まだ日が高いから、家建ててくるよ。北の森の空き地ってまだあるよね」
「テントなんて張らなくても、うちに泊まればいいのよ?」
「うん、ありがとう。夕方頃にそっちに行くね」
アルドとティカは、挨拶も早々に北の森に向かった。
すすきの銀色の波間を、赤と緑の頭がすいすいと泳いでいった。
32
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる