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3-③:失恋のススメ
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「お前、杉原智紀だな」
帰宅途中の通学路でランドセルを背負った少女に突然声を掛けられた。
「……」
腕を組んで仁王立ちする少女に請われ、智紀は困惑気味に付いて行く。少女は近くの空き地に入ると、ぽいと竹刀を投げて寄越し、智紀に決闘を申し込んだ。
(一体何がどうなっている……?)
隙の無い凛とした構えに、智紀は重なる人物をふと思い起こした。
「久世っ!! お前、こんな所で何やってんだ?」
緊迫した雰囲気に割って入ってきたのは遥斗だった。
「五月蠅い。芝野には関係無い」
少女は智紀に照準を合わせたまま言い放つ。
「関係なくない! 智兄に手ェ出す奴は俺が許さない!」
遥斗は彼女の照準に入り込んで智紀を庇った。
「……」
遥斗の行動にも驚いたが、智紀は「久世」と呼ばれた少女と自分との関係を推量し、「君は……、久世さんの妹?」と問い掛けた。
「……っ」
一瞬怯む様子を見せた少女の表情を見て、質問がそのまま答えだと確信した。
「お前はお姉ちゃんがどんなに傷付いてるか、知らないだろ?」
予想だにしなかったその発言に智紀は絶句した。
「……だからと言って、お前に兄さんを傷付ける権利は無い」
言葉に詰まる智紀に代わって遥斗が擁護する。
「……、済まない……。お姉さんにも改めてちゃんと謝る……。今日の所はそれで許して貰えるかい?」
智紀は薫を傷付けた覚えなど毛頭無かったが、姉の為に行動を起こした彼女の言葉が嘘とも思えず、自分の行動が相手に苦痛を与えている可能性にゾッとした。
確かに一度だけ薫に断りも無く触れてしまったことがあった。二年の夏祭りの夜だ。花火の灯りに照らされ、静かに微笑んでいる薫の表情が、何処か頼りなげで儚く消えてしまいそうな焦燥感に襲われ、思わず確かめるように触れてしまった。どうしてそういう行動を採ってしまったのか今でも分からない。だが、その件は直ぐに謝った。
(……、久世さんに聞かないと分からないな……)
智紀は無意識に首を左右に振った。そしてふと最近一緒に通学していないことに気付いた。
(確か、クラブはもう引退してるよな……)
薫の妹の度を過ぎた行動が無ければ、自分は今こうして薫の心を慮ることが無かったのではないかと思い、そして実際今まで薫のことでこうして思い悩むことが無かったという事実に愕然とした……。
「……環奈。杉原君に喧嘩売ったんだって?」
父が自宅の敷地内に開いている道場で、姉妹が夕食前のルーティン・メニューをこなしていると突然薫がさらりと爆弾発言を落とした。
「……」
環奈は何も言えず、真っ赤になって俯く。そんな環奈の様子に、薫はぽんと環奈の頭に掌を乗せ、屈んで顔を覗き込むと、「……ありがと」そう告げて、「グッジョブ」とばかりに親指を立てた。
「……っ!!」
そんな姉の仕草に環奈は安心して、ふわりと笑顔を弾けさせると大好きな姉に力一杯抱き付いた。
(妹にまで心配かけるなんて、姉失格だなぁ)
初めて智紀に待ち伏せされ、そして腰を深く曲げて謝る姿を目にして、単純に薫はこの想いはこの先も相手に届くことは無いんだと漠然と思い知った。
(今はまだ難しくても……、いつかきっとこの想いは温かく私の心を満たしてくれる……)
薫は一度も抱き締められなかった智紀の代わりに、一生懸命薫の腰に纏わり付いている無邪気な存在を今しっかりと抱き留めた。
目を伏せたまま口許だけで微笑む薫の姿はこの上なく美しかった。
帰宅途中の通学路でランドセルを背負った少女に突然声を掛けられた。
「……」
腕を組んで仁王立ちする少女に請われ、智紀は困惑気味に付いて行く。少女は近くの空き地に入ると、ぽいと竹刀を投げて寄越し、智紀に決闘を申し込んだ。
(一体何がどうなっている……?)
隙の無い凛とした構えに、智紀は重なる人物をふと思い起こした。
「久世っ!! お前、こんな所で何やってんだ?」
緊迫した雰囲気に割って入ってきたのは遥斗だった。
「五月蠅い。芝野には関係無い」
少女は智紀に照準を合わせたまま言い放つ。
「関係なくない! 智兄に手ェ出す奴は俺が許さない!」
遥斗は彼女の照準に入り込んで智紀を庇った。
「……」
遥斗の行動にも驚いたが、智紀は「久世」と呼ばれた少女と自分との関係を推量し、「君は……、久世さんの妹?」と問い掛けた。
「……っ」
一瞬怯む様子を見せた少女の表情を見て、質問がそのまま答えだと確信した。
「お前はお姉ちゃんがどんなに傷付いてるか、知らないだろ?」
予想だにしなかったその発言に智紀は絶句した。
「……だからと言って、お前に兄さんを傷付ける権利は無い」
言葉に詰まる智紀に代わって遥斗が擁護する。
「……、済まない……。お姉さんにも改めてちゃんと謝る……。今日の所はそれで許して貰えるかい?」
智紀は薫を傷付けた覚えなど毛頭無かったが、姉の為に行動を起こした彼女の言葉が嘘とも思えず、自分の行動が相手に苦痛を与えている可能性にゾッとした。
確かに一度だけ薫に断りも無く触れてしまったことがあった。二年の夏祭りの夜だ。花火の灯りに照らされ、静かに微笑んでいる薫の表情が、何処か頼りなげで儚く消えてしまいそうな焦燥感に襲われ、思わず確かめるように触れてしまった。どうしてそういう行動を採ってしまったのか今でも分からない。だが、その件は直ぐに謝った。
(……、久世さんに聞かないと分からないな……)
智紀は無意識に首を左右に振った。そしてふと最近一緒に通学していないことに気付いた。
(確か、クラブはもう引退してるよな……)
薫の妹の度を過ぎた行動が無ければ、自分は今こうして薫の心を慮ることが無かったのではないかと思い、そして実際今まで薫のことでこうして思い悩むことが無かったという事実に愕然とした……。
「……環奈。杉原君に喧嘩売ったんだって?」
父が自宅の敷地内に開いている道場で、姉妹が夕食前のルーティン・メニューをこなしていると突然薫がさらりと爆弾発言を落とした。
「……」
環奈は何も言えず、真っ赤になって俯く。そんな環奈の様子に、薫はぽんと環奈の頭に掌を乗せ、屈んで顔を覗き込むと、「……ありがと」そう告げて、「グッジョブ」とばかりに親指を立てた。
「……っ!!」
そんな姉の仕草に環奈は安心して、ふわりと笑顔を弾けさせると大好きな姉に力一杯抱き付いた。
(妹にまで心配かけるなんて、姉失格だなぁ)
初めて智紀に待ち伏せされ、そして腰を深く曲げて謝る姿を目にして、単純に薫はこの想いはこの先も相手に届くことは無いんだと漠然と思い知った。
(今はまだ難しくても……、いつかきっとこの想いは温かく私の心を満たしてくれる……)
薫は一度も抱き締められなかった智紀の代わりに、一生懸命薫の腰に纏わり付いている無邪気な存在を今しっかりと抱き留めた。
目を伏せたまま口許だけで微笑む薫の姿はこの上なく美しかった。
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