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こんにちは異世界
04 食料探し
しおりを挟む昨日と同様に、ネロの後をついて、森を歩く。
確信のあるしっかりした足取りで、目的地に向かって進む姿が頼もしい。異世界生活二日目にして、もうすでにネロにおまかせ状態のぼく。
ふかふかの毛並みに抱きしめられて、甘くなめられて。これ、人間だったら恋しちゃうなあと思った。
薄暗がりの藪を抜けて、湿地を歩いて、腰くらいまでの高さの草が生い茂る草原まで来ると、ネロは立ち止まった。
「がう!」
金色に輝く穂が、風で波のようにうねる。そこにはあるのは、収穫間近まで育った麦が一面に広がる光景だった。
「麦だ!ネロ、この世界にも麦あるんだねえ!
でも、いきなり麦が手に入っても、使い方がよくわかんないや。
ちょっともらって、家で考えようかな?」
ぼくは麦を両手にすくえる程度収穫し、カバンにしまった。乾燥した麦や小麦粉しか見たことがない。野菜のように生で流通しないのは、きっと生食に向いていないからだ。
「いつかパンを作ってみたいな。
ネロ、ここにまた連れて来てね」
「がう!」
***
ネロはさらに先に足を進め、ぼくたちは陰気な沼地へとたどり着いた。むんとこもった泥の匂いがする。中心部に集まっていた大きなトカゲたちが、ネロの姿に気づくと、慌てるようにのたのたと這いずって逃げていく。
「わお!あのトカゲたち水色だよ!ファンシーなワニみたいだね!」
ぼくが気をとられている間に、ネロは中心部にたどり着き、しっぽをぴんと立てて、こっちにこいと呼んだ。
「なに?なに?お魚?」
沼地に足を踏み入れる──ぬちゅ……ぬちゅ……体の重みで足が沈む。ネロの足も、ぼくのブーツも、泥だらけだ。
さっきまでトカゲたちが集まっていた場所には、無数のピンク色の卵があった。
ネロはその卵を鼻でつついてみせた。
もしかして、これを食べろと?
水色のトカゲの卵はピンク色。卵の中身は何色なんだろう。何色にしても、トカゲの卵に食欲はわきそうにない。でも……自分で鳥や獣をさばいて食べることを考えたら、卵はなんてお手軽なことか。貴重なタンパク質資源。
ぼく、トカゲの卵食べるよ。……ちょっと怖いけどさ。
「ネロ、この卵食べても大丈夫なんだよね?」
「がう!」
ネロは、ぺろりと舌なめずりした。これはお味見済みですね。
ぼくは、泥濘の中を注意深く歩きながら、トカゲの卵をいただいた。握りこぶしくらいあり、ずっしり重い。六つでカバンはいっぱいになった。
そろそろ帰ろう。だって、カバンが重いんだもん。
***
家への道でりんごの実る木を見つけ、そこで休憩をする。真っ赤に熟した果実をありがたくもぎとった。
異世界で"初めての食事"はりんごになった。
甘くて酸味が爽やかでジューシー、なによりおなかにやさしくて最高だ。ネロもしゃぐしゃぐと、夢中で食べている。
さっきまで、ぼくは今日も明日も不気味なトカゲの卵で食いつなぐつもりだったので、このりんごには歓喜した。
「りんごの木さん、ありがとうございます。
ぼくの食生活が救済されました。
またもらいに来ます。よろしくね」
心からの感謝をこめて、柏手をパン!パン!と打った――その瞬間。
ぱん、という手の音に、ふんわり風が立った。ぼくの両手のひらから、あたたかくて軽い空気が湧きあがる。
小さなつむじ風になったそれは、ぼくの頭をもしゃもしゃにかきまわしてから、ひゅっとりんごの木へと飛んでいった。
「えっ?」
風が吹き込んだ場所から、白い花がぱっと咲く。そのまま、ぐんぐんふくらんで……瞬きするうちに、赤い果実がたわわに実る。
「はわわー!髪の毛がー!……今のなに?」
目の前で、本当にりんごがいっぱい実った。枝という枝が重たげにしなり、甘い香りがふわっとあたりに広がる。
ネロは不思議そうに「……がう?」と首をかしげているけど、たぶんこれ、偶然じゃない。柏手を打ったとき、確かに何かが起きた。
「これって……神様にもらった加護……?りんごがいっぱい実る加護?え、えっ……!」
だけど冷静に考えると、おかしなことばかりだ。なんで柏手?なんでつむじ風?なんでぼくの頭、ぐっちゃぐちゃに?
もしかして、このもしゃもしゃ頭に、なにか……すごい秘密が……?
「おかしいよ!異世界!」
けれどりんごは、間違いなくぼくに味方してくれている。
ありがたく、たくさんもがせてもらって、ぼくの腕の中はりんごでいっぱい。胸の中は、へんてこな新生活へのわくわくでいっぱいだった。
帰り道、ぼくの腕の中はりんごでいっぱい。胸の中は、へんてこな新生活へのわくわくでいっぱいだった。
トカゲの卵が詰まった重いカバンは、ネロが首に下げてくれた。
***
家に帰って、鍋を引っ張りだし、備え付けられいた魔法のコンロで、トカゲのピンク色の卵を茹でる。ネロはぼくの後ろで、もしゃもしゃになった髪をなめ続けたが、よだれでさらにひどいことになった。
トカゲの卵の中身は、普通のニワトリの卵と同じ、外側が白、中が黄色だった。色が同じなだけで、すごく安心した。卵自体の味は普通だったけど、塩がないと結構つらい。ぱっさばさの黄身を食べ終えるのには、結構な水分を必要とした。ネロはというと、殻を剥いてやると、大きな口で丸のみした。きっと、口の中がぱっさばさになるのが嫌なんだと思った。
トカゲの卵、道具や調味料がそろったら、いろいろな料理に使ってみたいな。
それを手にいれるためには、他の人との交流が必要だ。村を探さなくては。
塩!塩がほしい!
卵の後に、またりんごを食べる。めっちゃ美味しーい!――りんごのおかげで、少し心の余裕が出来たぼくは、おなかがふくれて眠くなった。
ベッドには、ネロがスタンバイして待っている。頭はもしゃもしゃのままだけど、今日はこのまま寝るっ!
両前足の間に抱き枕みたいに抱えられ、ほっぺたをざりざりなめられて、眠りにつく。一昨日までは、ネロがぼくに抱えられていたのに、今では立場が逆転してる。
おやすみ、ネロ。
よい夢を。
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