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4-②:通過儀礼
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「杉原君は……、桜花中出身?」
高校入学を機に駅前の書店でアルバイトを始めた智紀は、高校の先輩でもある天宅莉緒に唐突に問われた。
「……はい。そうです」
智紀の返事に、尋ねた当の本人は興味を失くしたように本の整理を始めた。
(何だ……?)
バイトの先輩でもある莉緒を無下にも出来ず、暫く飄々としたその横顔を眺めたが、観念して智紀も作業に戻った。
すると、「朝倉修一って人、知ってる?」と透かさず、けれど飽くまで軽い口調で次の質問を投げてきた。
(あさくら……。何か聞き覚えのある名前だな……)
暫く考え込んでいた智紀は思い至って、「えェ……。名前だけは知っていますが、話したことはありません」(俺は……)と心の中で付け加え、答えた。
「……朝倉君って、中学の頃から『自分には既に心を占める人がいるから』って告白を断り続けてるって本当?」
不安気に視線を彷徨わせながら、最後に莉緒は真剣な眼差しを智紀に向けた。
「……そうみたいですね。俺の友人も世話になったお礼のチョコ(下心バレバレだが……)すら受け取って貰えなかったって言ってました」
『貰いたい人が既にいるから君から貰う訳にはいかない』
修一はそう告げて美咲のチョコを受け取らなかった。当時美咲を慰めながら、受け取ってやれば良いのに……と不遜に思っていたが、久世に乞われるがまま受け入れ、結局傷付けてしまった俺とは大違いだと智紀は今になって思う。
「その朝倉君の想い人が実はまだ幼くて、その子が大人になるまで待ってるって噂なんだけど……」
莉緒の次の発言に、智紀は思考の中から引き戻された。
「……その噂は知りませんでした。つまり朝倉先輩は……、ロリコンって事ですか?」
莉緒には申し訳ないが、智紀はこの不毛な会話を終わらせたくて、敢えて修一を貶めるような言葉を使った。
「……」
莉緒は智紀のロリコン発言に明らかに表情を固まらせたが、直ぐさま取り繕って、「ロリコンは頂けないなァ……。友達に相談されたんだけど、やっぱりお勧めは出来ないよねェ……」と苦笑いを浮かべた。
智紀の目論見通り、莉緒はその言葉を最後に話を切り上げた。
(友達の話というのは体の良い逃げ口上で、こういった場合、大抵が自分の話だ。つまり、朝倉先輩のことが好きなのは天宅先輩自身なのだろう)
仕事に戻った莉緒を智紀は改めて眺めた。
(先輩も久世さんもどうして叶わない想いを抱き続けることが出来るんだ? 望まなければ得られず苦しむことも無いのに……」
この会話を切っ掛けに、莉緒と仕事の話以外の事も話すようになり、その後、莉緒に誘われるがまま二人で出掛けることもしばしばあった。
先輩に告られた訳でもないし、第一先輩の好きな人は俺じゃない。だからこれは友人関係に過ぎないと智紀は解釈した。
その年の冬を待たずに朝倉修一は突然自主的に退学した。高校三年の大事な時季に、学年トップの成績である彼を引き止めようと教職員らは何度も説得を試みた。だが修一は頑なにそれを聞き入れず、今は精気を失った幼馴染みの傍に居ることを優先した。
修一のこの選択が影響したのか、智紀には計り知れないが、莉緒は修一が学校を去り、深々と冬が街を覆う頃、思い詰めたように一度だけ躰の温もりを智紀に求めた。
互いに異性を知らない状態で、愛情の無いこの行為に智紀は肉欲に溺れることなく終始冷静であった。その為、莉緒が智紀を受け入れて、ささやかな絶頂を迎えると智紀は自らの手で扱いて達った。智紀が内で達くことを莉緒は望んでないように思えたからだ。
最後に、「やっぱり杉原君って少し朝倉君に似てる……。有難う。私の我儘に付き合ってくれて……」と何処か吹っ切れた様子で智紀にそう告げるとふんわり微笑んだ。
(……俺、先輩を傷付けて無いよなァ……)
濡れて輝くその瞳に、智紀は只々自分の行動を振り返っていた。
朝倉修一と一、二を争う才女だった天宅莉緒は地元を離れ、都内の国立女子大学に進学したと風の便りに知った。
高校入学を機に駅前の書店でアルバイトを始めた智紀は、高校の先輩でもある天宅莉緒に唐突に問われた。
「……はい。そうです」
智紀の返事に、尋ねた当の本人は興味を失くしたように本の整理を始めた。
(何だ……?)
