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4-①:交錯する心
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「智君さァ、同級生の有川君って知ってる?」
日曜の穏やかな昼下がり。杉原家のリビングで寛ぐ美咲が唐突に尋ねた。
薫がいた頃は美咲なりの遠慮があったのか、家に来るのを控えている節があった。だが、同じ杉立高校進学を機に再び我が物顔で入り浸っている。智紀は特別進学コースだが、件の彼も、普通科の美咲と違って、智紀と同じ課程らしい。
「……知らねェ」
智紀の素っ気無い返事に逡巡する美咲。そんな珍しく殊勝な様子の美咲に、「何だよ? 有川って奴とトラブったのか?」と結局無視出来ない智紀が先を促した。
「告られた」
美咲は抑揚の無い声で事実だけを述べた。予想外の返事に智紀は暫く言葉を失った。
「まァ……、有川がどんな奴か分かんねェが、咲が傷付いたら慰めてやる」
「……、そこは『打っ飛ばしてやる』じゃないの?」
唇を尖らせて美咲は不服そうに指摘する。
「平和主義な者で」
智紀は薄っぺらい笑みを浮かべてさらりと躱した。
「智兄。良いの?」
二人の会話を黙って聞いていた遥斗が、美咲が席を外したタイミングを見計らって口を出してきた。
「……」
智紀は遥斗の意図を測り兼ね、探るように見返した。
「どこの馬の骨だか分かんねェ奴と姉貴が付き合っても、智兄は平気なの?」
「どういう意味だ?」
「嫌……」
牽制するような口振りに、遥斗は思わず目を泳がせた。
「……、咲が誰と付き合おうと、それは咲の自由意志だ。俺がとやかく言う立場じゃねェ」
「……」
トイレから戻って来た美咲は、リビングに入る手前の廊下で二人の会話が聞こえてしまい、戻るタイミングを失っていた。
「気にならねェのかよ……」
遥斗は目を逸らしたまま不満気にボソリ呟いた。
美咲は有川樹の告白を受け入れ、高校卒業までのほぼ三年間、恋人関係にあった。その三年の間に、美咲は樹に対して躰を許すまでの信頼を築いていた。
日曜の穏やかな昼下がり。杉原家のリビングで寛ぐ美咲が唐突に尋ねた。
薫がいた頃は美咲なりの遠慮があったのか、家に来るのを控えている節があった。だが、同じ杉立高校進学を機に再び我が物顔で入り浸っている。智紀は特別進学コースだが、件の彼も、普通科の美咲と違って、智紀と同じ課程らしい。
「……知らねェ」
智紀の素っ気無い返事に逡巡する美咲。そんな珍しく殊勝な様子の美咲に、「何だよ? 有川って奴とトラブったのか?」と結局無視出来ない智紀が先を促した。
「告られた」
美咲は抑揚の無い声で事実だけを述べた。予想外の返事に智紀は暫く言葉を失った。
「まァ……、有川がどんな奴か分かんねェが、咲が傷付いたら慰めてやる」
「……、そこは『打っ飛ばしてやる』じゃないの?」
唇を尖らせて美咲は不服そうに指摘する。
「平和主義な者で」
智紀は薄っぺらい笑みを浮かべてさらりと躱した。
「智兄。良いの?」
二人の会話を黙って聞いていた遥斗が、美咲が席を外したタイミングを見計らって口を出してきた。
「……」
智紀は遥斗の意図を測り兼ね、探るように見返した。
「どこの馬の骨だか分かんねェ奴と姉貴が付き合っても、智兄は平気なの?」
「どういう意味だ?」
「嫌……」
牽制するような口振りに、遥斗は思わず目を泳がせた。
「……、咲が誰と付き合おうと、それは咲の自由意志だ。俺がとやかく言う立場じゃねェ」
「……」
トイレから戻って来た美咲は、リビングに入る手前の廊下で二人の会話が聞こえてしまい、戻るタイミングを失っていた。
「気にならねェのかよ……」
遥斗は目を逸らしたまま不満気にボソリ呟いた。
美咲は有川樹の告白を受け入れ、高校卒業までのほぼ三年間、恋人関係にあった。その三年の間に、美咲は樹に対して躰を許すまでの信頼を築いていた。
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