オレの番になって──異世界に行って愛猫の番にされる話

まめ

文字の大きさ
5 / 32
こんにちは異世界

05 水鏡

しおりを挟む

異世界三日目の朝、ネロは朝の散歩に、ぼくは裏の泉に頭を洗いに向かった。
泉のほとりに腰をおろし、水面に顔をよせる。風が凪いで、水鏡に自分の顔が映った。

「あれ?」

昨日あれだけもしゃもしゃだった髪は、さらさらのまっすぐな髪に戻っていた。
一晩寝るとリセットされるのかな。
まあいいや、へんてこ異世界ルールどんとこいだよ。

久しぶりに自分の顔を見た気がする。父は北方系イタリア人で、ぼくはその遺伝を強く受けたらしい。肌は真っ白、瞳は明るい緑、髪は麦わらのような薄茶色──色素が薄く、どこか儚げな顔立ちに、如何にも西洋の血が入ってますって感じのハーフで、細面の女顔だった。
子どもの頃から、人に注目されることが多く、変な大人に付きまとわれたことで、引っ込み思案な性格に人間不信が加わり、友達もできないまま、学生時代を送った。
やさしくしてくれる人はいた。でも、下心を持って近づいてくる人のほうが多かった。ぼくの中性的な顔立ちは、女性だけでなく、男性も惹き付ける。友達になれそうだと好意を抱いていた男性に、襲われそうになったこともあった。悲しかったのは、彼がぼくの容姿しか好きじゃなかったこと。揉めたときに、この陰気な性格を全否定され、友だちとしての好きすら木っ端微塵になった。
ぼくは、陰気で思い込みの激しい空っぽ人間ですよーだ。
 
卒業間近で、両親が事故死して、ひとりになったぼくは、頼る存在を亡くし、世の中の全てが怖かった。髪を黒く染め、焦げ茶色のカラーコンタクトを装着し、大きな黒縁メガネをかけて、本当の姿を隠して生きた。
そこまでして、ようやくほっとできたんだ。
だから、自分の顔はあまり好きじゃない。

異世界に転移したことで、オリーブグリーンに変わった髪を摘まむ。苔みたいな色、落ち着いた静かな色で好きだ。この世界には、他にはどんな髪色の人がいるのかな。猫はいるのかな?もしかして全ての猫がネロサイズ?
目の色も肌の色も薄いままだけど、いつか村か街に行って、この世界の人と交流してみたいと思った。もちろんネロと一緒に。

そんなことを考えながら、もう一度泉をのぞきこむ。
水に映ったぼくは、はっとするような明るい表情をしていた。照れくさくなって、ばしゃばしゃ顔を洗って立ち上がる。さあ、一日の始まりだ。

***

朝食用にりんごの皮をむいていると、ネロが帰ってきた。

「お帰り、ネロ。今朝はなにか見つけた?」

「がう!」

「へー、見つけたんだ。後でつれてってくれるかな?」

「がう!」

ぼくは、りんごをしゃりしゃり食べながら、ネロの口の中にも放り込む。このりんごは、あのつむじ風──ぼくの加護から生まれたりんご。すごく美味しいんだけど……、気のせいかな?途中で食べる用に少し持っていこう。

支度をして家を出ると、今日のネロは昨日の沼地とは反対に進んだ。
なんとなく覚えてる。そっちには、崖があったはず。どんな景色が見えるのか、期待してしまう。
 
森を抜けると、視界が一気に広がった。雲一つない青空と、ぼくが最初にいた草原があった。
ネロが走り出したので、つられてぼくも追いかける。全力で走ったのなんて何年ぶりだろう、わは!向かい風を体いっぱいに受けて、全身の筋肉を使って前に進む。心臓がどくんどくんと音をたてる。息があがっても、ぼくたちはどこまでも走れる気がした。
 
前方のネロが立ち止まり、ぼくも止まる。草原の端は崖になっていて、眼下にはまだ見ぬ景色が広がっていた。ぶわっと下から勢いよく風が吹き上げる。
点在する家々、小さな村や大きな街、それらをつなぐ広い街道、たなびく煙、人々の営み──
地平線の彼方には、光る海が見えた。

「わぁ、すごい!」

すごいとしか言えなかった。
ぼくたち以外の存在をまじまじとリアルに感じたし、それが想像より遥かに大きなスケールなことや、視界から入る情報の濁流に、ぼくは戸惑い、少し怖くなってしまった。この世界の人の前に出る勇気が、すこしだけ揺らいでしまった。
だって、そうでしょう。
住人がほんの一握りの小さな村がぽつぽつあって、穏やかに暮らしているのを想像していたのに、目につくのは、きちんと文化が発達した、勢いのある大きな村や街なんだから。
いきなり人の多い場所に行くのは、ハードルが高すぎる。
小さい村を選んで、地味な交流から始めよう。
どんな人がいるかもわからないから、まずは人に合わずに周りからうかがうだけにして、様子を見よう。

「ネロ、ぼくはこの世界の人となかよくできるかな?
少し……いや、ほんとうは、すごく怖い。でも、ここで立ち止まったら、昔と同じだ。 
せっかく新しい世界に来たんだから、もう少し冒険してみたいんだ」

「がう……」

ネロが、ぼくの横にぴたりと寄り添って、長いしっぽを巻き付けてくれる。
ぼくは自分の鼻とネロの鼻をこつんと合わせて、金色の目を見つめた。
そうだよね、今は君がついてくれている。
ずっと一緒にいてなんて言えないよ、ネロは猫だもん。いつか可愛い猫と恋をするだろうし、お嫁さんが出来てどこかに行っちゃうかもしれない。
それまでぼくは頑張って、ひとりでもこの世界で生きていけるように準備をするよ。

もともと、ひとりで生きていくつもりだったんだから。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

強面龍人おじさんのツガイになりました。

いんげん
BL
ひょんな感じで、異世界の番の元にやってきた主人公。 番は、やくざの組長みたいな着物の男だった。 勘違いが爆誕しながら、まったり過ごしていたが、何やら妖しい展開に。 強面攻めが、受けに授乳します。

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

処理中です...