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3-②:友達以上恋人未満
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男の子を綺麗だと思ったのは、その時が初めてだった――。
久世薫はその日、日直当番だった為、朝練を早めに切り上げた。
「……」
冷え切ったコンクリート剝き出しの廊下には、自身が吐き出す白い息しか見えない。
(まだ誰もいないよね……)
薫は確認するように、ついと外から教室を覗いた。
「……っ!?」
そこには既に着席して静かに読書している男の子がいた。朝の清んだ空気の中、柔らかな日差しを受け、そこは輝いて見えた。
(……、杉原君だったかな……?)
二学期がもう直ぐ終わる頃だというのに、余り話したことが無いクラスメイト。今みたいにいつも読書しているので話し掛け辛いのだ。
(そうだ。いつもは芝ちゃんが杉原君の手を止めて……)
そこまで思い至って、薫の心臓がドクンと高鳴った。
(何で……)
ドクドクと鼓動が速まった自身に戸惑いながらも薫は教室の扉を開けた。
「……お早う」
先に挨拶をしたのは智紀の方だった。
「お早う……。杉原君、いつもこんなに早いの?」
「嫌、今日は父さんの出張に合わせて早起きしたから……」
「そっか……。凄いね。ちゃんと見送ってあげるんだ……」
「まァ、暫く帰って来ないからなァ……」
智紀は視線を逸らしてぽりぽりと人差し指で頬を掻いた。薫にはその仕草一つが新鮮で、もっと知りたいと欲が出た。そこへ――、「あれ? 杉原、早ェな……」と、もう一人の日直当番である日置彬が教室に入って来た。
「今日はたまたまだ。日直の仕事は手伝わねェぞ」
「マジか~~。チェッ」
大袈裟に頭を抱えるクラスメイトを尻目に、智紀は有るか無しかの微笑みを湛えて再び本に視線を落とした。
(やっぱり……)
ドキドキドキドキ、ドキドキドキドキ。薫はこの一件以来、智紀に恋をしていると自覚を持った。
今回、バレンタインチョコレートを美咲に託したのも、二人の仲を確かめたかったからだ。二人が相思相愛なら、薫の出る幕など無いと感じていた。そう思わせる程、二人の間には何か特別な絆があって、そこに誰かが入り込める場所など無いのだから。
しかし、智紀からの返事は予想を超えて真摯的なものだった。
「僕は誰かに何かを望むことが無いから……、久世さんの気持ちにどこまで応えられるか分からないけれど、君は僕に何をして欲しいの?」
「……っ私は只っ、只……、杉原君の傍に居たいだけ……」
薫は恥ずかしくて智紀の顔をまともに見られなかった。
「…………」
長い沈黙の後、「……分かった」とぽつり承諾の返事を受けた。
こうして晴れて薫は中学生活をほぼ智紀と共に過ごすことが出来た。智紀は従順に薫の望みを聞き入れてくれた。部活の無い日は一緒に通学してくれて、ランチも毎日一緒に食べてくれた。お願いすれば、試合の応援にも駆けつけてくれて、誕生日やクリスマスといったイベントにも付き合ってくれた。だが最初に宣言した通り、智紀が薫に何かを求めることは決して無かった……。
只一度だけ……、二年の夏休みに一緒に見に行った花火大会で、突然智紀が薫の唇に掠めるようなキスを落とした。
(今そんな甘い雰囲気だったっけ……?)
智紀のデレスイッチのタイミングがよく分からなかったが、薫はこの瞬間、二人は恋人同士になれたのだと歓喜した。だがそれ以降、二人の間に恋人らしい甘い行為は二度と無かった――。
(こんなの……、只の親しい友人関係じゃないか……。けど……、それさえ私が望まなければ、直ぐに解消されてしまう……。こんなに傍に居るのに……、杉原君を掴めない……)
薫はこの微妙な距離感を縮めることが出来ないままに卒業を迎えるに至った……。
高校はスポーツ推薦枠で県外の私立高校に決まり、春から寮生活になる。つまり中学を卒業すると二人は遠距離恋愛になる。しかし、二人の関係は果たして恋愛なのだろうかと薫は根本的な疑問にぶち当たった。
智紀に会いたい気持ちは薫には有る。けれど、物理的な距離を越えてくるだけの想いを智紀が持ち合わせているとは到底思えなかった。
(そろそろ潮時なのかな……)
そう思った瞬間、胸が締め付けられる痛みに襲われた。痛みに反応して涙がぼろぼろ零れ出す。
(こんなの……、辛過ぎる……)
心が悲鳴を挙げている……、薫にはその宥め方がまだ分からなかった……。
久世薫はその日、日直当番だった為、朝練を早めに切り上げた。
「……」
冷え切ったコンクリート剝き出しの廊下には、自身が吐き出す白い息しか見えない。
(まだ誰もいないよね……)
薫は確認するように、ついと外から教室を覗いた。
「……っ!?」
そこには既に着席して静かに読書している男の子がいた。朝の清んだ空気の中、柔らかな日差しを受け、そこは輝いて見えた。
(……、杉原君だったかな……?)
