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3-①:フォンダン・ショコラ
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「お願いっ!! 智君ならきっと出来るっ!」
美咲が両掌を合わせ拝んでいる。面倒な事を頼む時のお決まりのポーズだ。
「……」
昔と違って「嫌だ」とは即答しなくなった。それが無駄な事だと身に染みているからだ。
(ホンダ……、ショコラ……? ホンダさんが作ったチョコレートなのか?)
この春桜ヶ丘中学を卒業する先輩に手作りバレンタインチョコレートを渡したいとのこと。委員会で世話になったという先輩は智紀が知る限り美咲の初恋の人だ。
「ホンダチョコ、俺も食べたいっ!! 智兄、作って!」
遥斗が瞳をキラキラさせて美咲のお願いに乗っかってきた。
「フォンダン・ショコラ!!」
美咲が向きになって訂正する。
(……、子犬が二匹。止めろ、その瞳……)
成長と共に芝野家を余り訪れなくなった智紀に代わって、今度は美咲と遥斗が杉原家に入り浸るようになっていた……。
智紀は大きく溜息を吐き、「咲……。手伝ってやるから、お前が作れ」と観念したようにそう応じた……。
そういったやり取りが昨日、杉原家のキッチンを使ってフォンダン・ショコラなるものを作り上げ、その頃には父も帰宅しており、その日の夕飯は失敗作を食すことになり、完成品は丁寧にラッピングされ、本日渡す手筈だったのだが……、昨晩待ちくたびれて寝てしまった遥斗を背負いながら、「ありがとう」と笑顔を向けた美咲の表情を思い出し、智紀は憂鬱になった。
昨日慎重に包んだ正にその場所で、先輩の手に渡っている筈の品を置いて黙秘を続けている。
(参ったなぁ……)
今にも泣き出しそうな美咲を前にして、「何か飲むか?」としか聞けなかった。結局それがスイッチになってしまい、「ふっ……」とぼろぼろ涙が零れ出した。
(はあァ~~、勘弁してくれ……)
智紀は仕方なく以前したようにぽんぽんと優しく背中に手を添えた。美咲が落ち着くまで暫くそうしていると、「何か、裏山で穴に落ちた時の事、思い出した……」と美咲が徐に呟いた。
「……、そうか。あの時、智君は慰めてたんだね……」
「フフ……」と一人含み笑いをする美咲に、智紀はどうにも居心地が悪くなり、「それで、そのフォンダン・ショコラ、食べて良いのか?」と話を過去から現在に戻した。
「……そうだね。勿体ないから食べよう!」
そう宣言した美咲の瞳には最早食欲しか映っていなかった。
(切り換え早ェ……)
智紀は女子特有の割り切り方に感心しつつ、結果そのフォンダン・ショコラはほぼ美咲のお腹の中に収まった。
「……っはい。これ、同じクラスの薫ちゃんから……、渡してって頼まれてたんだ」
帰り際玄関で思い出したように美咲がしれっと紙袋を押し付けた。
「かおちゃん……!?」
智紀は困惑し、顔を顰めた。
「……、剣道部のクール・ビューティー、久世薫。知ってるでしょ? 返事は直接伝えてね」
「…………」
眉間に皺を寄せ、固まっている智紀を見兼ねて、「……ったく、智君のその仏頂面が話し掛けにくい雰囲気を醸してんだよ。私は智君の受付窓口じゃないんだからね!」最後はビシッと厳しい言葉を投げ付け、美咲は杉原家を後にした。
「酷い言われようだな……」
智紀は自嘲気味に呟き、渡された紙袋を一瞥し、「はあァ~~」とうずくまって大きな溜息を漏らした。
昨夜玄関で美咲を見送った後、「可愛いなぁ……、美咲ちゃん。素直で明るくて……」そこまで言ってチラリと智紀に視線を移し、「お前ももう少し愛想が良ければなぁ……」と残念そうに呟いた父のことを思い出した。
(放っとけ。俺はもう何かに期待して努力するのはご免だ……)
昨夜は心の中でそう父に反論した。
(どうして放っておいてくれないんだ……)
智紀にとって誰かに想いを寄せられるという行為は迷惑でしかなかった……。
美咲が両掌を合わせ拝んでいる。面倒な事を頼む時のお決まりのポーズだ。
「……」
昔と違って「嫌だ」とは即答しなくなった。それが無駄な事だと身に染みているからだ。
(ホンダ……、ショコラ……? ホンダさんが作ったチョコレートなのか?)
