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こんにちは異世界
08 雨の日
しおりを挟むネロに額をざりざりとなめられる感覚に、ぼんやりと意識が浮上する。
「んぅ……おはよう、ネロぉ。今日は朝の散歩しないのぉ?」
「がう」
ネロの視線の先、窓の外はしとしとと雨が降っていた。
こちらに来てから、初めての雨。ネロは濡れるのが嫌いだもんね。
ぼくはネロの前足に挟まったまま大きく伸びをしてから、彼の背中に両腕をまわした。ほんと大きくなったもんだ。横たわったネロは、成人男性と同じくらいのサイズがある。
拾ったばかりの頃は、上着のポケットに入るくらい小さかった。離れるのをいやがるので、しばらくはポケットの中に入れて家事をしていた記憶がある。
「いつもネロがぼくをなめてくれるので、今日はぼくがいっぱいなでなでするね♡」
ネロの頭の先から、しっぽの先まで、毛並みを整えるようにそっと撫でる。おっと、ぼくはネロのちんちんには触りませんからね。このまえはそんなとこまでなめられて恥ずかしかったぁ。
耳の後ろをこしょこしょと掻くととても気持ちよさそう。その部分の毛は他の毛よりも細く柔らかいので、触れるぼくも気持ちがいいのだ。
ぐるぐると喉を鳴らす音が聞こえる。ネロもご機嫌だね。今日は二度寝しちゃおっか。
ぼくはネロの胸に深く顔をうずめると、彼はぼくの頭の上に顎を乗せる。この位置関係はとてもしっくりして心地がいい。
ぐっすり眠って、次に起きたのは昼頃だった。
雨は上がり、窓越しに東の空にうっすらと虹が出ているのが見えた。
「わぁっ!虹が出てるよー!ネロは虹見たことある?」
ぼくの声にゆっくり目を開けたネロは、首をこてんとかたむけていつものグルーミングを始めた。虹はどうでもいいみたい。ぼくの頭をなめて、顔をなめて、首筋をなめる。そこから下もなめたそうだったけど、へんな気分になっちゃうから抱きついてごまかした。
そろそろ起きようか、おなかも空いてきたし。
ぼくはネロの前足から抜け出そうと体をよじらせるが、ネロは離すまいと後ろ足まで絡めてくる。あー、これは抜けるの無理。
「昔からネロは、ぼくと離れるのを嫌がったもんね。いつまでくっついたら満足するの?」
金色の瞳がきらんと光る、薄青い虹彩が瞬くようにちかちかする、ネロが、ぼくの目をじっとのぞき込む。「ずっと離さないぞ」って言われたような気がした。
***
ようやくベッドから抜け出たのは、西日が射す時間。
ぼくとネロは、何もしないということにおいて、実に一日を有意義に過ごした。こんなにぐだぐだ寝たの初めてかもしれない。
ぼくはりんごをかじりながら、卵焼きの準備をした。昨日トマトソースと合わせてみたら、思いのほか美味しかったのだ。
小枝で作った箸でいっぱいかき混ぜて、ふわふわにした卵液を鍋に入れる。そのまま蓋をして蒸し焼きにして、火が通ったら完成!
すっごい適当なんだけど、ゆでたまごに比べれば、ちゃんとした料理だよ。ネロも一緒に食べるから呼ばなくちゃ。
「ごはんだよー!」
窓の外に声をかけると、森の中からネロが走ってくる。存在感のある大きな黒い獣、躍動感ある動きがとてもかっこいい。思わず見惚れる。
今日のお土産は黄色い花。ネロがくれる花を小さな瓶にさして飾る。
一緒に卵料理を食べて、食後にりんごを食べて、おなかがふくれたらベッドに転がりながら読書。
家にある本は知らない文字で書かれていたけど、ぼくにも読むことができた。目に映すとじんわりと意味が頭に入ってくる感じ。
おかげで、この世界についての知識を蓄えることが出来た。
この本によると――今ぼくたちがいる場所は、”神の台座”と呼ばれる高台で、普通の人間は立ち入ることの出来ない場所。
崖下に見えるのは、ノーラ共和国。この前見たときにひときわ目立っていた大きな街が首都にあたる。
この国は奴隷制度を認めているので、人さらいが横行していて、街歩きには注意が必要。
この世界にりんごは存在しない。えっ?
神の果実とされている、幻の存在。へっ?
食べることで全てのステータスがアップし、叡智が宿ると言われている。
「──だってさ、ネロ。ぼくたちに叡智なんてあると思う?」
「がう?」
「だよねー!ないない!あはは!」
ぼくは、物を買うためのお金を稼ぐために、下の村に行ったらりんごを売るつもりだった。知らずに持って行ったら、やばいとこだった。
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