教室の中の偏執狂

チギラ アキ

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ケース3:宮野 真生(まさき)

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(あなたをこうしてまた取り戻せるなんて……)

 美緒はかたわらに眠る千鶴の無防備な寝顔を眺めながら、放り出された千鶴の手をそっと自身のてのひらで包んだ。

(どれほど心強いか……、千鶴には分からないでしょうね……)

 あれから千鶴は悩んだ末、真生まさきに相談した。今の千鶴にとって、ある意味信頼できる人間は真生まさきしかいなかった。そして真生まさきなら何か的確なアドバイスをくれるかもしれない(本人の意図とは別に……)、そんな期待もあった。

『帰りたくないなら、うちに来ればいい』

 事情を説明して、黙って聞いていた真生まさきが返した答えがこれだった。

(やっぱりクールだ。宮野さん……)

 真生まさきの好意(?)に甘えて、美緒は真生まさきの家に身を寄せることになった。そして週末には千鶴も泊まりに行った。

 真生まさきの実家は現在、家族三人で過ごした広いやしきに母方の叔母が移り住んで、叔母はその広さを利用していえに仕事部屋を構えていた。

 ここだけの話、真生まさきの叔母は少女漫画家で、宮野邸は叔母のスタッフや出版社のかたで、大人の出入りが多かった。

 共に演奏家である真生まさきの両親は、初等部入学を機に真生まさきを叔母に預け、生活基盤を海外に移していた。そうした家庭の事情と周囲が大人ばかりの環境もあって、真生まさきは自立心が強く、歳よりも大人びた考え方をした……。

真生まさきが家に友達を連れてくるなんて……、初めてのことじゃない?」

 叔母は嬉しさが隠せないように、頬を緩めて尋ねた。

「……、友達じゃないから」

 真生まさきはクールな表情一つ変えず、きっぱりと否定した。

「……? ……それで、友達でもないのにどうして家に連れてきたの?」

 現在真生まさきの親代わりである叔母の久條桜子は、真面目な表情かおして、さとすのではなく真意を確認した。

 真生まさきは言葉を選ぶように考え込んで、「私と……同じだと思ったの……」とぽつり答えた。

「同じ……」

 桜子は言葉を飲み込むように復唱した。

「……親の身勝手な都合で振り回される被害者……」

 真生まさきは臆することなくはっきりと補足した。

「…………」

 真生まさきのその説明に、桜子は複雑な表情かおをして、「……分かった。だけど美緒ちゃんのご家族には一言連絡を入れさせてね……」そう応えてぎこちなく微笑んだ。桜子は一旦子供たちの意思を尊重して様子をることにした。加えて橘家からは何の抗議もなかった――。
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