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こんにちは異世界
07 トマトの木
しおりを挟む崖から見下ろした世界は、ぼくの高まった冒険心を削ぐのに十分な迫力があった。
警戒心もなしに、のんきに下界に足を運ばなかったことは、むしろ幸運だと思えた。
ずっとここから動かないつもりはないけど、すぐ動かなくてはならない訳でもない。本棚の本を読んだり、もっと森の奥まで足を進めたり、もっとのんびりしてもいいんだ。
ぼくの加護についても、もっと知っておいたほうがいい。毎日楽しいことばかりで、ちょっと浮かれていたんだな。
「ネロ、今日はまだ下には降りないでおくよ。あとはどこを探検しようか?」
「がう!」
ネロはくるりと下界に背を向け、たったと歩き出す。彼はきれいな景色を見せたかっただけで、他意はないみたいだ。きっとぼくが考えすぎなんだな。
次に案内してくれたのは、赤い実のなる木。大木に絡みつくツル状の植物から、トマトのような赤い実がいくつもぶら下がっている。葉っぱの形もトマトのそれだ。
ネロは赤い実をぱくりと食べてみせると、ぼくにも一つくわえてくる。
「ネロはなんでも食べちゃうね。おなか大丈夫?」
「がう!」
自慢気に大きくうなずくと、また赤い実を食べるネロ。ぼくも一口齧ってみる。あ!ちゃんとトマトの味がする!
塩がなくても、トマトの酸味があれば、卵も食べやすくなるだろう。
たくさん収穫して、ことこと煮詰めたら、トマトソースだ。オムレツにトマトソースいいよね。
トマトの実をもぎながら、料理のことを考える。
昔はおなかに入ればなんでもいいって思ってたけど、今は美味しいって大事なことだなって思える。
カバンにトマトがいっぱいになると、ネロが首を差し出した。今日も荷物係をしてくれるらしい。ありがとう。
「さて、ネロ。このトマトの木に感謝を伝えたら、昨日みたいにまた実るんだろうか。実験だよ!」
ぼくはフードをかぶり、髪の毛がもしゃもしゃにならないように、しっかりと収めた。
次の日に直るにしても、鳥の巣みたいな頭はもうごめんだよ。
「トマトの木さん、ありがとうございます!
ぼくの食生活がまたひとつ救済されました。
またもらいに来ます。それまでお元気で!」
感謝をこめて、力強く柏手をパン!パン!と叩くと、両方の手のひらからあたたかい風がふんわりと出てくる。
二つの風はくるくると合わさると、小さなつむじ風になり舞い上がる。
風の勢いに、ばふん!とフードが外され、今日もぼくの髪はぐるぐる遊ばれる。そして、ぼくの頬をやさしく撫でるように包むと、つむじ風はトマトの木に吸い込まれていった。
つんと花びらが尖った黄色い花が無数に現れ、薄緑の実がどんどん膨らんでいくと、真っ赤に熟したトマトが木のあちこちから顔を出す。
「加護使えたよ……トマト出来ちゃった……」
ひとつもいで食べてみる――加護を使った実は、さきほどのトマトよりも美味しく感じた。
ネロの口にも入れてみる。美味しくなったよね?と聞くと、ぶんぶんと首を縦に振った。
ぼくの加護は、りんごだけじゃなくて植物全体に使えるものかもしれない。もしくは赤い実限定?
また後日、機会があったら試してみよう。今日はおしまい。
ぼくのかばんはトマトでいっぱいで、もう他の食べ物は入らないし、食べられないのに欲張るのはよくないから。
ネロがぼくに近づいて、頭をなめて髪の毛を整える。
今日は昨日ほどかき回されなかったので、すぐに直った。
さっきのやさしく頬を撫でられる感触を思い出す。あのつむじ風には、心があるように思った。
「さあ、家に帰ってトマトソースを作ろうか!今日の卵は、昨日よりもきっと美味しいよ!」
「がう!」
陽が傾き、空が金色に染まってきた。一日の終わりが近い。
ネロもぼくも金色の光に照らされて家路につく。
ポケットに入れたままになっていたりんごを、一緒にかじりながら。
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