オレの番になって──異世界に行って愛猫の番にされる話

まめ

文字の大きさ
4 / 32
こんにちは異世界

04 食料探し

しおりを挟む

昨日と同様に、ネロの後をついて、森を歩く。
確信のあるしっかりした足取りで、目的地に向かって進む姿が頼もしい。異世界生活二日目にして、もうすでにネロにおまかせ状態のぼく。
ふかふかの毛並みに抱きしめられて、甘くなめられて。これ、人間だったら恋しちゃうなあと思った。

薄暗がりの藪を抜けて、湿地を歩いて、腰くらいまでの高さの草が生い茂る草原まで来ると、ネロは立ち止まった。

「がう!」

金色に輝く穂が、風で波のようにうねる。そこにはあるのは、収穫間近まで育った麦が一面に広がる光景だった。

「麦だ!ネロ、この世界にも麦あるんだねえ!
でも、いきなり麦が手に入っても、使い方がよくわかんないや。
ちょっともらって、家で考えようかな?」

ぼくは麦を両手にすくえる程度収穫し、カバンにしまった。乾燥した麦や小麦粉しか見たことがない。野菜のように生で流通しないのは、きっと生食に向いていないからだ。

「いつかパンを作ってみたいな。
ネロ、ここにまた連れて来てね」

「がう!」

***
 
ネロはさらに先に足を進め、ぼくたちは陰気な沼地へとたどり着いた。むんとこもった泥の匂いがする。中心部に集まっていた大きなトカゲたちが、ネロの姿に気づくと、慌てるようにのたのたと這いずって逃げていく。

「わお!あのトカゲたち水色だよ!ファンシーなワニみたいだね!」

ぼくが気をとられている間に、ネロは中心部にたどり着き、しっぽをぴんと立てて、こっちにこいと呼んだ。

「なに?なに?お魚?」

沼地に足を踏み入れる──ぬちゅ……ぬちゅ……体の重みで足が沈む。ネロの足も、ぼくのブーツも、泥だらけだ。
さっきまでトカゲたちが集まっていた場所には、無数のピンク色の卵があった。
ネロはその卵を鼻でつついてみせた。
もしかして、これを食べろと?

水色のトカゲの卵はピンク色。卵の中身は何色なんだろう。何色にしても、トカゲの卵に食欲はわきそうにない。でも……自分で鳥や獣をさばいて食べることを考えたら、卵はなんてお手軽なことか。貴重なタンパク質資源。
ぼく、トカゲの卵食べるよ。……ちょっと怖いけどさ。

「ネロ、この卵食べても大丈夫なんだよね?」

「がう!」

ネロは、ぺろりと舌なめずりした。これはお味見済みですね。
ぼくは、泥濘の中を注意深く歩きながら、トカゲの卵をいただいた。握りこぶしくらいあり、ずっしり重い。六つでカバンはいっぱいになった。
そろそろ帰ろう。だって、カバンが重いんだもん。

***
 
家への道でりんごの実る木を見つけ、そこで休憩をする。真っ赤に熟した果実をありがたくもぎとった。
異世界で"初めての食事"はりんごになった。
甘くて酸味が爽やかでジューシー、なによりおなかにやさしくて最高だ。ネロもしゃぐしゃぐと、夢中で食べている。
さっきまで、ぼくは今日も明日も不気味なトカゲの卵で食いつなぐつもりだったので、このりんごには歓喜した。

「りんごの木さん、ありがとうございます。
ぼくの食生活が救済されました。
またもらいに来ます。よろしくね」

心からの感謝をこめて、柏手をパン!パン!と打った――その瞬間。

ぱん、という手の音に、ふんわり風が立った。ぼくの両手のひらから、あたたかくて軽い空気が湧きあがる。
小さなつむじ風になったそれは、ぼくの頭をもしゃもしゃにかきまわしてから、ひゅっとりんごの木へと飛んでいった。

「えっ?」

風が吹き込んだ場所から、白い花がぱっと咲く。そのまま、ぐんぐんふくらんで……瞬きするうちに、赤い果実がたわわに実る。

「はわわー!髪の毛がー!……今のなに?」

目の前で、本当にりんごがいっぱい実った。枝という枝が重たげにしなり、甘い香りがふわっとあたりに広がる。
ネロは不思議そうに「……がう?」と首をかしげているけど、たぶんこれ、偶然じゃない。柏手を打ったとき、確かに何かが起きた。

「これって……神様にもらった加護……?りんごがいっぱい実る加護?え、えっ……!」

だけど冷静に考えると、おかしなことばかりだ。なんで柏手?なんでつむじ風?なんでぼくの頭、ぐっちゃぐちゃに?
もしかして、このもしゃもしゃ頭に、なにか……すごい秘密が……?

「おかしいよ!異世界!」

けれどりんごは、間違いなくぼくに味方してくれている。
ありがたく、たくさんもがせてもらって、ぼくの腕の中はりんごでいっぱい。胸の中は、へんてこな新生活へのわくわくでいっぱいだった。
帰り道、ぼくの腕の中はりんごでいっぱい。胸の中は、へんてこな新生活へのわくわくでいっぱいだった。
トカゲの卵が詰まった重いカバンは、ネロが首に下げてくれた。

***
 
家に帰って、鍋を引っ張りだし、備え付けられいた魔法のコンロで、トカゲのピンク色の卵を茹でる。ネロはぼくの後ろで、もしゃもしゃになった髪をなめ続けたが、よだれでさらにひどいことになった。
トカゲの卵の中身は、普通のニワトリの卵と同じ、外側が白、中が黄色だった。色が同じなだけで、すごく安心した。卵自体の味は普通だったけど、塩がないと結構つらい。ぱっさばさの黄身を食べ終えるのには、結構な水分を必要とした。ネロはというと、殻を剥いてやると、大きな口で丸のみした。きっと、口の中がぱっさばさになるのが嫌なんだと思った。
トカゲの卵、道具や調味料がそろったら、いろいろな料理に使ってみたいな。
それを手にいれるためには、他の人との交流が必要だ。村を探さなくては。
塩!塩がほしい!

卵の後に、またりんごを食べる。めっちゃ美味しーい!――りんごのおかげで、少し心の余裕が出来たぼくは、おなかがふくれて眠くなった。
ベッドには、ネロがスタンバイして待っている。頭はもしゃもしゃのままだけど、今日はこのまま寝るっ!
両前足の間に抱き枕みたいに抱えられ、ほっぺたをざりざりなめられて、眠りにつく。一昨日までは、ネロがぼくに抱えられていたのに、今では立場が逆転してる。

おやすみ、ネロ。
よい夢を。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

強面龍人おじさんのツガイになりました。

いんげん
BL
ひょんな感じで、異世界の番の元にやってきた主人公。 番は、やくざの組長みたいな着物の男だった。 勘違いが爆誕しながら、まったり過ごしていたが、何やら妖しい展開に。 強面攻めが、受けに授乳します。

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

処理中です...