二学期がもう直ぐ終わる頃だというのに、余り話したことが無いクラスメイト。今みたいにいつも読書しているので話し掛け辛いのだ。
(そうだ。いつもは芝ちゃんが杉原君の手を止めて……)
そこまで思い至って、薫の心臓がドクンと高鳴った。
(何で……)
ドクドクと鼓動が速まった自身に戸惑いながらも薫は教室の扉を開けた。
「……お早う」
先に挨拶をしたのは智紀の方だった。
「お早う……。杉原君、いつもこんなに早いの?」
「嫌、今日は父さんの出張に合わせて早起きしたから……」
「そっか……。凄いね。ちゃんと見送ってあげるんだ……」
「まァ、暫く帰って来ないからなァ……」
智紀は視線を逸らしてぽりぽりと人差し指で頬を掻いた。薫にはその仕草一つが新鮮で、もっと知りたいと欲が出た。そこへ――、「あれ? 杉原、早ェな……」と、もう一人の日直当番である日置彬が教室に入って来た。
「今日はたまたまだ。日直の仕事は手伝わねェぞ」
「マジか~~。チェッ」
大袈裟に頭を抱えるクラスメイトを尻目に、智紀は有るか無しかの微笑みを湛えて再び本に視線を落とした。
(やっぱり……)
ドキドキドキドキ、ドキドキドキドキ。薫はこの一件以来、智紀に恋をしていると自覚を持った。
今回、バレンタインチョコレートを美咲に託したのも、二人の仲を確かめたかったからだ。二人が相思相愛なら、薫の出る幕など無いと感じていた。そう思わせる程、二人の間には何か特別な絆があって、そこに誰かが入り込める場所など無いのだから。
しかし、智紀からの返事は予想を超えて真摯的なものだった。
「僕は誰かに何かを望むことが無いから……、久世さんの気持ちにどこまで応えられるか分からないけれど、君は僕に何をして欲しいの?」
「……っ私は只っ、只……、杉原君の傍に居たいだけ……」
薫は恥ずかしくて智紀の顔をまともに見られなかった。
「…………」
長い沈黙の後、「……分かった」とぽつり承諾の返事を受けた。
こうして晴れて薫は中学生活をほぼ智紀と共に過ごすことが出来た。智紀は従順に薫の望みを聞き入れてくれた。部活の無い日は一緒に通学してくれて、ランチも毎日一緒に食べてくれた。お願いすれば、試合の応援にも駆けつけてくれて、誕生日やクリスマスといったイベントにも付き合ってくれた。だが最初に宣言した通り、智紀が薫に何かを求めることは決して無かった……。
只一度だけ……、二年の夏休みに一緒に見に行った花火大会で、突然智紀が薫の唇に掠めるようなキスを落とした。
(今そんな甘い雰囲気だったっけ……?)
智紀のデレスイッチのタイミングがよく分からなかったが、薫はこの瞬間、二人は恋人同士になれたのだと歓喜した。だがそれ以降、二人の間に恋人らしい甘い行為は二度と無かった――。
(こんなの……、只の親しい友人関係じゃないか……。けど……、それさえ私が望まなければ、直ぐに解消されてしまう……。こんなに傍に居るのに……、杉原君を掴めない……)
薫はこの微妙な距離感を縮めることが出来ないままに卒業を迎えるに至った……。
高校はスポーツ推薦枠で県外の私立高校に決まり、春から寮生活になる。つまり中学を卒業すると二人は遠距離恋愛になる。しかし、二人の関係は果たして恋愛なのだろうかと薫は根本的な疑問にぶち当たった。
智紀に会いたい気持ちは薫には有る。けれど、物理的な距離を越えてくるだけの想いを智紀が持ち合わせているとは到底思えなかった。
(そろそろ潮時なのかな……)
そう思った瞬間、胸が締め付けられる痛みに襲われた。痛みに反応して涙がぼろぼろ零れ出す。
(こんなの……、辛過ぎる……)
心が悲鳴を挙げている……、薫にはその宥め方がまだ分からなかった……。
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