6 / 9
ケース4:橘 浩輝(ひろき)
しおりを挟む
橘浩輝が美緒の実の父親になる人物と出会ったのは、浩輝が親の期待を裏切って造形美術大学に進学し、会社の経営ではなく建築デザインを学んでいる頃だった――。
地元の小さな工務店だった橘組を大手ハウスメーカーと肩を並べる程に成長させたのは、浩輝の父の経営手腕に依るものだった。会社が大きくなった分、跡取りである浩輝の社会的責任も重く、だがしかし大工の棟梁であった祖父に憧れを抱く浩輝にとっては、経営陣のトップに君臨するよりも一介の建築士として現場に携わっていたかった。
その気持ちに正直に建築士を志した浩輝の夢の原点は、「理想の家」だった。浩輝が求める「理想の家」とは、その家に暮らす家族が自然と集まる空間を演出すること。そしてその浩輝の「理想の家」を具現化した人物が美緒の実の父である三浦諒という男だった……。
その家には、真ん中にリビングと書斎を兼ねたホールがあり、そこから二階へ続く階段が弧を描くように備え付けられ、そのまま円形に廊下が伸び、それぞれの個室に繋がっている。吹き抜けになっている為、二階の廊下のどこからでも階下のホールを見下ろせるようになっている。
(俺が描きたかった「理想の家」がここにある……)
学内のコンペで最優秀賞を受賞した諒の作品に、浩輝は衝撃を覚えた。その才能に魅了され、彼の前では劣等感を抱かずにはいられなかった……。
だが等身大の三浦諒という男は、その端整な顔立ちから受けるクールな印象を良い意味で覆す不器用なほど実直な人間で、その底意のない人柄にいつしか浩輝は掛け替えのない友として彼を慕うようになった。
彼のその恵まれた才能と容姿に加え、不幸な生い立ちから生じる「影」は、人を惹き付けて止まなかった。
だからこそ浩輝の婚約者が諒に好意を寄せたことも、なぜだかすんなり会得できた。
浩輝の婚約者であった都倉柚妃は代々市議会議員を輩出する家柄の娘で、家同士が祖父の代より懇意にしていたこともあって、お互い幼少の頃より顔見知りであった。妹のように思っていた柚妃を一人の女性として意識するようになったのは、柚妃が浩輝と同じ大学を選んで入学したことが切っ掛けであった。
しかし皮肉にもその大学で柚妃は運命の出会いを果たした。
純粋で危うい二人の恋は、都倉家の猛反対を受け、「真実の愛」に育ち、二人は駆け落ち同然の行為に出た。
浩輝はそんな二人を複雑な想いで見守り、出来得る限りの支援もした。
見捨てられなかったのは、浩輝にとって二人が真実大切な人だったからだ。二人共失いたくはなかった。二人が幸福ならそれで良いとさえ思っていた。
だが、諒が交通事故に遭い、あっけなく他界してから、勘当された身の上の柚妃に頼る縁もなく、身重の柚妃を丸ごと受け容れるつもりで浩輝は求婚した。
「同情は要らない」となけなしのプライドで拒んでいた柚妃であったが、世間知らずの自分には生活力が全くないと分かっていた。柚妃には、浩輝の好意に甘えるしか、お腹の子を抱え、生きる術がなかった。
しかし、そんな気遣いばかりの毎日は、知らず知らず柚妃の体躯を蝕んでいたのか、美緒を無事出産すると、まるで諒の後を追うようにそのまま息を引き取った。
浩輝は二人の忘れ形見である美緒をかたくなに手放さなかった。二人を失った喪失感は思った以上に大きく、罪のない赤子に縋るしか心の隙間を埋める術がなかった……。
(このまま美緒を手元に置いておくのは危険だ……)
浩輝は、美しく成長した血の繋がらない娘を前にして、男としての本性を抑える自信がもはや持てなくなっていた……。男も女も狂わせる……それ程の魔性を美緒は秘めていた――。
地元の小さな工務店だった橘組を大手ハウスメーカーと肩を並べる程に成長させたのは、浩輝の父の経営手腕に依るものだった。会社が大きくなった分、跡取りである浩輝の社会的責任も重く、だがしかし大工の棟梁であった祖父に憧れを抱く浩輝にとっては、経営陣のトップに君臨するよりも一介の建築士として現場に携わっていたかった。
その気持ちに正直に建築士を志した浩輝の夢の原点は、「理想の家」だった。浩輝が求める「理想の家」とは、その家に暮らす家族が自然と集まる空間を演出すること。そしてその浩輝の「理想の家」を具現化した人物が美緒の実の父である三浦諒という男だった……。
その家には、真ん中にリビングと書斎を兼ねたホールがあり、そこから二階へ続く階段が弧を描くように備え付けられ、そのまま円形に廊下が伸び、それぞれの個室に繋がっている。吹き抜けになっている為、二階の廊下のどこからでも階下のホールを見下ろせるようになっている。
(俺が描きたかった「理想の家」がここにある……)
学内のコンペで最優秀賞を受賞した諒の作品に、浩輝は衝撃を覚えた。その才能に魅了され、彼の前では劣等感を抱かずにはいられなかった……。
だが等身大の三浦諒という男は、その端整な顔立ちから受けるクールな印象を良い意味で覆す不器用なほど実直な人間で、その底意のない人柄にいつしか浩輝は掛け替えのない友として彼を慕うようになった。
彼のその恵まれた才能と容姿に加え、不幸な生い立ちから生じる「影」は、人を惹き付けて止まなかった。
だからこそ浩輝の婚約者が諒に好意を寄せたことも、なぜだかすんなり会得できた。
浩輝の婚約者であった都倉柚妃は代々市議会議員を輩出する家柄の娘で、家同士が祖父の代より懇意にしていたこともあって、お互い幼少の頃より顔見知りであった。妹のように思っていた柚妃を一人の女性として意識するようになったのは、柚妃が浩輝と同じ大学を選んで入学したことが切っ掛けであった。
しかし皮肉にもその大学で柚妃は運命の出会いを果たした。
純粋で危うい二人の恋は、都倉家の猛反対を受け、「真実の愛」に育ち、二人は駆け落ち同然の行為に出た。
浩輝はそんな二人を複雑な想いで見守り、出来得る限りの支援もした。
見捨てられなかったのは、浩輝にとって二人が真実大切な人だったからだ。二人共失いたくはなかった。二人が幸福ならそれで良いとさえ思っていた。
だが、諒が交通事故に遭い、あっけなく他界してから、勘当された身の上の柚妃に頼る縁もなく、身重の柚妃を丸ごと受け容れるつもりで浩輝は求婚した。
「同情は要らない」となけなしのプライドで拒んでいた柚妃であったが、世間知らずの自分には生活力が全くないと分かっていた。柚妃には、浩輝の好意に甘えるしか、お腹の子を抱え、生きる術がなかった。
しかし、そんな気遣いばかりの毎日は、知らず知らず柚妃の体躯を蝕んでいたのか、美緒を無事出産すると、まるで諒の後を追うようにそのまま息を引き取った。
浩輝は二人の忘れ形見である美緒をかたくなに手放さなかった。二人を失った喪失感は思った以上に大きく、罪のない赤子に縋るしか心の隙間を埋める術がなかった……。
(このまま美緒を手元に置いておくのは危険だ……)
浩輝は、美しく成長した血の繋がらない娘を前にして、男としての本性を抑える自信がもはや持てなくなっていた……。男も女も狂わせる……それ程の魔性を美緒は秘めていた――。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
真実の愛ならこれくらいできますわよね?
かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの
でもそれは裏切られてしまったわ・・・
夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。
ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる