オレの番になって──異世界に行って愛猫の番にされる話

まめ

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首都

19 都へ

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雨が降り始めていた。
あれほど吹き荒れた風はぴたりと止み、森は死んだように静かになった。
動かない体を荷車の荷台に横たえたぼくとネロは、冷たい雨にうたれながら、都への道を揺られていた。
あのあと、うさぎ獣人の少女は、突然「目が見えなくなった!」と喚きながら隊列から外れ、踊るように森の奥に消えた。
少年の方は最初は意気高揚していたものの、焼け落ちた神の家やぐったりしたぼくとネロを目にして、自分のしたことに怯え始めているようだった。彼は、うさぎ獣人の少女があそこまで酷いことをするとは思っていなかったのだろう。
ぼくも少女の底知れぬ加虐心に、ただとまどうばかりだった。怖かった。

少しずつ体が動かせるようになり、ぼくは荷台を這いずってネロに寄り添った。ネロも首をこちらに向けた。今は抱きしめあうことも出来ないから、ただ体をくっつけた。
離ればなれにされる前に、彼に伝えておきたかった。

「……っ、かはっ、ごほっ……。ネロ……お別れかもしれない……君は猫で、ぼくは人間だけど――愛してる。これは告白だよ……」

ぼくは首を伸ばして、ネロの口元にキスをした。頑張って微笑んでみたけど、涙が頬を伝うのがわかった。
彼の金色の目が驚くように大きく見開かれ、ぽたりぽたりとまた涙がこぼれる。
ぼくたちの涙は、全て雨で洗い流されていった。
濡れた体から温度が失われていく。寒さに震えるうちに、ぼくの意識は深い闇に落ちていった――

***
 
目が覚めたとき、いつも隣にいたあのあたたかい存在は、どこにもいなかった。
簡素ではあるが清潔なベッド。小さなテーブル。椅子。最低限の家具がおかれた狭い部屋に、ぼくは一人寝かされていた。首を触ると首輪の感触があった。あの時のことはやっぱり夢じゃないんだ。
ゆっくり体を起こすと、こわばりはあるがもう動けるようになったのがわかった。
小さな窓の外は真っ暗で、夜のとばりが降りていた。

ぼくは両手を合わせ、ライとレフに呼びかけた。

「ライ、レフ、出てきて……」

目の前の空中に、ふわりと二人が姿を現した。
精霊たちとのつながりが切れていないことに、安堵の息が漏れた。

「二人にまた会えてうれしいよ」

「よう!周、めちゃくちゃ久しぶりだなー!」
「もう体は大丈夫ー?」

「ぼくはついさっき起きたばかりなんだ。けど、声も出るし体も動くようになったよ」

「それはよかったなー!」
「ずいぶん高熱が出てましたよ。心配しました」

「そうなんだ。心配させたね。ありがとう。
あの……ここはどこかな?ネロはどこにいるか知ってる?」

「ここは都の教会、高い塔の中だよ!アイツは教会の裏の家畜小屋にいる!」
「馬と一緒に荷車ひいてるよー。すごく暗い顔してるけど、体は元気だったー」

「ネロ、想像したよりずっと近くにいるんだね。酷い目に合わされてないといいんだけど。
ところでぼく、どれくらいの間眠っていたの?」

「「一ヶ月だよ!」」

「えっ?一ヶ月ー⁈そんなに長い間……。ずっと消息不明?ネロ、心配しただろうな……。
ぼくの言葉を伝えることは出来る?」

「うーん、アイツ加護がないから、周がそばにいないと俺たちが見えないんだよな」
「猫だから手紙も読めないよねー。
あっ!周の髪の毛を届けようか!生きてるのは伝わるんじゃない?」

とてもささやかな連絡だけど、なにもしないよりはマシだ。
ぼくは自分の髪の毛をひとすじ抜いて、蝶々結びを作った。おまじないみたいにネロへの思いをこめたキスをして、レフに渡した。

「こんなものでわかるかな?」

「届けてみるよー!」
「わからないようだったら、俺がネロの毛をもしゃもしゃにかきまわしてやる!」

「あは、よろしく頼んだよ」

精霊たちは夜の中に消えていき、急に部屋が静かになった。
彼らはぼくと異なる理の中に存在しているから、意思の疎通は出来ても、ちょっとずれてて無神経なところがある。でも、その空気を読まない明るさが、今のぼくにはとてもありがたかった。

立ち上がって、小さな窓から外を眺めた――塔にあるこの部屋は、かなり高い位置にあるらしい。
都の夜景が一望でき、遠くの海の上に揺れる、船の灯りまで見渡せた。

扉を開けようとしたが、鍵がかかっているのか、押しても引いても動かなかった。
幽閉というやつだろうか。
ここから簡単には出してもらえないかもしれない。
陽が昇ったら、話ができる誰かが来てくれることを祈ろう。

一ヶ月も眠っていたとは思えないほど、この部屋には人の手が入った形跡があった。ほこりも積もっていないし、テーブルの上にある水差しの水も、古いものではなかった。
静かだけど、放っておかれたわけでもないようだ。高熱のぼくを看病してくれた誰かが、確かにいたのだ。
ベッドの上で、ライとレフを待ちながら、ぼくは膝を抱えて小さく丸まっていた―― 
 

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