バイトの先輩でもある莉緒を無下にも出来ず、暫く飄々としたその横顔を眺めたが、観念して智紀も作業に戻った。
すると、「朝倉修一って人、知ってる?」と透かさず、けれど飽くまで軽い口調で次の質問を投げてきた。
(あさくら……。何か聞き覚えのある名前だな……)
暫く考え込んでいた智紀は思い至って、「えェ……。名前だけは知っていますが、話したことはありません」(俺は……)と心の中で付け加え、答えた。
「……朝倉君って、中学の頃から『自分には既に心を占める人がいるから』って告白を断り続けてるって本当?」
不安気に視線を彷徨わせながら、最後に莉緒は真剣な眼差しを智紀に向けた。
「……そうみたいですね。俺の友人も世話になったお礼のチョコ(下心バレバレだが……)すら受け取って貰えなかったって言ってました」
『貰いたい人が既にいるから君から貰う訳にはいかない』
修一はそう告げて美咲のチョコを受け取らなかった。当時美咲を慰めながら、受け取ってやれば良いのに……と不遜に思っていたが、久世に乞われるがまま受け入れ、結局傷付けてしまった俺とは大違いだと智紀は今になって思う。
「その朝倉君の想い人が実はまだ幼くて、その子が大人になるまで待ってるって噂なんだけど……」
莉緒の次の発言に、智紀は思考の中から引き戻された。
「……その噂は知りませんでした。つまり朝倉先輩は……、ロリコンって事ですか?」
莉緒には申し訳ないが、智紀はこの不毛な会話を終わらせたくて、敢えて修一を貶めるような言葉を使った。
「……」
莉緒は智紀のロリコン発言に明らかに表情を固まらせたが、直ぐさま取り繕って、「ロリコンは頂けないなァ……。友達に相談されたんだけど、やっぱりお勧めは出来ないよねェ……」と苦笑いを浮かべた。
智紀の目論見通り、莉緒はその言葉を最後に話を切り上げた。
(友達の話というのは体の良い逃げ口上で、こういった場合、大抵が自分の話だ。つまり、朝倉先輩のことが好きなのは天宅先輩自身なのだろう)
仕事に戻った莉緒を智紀は改めて眺めた。
(先輩も久世さんもどうして叶わない想いを抱き続けることが出来るんだ? 望まなければ得られず苦しむことも無いのに……」
この会話を切っ掛けに、莉緒と仕事の話以外の事も話すようになり、その後、莉緒に誘われるがまま二人で出掛けることもしばしばあった。
先輩に告られた訳でもないし、第一先輩の好きな人は俺じゃない。だからこれは友人関係に過ぎないと智紀は解釈した。
その年の冬を待たずに朝倉修一は突然自主的に退学した。高校三年の大事な時季に、学年トップの成績である彼を引き止めようと教職員らは何度も説得を試みた。だが修一は頑なにそれを聞き入れず、今は精気を失った幼馴染みの傍に居ることを優先した。
修一のこの選択が影響したのか、智紀には計り知れないが、莉緒は修一が学校を去り、深々と冬が街を覆う頃、思い詰めたように一度だけ躰の温もりを智紀に求めた。
互いに異性を知らない状態で、愛情の無いこの行為に智紀は肉欲に溺れることなく終始冷静であった。その為、莉緒が智紀を受け入れて、ささやかな絶頂を迎えると智紀は自らの手で扱いて達った。智紀が内で達くことを莉緒は望んでないように思えたからだ。
最後に、「やっぱり杉原君って少し朝倉君に似てる……。有難う。私の我儘に付き合ってくれて……」と何処か吹っ切れた様子で智紀にそう告げるとふんわり微笑んだ。
(……俺、先輩を傷付けて無いよなァ……)
濡れて輝くその瞳に、智紀は只々自分の行動を振り返っていた。
朝倉修一と一、二を争う才女だった天宅莉緒は地元を離れ、都内の国立女子大学に進学したと風の便りに知った。
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