この春桜ヶ丘中学を卒業する先輩に手作りバレンタインチョコレートを渡したいとのこと。委員会で世話になったという先輩は智紀が知る限り美咲の初恋の人だ。
「ホンダチョコ、俺も食べたいっ!! 智兄、作って!」
遥斗が瞳をキラキラさせて美咲のお願いに乗っかってきた。
「フォンダン・ショコラ!!」
美咲が向きになって訂正する。
(……、子犬が二匹。止めろ、その瞳……)
成長と共に芝野家を余り訪れなくなった智紀に代わって、今度は美咲と遥斗が杉原家に入り浸るようになっていた……。
智紀は大きく溜息を吐き、「咲……。手伝ってやるから、お前が作れ」と観念したようにそう応じた……。
そういったやり取りが昨日、杉原家のキッチンを使ってフォンダン・ショコラなるものを作り上げ、その頃には父も帰宅しており、その日の夕飯は失敗作を食すことになり、完成品は丁寧にラッピングされ、本日渡す手筈だったのだが……、昨晩待ちくたびれて寝てしまった遥斗を背負いながら、「ありがとう」と笑顔を向けた美咲の表情を思い出し、智紀は憂鬱になった。
昨日慎重に包んだ正にその場所で、先輩の手に渡っている筈の品を置いて黙秘を続けている。
(参ったなぁ……)
今にも泣き出しそうな美咲を前にして、「何か飲むか?」としか聞けなかった。結局それがスイッチになってしまい、「ふっ……」とぼろぼろ涙が零れ出した。
(はあァ~~、勘弁してくれ……)
智紀は仕方なく以前したようにぽんぽんと優しく背中に手を添えた。美咲が落ち着くまで暫くそうしていると、「何か、裏山で穴に落ちた時の事、思い出した……」と美咲が徐に呟いた。
「……、そうか。あの時、智君は慰めてたんだね……」
「フフ……」と一人含み笑いをする美咲に、智紀はどうにも居心地が悪くなり、「それで、そのフォンダン・ショコラ、食べて良いのか?」と話を過去から現在に戻した。
「……そうだね。勿体ないから食べよう!」
そう宣言した美咲の瞳には最早食欲しか映っていなかった。
(切り換え早ェ……)
智紀は女子特有の割り切り方に感心しつつ、結果そのフォンダン・ショコラはほぼ美咲のお腹の中に収まった。
「……っはい。これ、同じクラスの薫ちゃんから……、渡してって頼まれてたんだ」
帰り際玄関で思い出したように美咲がしれっと紙袋を押し付けた。
「かおちゃん……!?」
智紀は困惑し、顔を顰めた。
「……、剣道部のクール・ビューティー、久世薫。知ってるでしょ? 返事は直接伝えてね」
「…………」
眉間に皺を寄せ、固まっている智紀を見兼ねて、「……ったく、智君のその仏頂面が話し掛けにくい雰囲気を醸してんだよ。私は智君の受付窓口じゃないんだからね!」最後はビシッと厳しい言葉を投げ付け、美咲は杉原家を後にした。
「酷い言われようだな……」
智紀は自嘲気味に呟き、渡された紙袋を一瞥し、「はあァ~~」とうずくまって大きな溜息を漏らした。
昨夜玄関で美咲を見送った後、「可愛いなぁ……、美咲ちゃん。素直で明るくて……」そこまで言ってチラリと智紀に視線を移し、「お前ももう少し愛想が良ければなぁ……」と残念そうに呟いた父のことを思い出した。
(放っとけ。俺はもう何かに期待して努力するのはご免だ……)
昨夜は心の中でそう父に反論した。
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