オレの番になって──異世界に行って愛猫の番にされる話

まめ

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こんにちは異世界

09 加護の正体

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あれから雨の日が続いたこともあり、ぼくとネロはとてものんびりと暮らしていた。昼過ぎまでだらだらと眠ったあの日が、ぼくの時計を"普通"に戻してくれた。
急いで何かをしなきゃいけないわけでもないし、神様から特別な使命を与えられているわけでもなかった。駆け足で異世界を冒険しなくても、きっと機会がやってくる。

今日は久しぶりの好天、ぼくとネロは、トマトとりんごを収穫に出かけた。
実ったトマトをもいで、感謝の言葉を伝えて柏手を打つと、両手からふわりと風がわいてくる。いつもは手を合わせたままだけど、今日は両手を離して、風の観察をする。
手を合わせないとつむじ風にならないようで、それぞれの手のひらの上に、小さな風の存在を感じる。ぼくはこの風と会話をしてみたいと思っているのだ。さて、勝手に語りかけるとしよう。

「こんにちは……この前、ぼくの髪をもしゃもしゃにしたのはなぜですか?」

「君たちに意思はないの?この前ぼくの頬をなでたとき、心があるような気がしたけど」

「お話は出来ないのかな?それともぼくの気のせい?」

すると、右手の風が、ぼくの髪をかき回し始めた。

「やっぱり心があるんだね。まだ幼いのかな?」

すると、左手の風がぼくの頬にふんわり触れた。

「ありがとう!やっぱり、そこにいるんだね。
ぼくはこの世界に来てまだ間もないから、君たちのような存在を、どう呼べばいいのかわからないんだ。 
君たちにお礼を言いたかったの。
美味しい果実をありがとう。おなかだけじゃなくて、心も満たされたんだよ。ここで頑張ろうって思えた。
これからもどうぞよろしく」

頭をかきまわす風がやんで、右手の上にかすかな重さを感じた。親指サイズの半透明の赤い少年が立っていた。

「……いたずらしてごめん。お礼言われたの初めて」

「もー、謝るくらいなら、最初からやらなけりゃいいのにさー」

左手の上に現れた、人差し指サイズの半透明の青い少年が、からかうように言った。

「あ!出てきてくれた!はじめまして!ぼく、周といいます」

「俺はライ」と、赤い少年。
「私はレフ」と、青い少年。

二人は、ぼくの世界の精霊や妖精にあたる存在かと思われた。ふわふわと風に揺れる髪と薄手の衣、手足がほっそりと長い華奢な体は、神秘的ですらあった。
でも、口を開くと普通の男の子みたいだ。そっちのほうが話しやすくて助かる。
髪がもしゃもしゃになるのは、加護を使うのに必要なことかと思っていたのに、ライのいたずらだったんだって。
おとなしく横で見ていたネロの目に、怒りの火がちらつくのがわかった。
ネロの鋭い歯がライに襲いかかる。バクッ!
一瞬ぎょっとしたけど、この攻撃は単なる脅しのようで、ライの横をかすめるだけだった。彼は驚いて手のひらの上で尻餅をついた。

「ビックリしたー!なにするんだよー!」

「がるるるる!」

「ネロやめてー!
ライ、この子はネロ。ぼくの大事な友だちだよ。
この前ぼくの頭をもしゃもしゃにしたでしょう。ネロは気にして、ぼくの頭を直そうとずっと頑張ってたんだ。
あとになって一晩たてば元通りになるのがわかったけど、あの時はもう髪を切るしかないかと思ったよ」

ぼくは、自分の髪をさわる。今日も派手にやってくれたものだ。ネロがぼくの頭をなめようと首を伸ばす。

「私が直しますー。私とライの風は逆向きなので、ライの行動をリセット出来るんです」

レフがふわりと浮かんで、ぼくの頭をかきまぜた。さっきのライと同じように感じたけど、こんがらがった髪の毛はみるみるほどけていった。

「がう!」

ネロの満足そうな声から、髪が直ったのがわかる。さわるとサラサラの直毛に戻っていた。

「わぁ!レフ、すごい!ありがとう!」

えへん!と胸を張るレフの横で、ライがほっぺたをふくらませる。

「うっ……いたずらしたのは俺が悪いけどさ……俺ともなかよくしてよ!」

「あははっ!もちろんだよ!」

みんなの楽しげな笑い声が、明るい森に響いた。
そのあとは、二人が生み出すつむじ風を観察しながら、トマトやりんごを実らせて収穫した。
帰り道で、ライとレフから話を聞き、彼ら――精霊について教えてもらう。
二人は神様の加護としてぼくに付けられた風の精霊で、今まで姿を現さなかった理由は信頼できるか見定めていたからなんだそうだ。今日ぼくが話しかけるのを聞いて正体を明かす気になったんだって。
ぼくには豊穣の加護があり、それを二人の風を介して対象に力を与える仕組みなのだそうだ。素晴らしい加護だけど、確かに欲深い者に悪用されたら、この森や精霊たちに危険が及ぶだろうし、世界のバランスが崩れるかもしれない。慎重になるのはあたりまえだ。

「ぼく、悪いことはしないと思うよ?平和に暮らせれば、満足だから」

そんな和やかな会話を交わすぼくたちに、まだ見えない気配が、静かに近づいていた。
その不穏な風は、遠く下界から吹いていた―― 


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