5 / 9
ケース3:宮野 真生(まさき)
しおりを挟む
(あなたをこうしてまた取り戻せるなんて……)
美緒は傍らに眠る千鶴の無防備な寝顔を眺めながら、放り出された千鶴の手をそっと自身の掌で包んだ。
(どれほど心強いか……、千鶴には分からないでしょうね……)
あれから千鶴は悩んだ末、真生に相談した。今の千鶴にとって、ある意味信頼できる人間は真生しかいなかった。そして真生なら何か的確なアドバイスをくれるかもしれない(本人の意図とは別に……)、そんな期待もあった。
『帰りたくないなら、家に来ればいい』
事情を説明して、黙って聞いていた真生が返した答えがこれだった。
(やっぱりクールだ。宮野さん……)
真生の好意(?)に甘えて、美緒は真生の家に身を寄せることになった。そして週末には千鶴も泊まりに行った。
真生の実家は現在、家族三人で過ごした広い邸に母方の叔母が移り住んで、叔母はその広さを利用して邸に仕事部屋を構えていた。
ここだけの話、真生の叔母は少女漫画家で、宮野邸は叔母のスタッフや出版社の方で、大人の出入りが多かった。
共に演奏家である真生の両親は、初等部入学を機に真生を叔母に預け、生活基盤を海外に移していた。そうした家庭の事情と周囲が大人ばかりの環境もあって、真生は自立心が強く、歳よりも大人びた考え方をした……。
「真生が家に友達を連れてくるなんて……、初めてのことじゃない?」
叔母は嬉しさが隠せないように、頬を緩めて尋ねた。
「……、友達じゃないから」
真生はクールな表情一つ変えず、きっぱりと否定した。
「……? ……それで、友達でもないのにどうして家に連れてきたの?」
現在真生の親代わりである叔母の久條桜子は、真面目な表情して、諭すのではなく真意を確認した。
真生は言葉を選ぶように考え込んで、「私と……同じだと思ったの……」とぽつり答えた。
「同じ……」
桜子は言葉を飲み込むように復唱した。
「……親の身勝手な都合で振り回される被害者……」
真生は臆することなくはっきりと補足した。
「…………」
真生のその説明に、桜子は複雑な表情をして、「……分かった。だけど美緒ちゃんのご家族には一言連絡を入れさせてね……」そう応えてぎこちなく微笑んだ。桜子は一旦子供たちの意思を尊重して様子を観ることにした。加えて橘家からは何の抗議もなかった――。
美緒は傍らに眠る千鶴の無防備な寝顔を眺めながら、放り出された千鶴の手をそっと自身の掌で包んだ。
(どれほど心強いか……、千鶴には分からないでしょうね……)
あれから千鶴は悩んだ末、真生に相談した。今の千鶴にとって、ある意味信頼できる人間は真生しかいなかった。そして真生なら何か的確なアドバイスをくれるかもしれない(本人の意図とは別に……)、そんな期待もあった。
『帰りたくないなら、家に来ればいい』
事情を説明して、黙って聞いていた真生が返した答えがこれだった。
(やっぱりクールだ。宮野さん……)
真生の好意(?)に甘えて、美緒は真生の家に身を寄せることになった。そして週末には千鶴も泊まりに行った。
真生の実家は現在、家族三人で過ごした広い邸に母方の叔母が移り住んで、叔母はその広さを利用して邸に仕事部屋を構えていた。
ここだけの話、真生の叔母は少女漫画家で、宮野邸は叔母のスタッフや出版社の方で、大人の出入りが多かった。
共に演奏家である真生の両親は、初等部入学を機に真生を叔母に預け、生活基盤を海外に移していた。そうした家庭の事情と周囲が大人ばかりの環境もあって、真生は自立心が強く、歳よりも大人びた考え方をした……。
「真生が家に友達を連れてくるなんて……、初めてのことじゃない?」
叔母は嬉しさが隠せないように、頬を緩めて尋ねた。
「……、友達じゃないから」
真生はクールな表情一つ変えず、きっぱりと否定した。
「……? ……それで、友達でもないのにどうして家に連れてきたの?」
現在真生の親代わりである叔母の久條桜子は、真面目な表情して、諭すのではなく真意を確認した。
真生は言葉を選ぶように考え込んで、「私と……同じだと思ったの……」とぽつり答えた。
「同じ……」
桜子は言葉を飲み込むように復唱した。
「……親の身勝手な都合で振り回される被害者……」
真生は臆することなくはっきりと補足した。
「…………」
真生のその説明に、桜子は複雑な表情をして、「……分かった。だけど美緒ちゃんのご家族には一言連絡を入れさせてね……」そう応えてぎこちなく微笑んだ。桜子は一旦子供たちの意思を尊重して様子を観ることにした。加えて橘家からは何の抗議もなかった――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる