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Ⅱ 鳴動篇
秘話2:異母兄弟
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タタラ場での地位を確立し、やっと、安穏とした日々の暮らしに慣れてきた頃、過去からの使者が不穏を連れてやって来た。
「兄さん。それ、本気で言ってるの?」
キビトの意外な譲歩に、クマリは顔を顰めた。
グウィン商会長の親書を携えて、タタラ場を訪れたのは、三人を買い叩いた奴隷商人セオドア・オッジ、その人であった。
「アレクセイ総督は、腹違いとはいえ、ノエルの実の兄だ。一目会いたいと願う気持ちを、俺たちが無碍には出来ないだろう‥‥」
キビトが諭すように告げるが、「罠に決まっている」とクマリは聞く耳を持たない。
「お前がいるのに、ノエルに手出しなど出来ないだろう。前・総督の二の舞になることを重々承知しているのではないか?」
「‥‥」
「それに、ノエルとの面会が叶うなら、奴隷制度を撤廃するとまで提示しているんだ」
クマリの眉間の皺が伸びてきた。
「グウィン商会長は、スグリを埋葬してくれた。俺たちは、この恩を返すべきだと思う。この機会に、墓参りをしようよ」
クマリは俯いたまま、首を縦に強く振った――。
バルサ総督との謁見は、様々な思惑の中、シャマルの首領とグウィン商会長の立会いの下、実現した。
アリョーシャは、仰々しい大広間を使わず、極私的な庭園のサロンに、三人を招いた。
「まず、私の個人的な願いを聞き入れてくれて、感謝する」
御年二十五歳の若き総督は、柔らかく相好を崩した。
銀髪をお河童に切り揃えたノエルは、確かに中性的な美しさを醸していた。
(私が奪った生命と再び邂逅しているようだな‥‥)
青灰色の瞳を眺めながら、総督は、絞首台で静かに死を待っていた少年を思い起こしていた。
「今回、こういった機会を設けたのは、歌姫の再来と謳われる、ノエルの歌声を、是非一度、聞かせてもらいたかったからだ。どうだろう? 一曲、お願いできないだろうか?」
どこか寂しげに微笑む総督が、何だか気の毒で、ノエルは思わずクマリを見た。
《好きにしな》
クマリは一瞥すると、無言で応えた。クマリの返事に、ノエルは勇んで立ち上がると、その場で一曲披露した。カナリヤのような、高く澄んだ声。
「‥‥っ」
総督は、思わず、頭を抱えるように、額に手を添えて俯いた。なぜなら、涙が零れ落ちるのを止められなかったからである。
(私は、こんなにも歌姫の歌声を愛していたのだな‥‥)
喪ってしまったものが、再び目の前に顕れ、アリョーシャの心は喜びに打ち震えた。
「困ったことがあれば、私を頼って構わない」
別れ際、総督は身分違いの弟を愛う言葉を与えた。
謁見後、その足で、グウィン商会長に連れてきてもらったスグリの墓石の前で、クマリは、バルサ市を出てから初めて、スグリの為の涙を流した。
閉じ込めていた、愛しさと会えない切なさ、淋しさ、そういった感情が、目の前の墓石に触れて、実感を伴って溢れてきてしまった。
(グリ‥‥、ごめんね。こんなところに一人、捨て置いてしまって‥‥。帰ろう‥‥。家族の元へ‥‥)
クマリは徐に墓石の一部を削り取った。そして、その石の欠片を、クマリは肌身離さず首から下げ、クマリの死後、その遺体と共に、一緒に埋葬された‥‥。
「兄さん。それ、本気で言ってるの?」
キビトの意外な譲歩に、クマリは顔を顰めた。
グウィン商会長の親書を携えて、タタラ場を訪れたのは、三人を買い叩いた奴隷商人セオドア・オッジ、その人であった。
「アレクセイ総督は、腹違いとはいえ、ノエルの実の兄だ。一目会いたいと願う気持ちを、俺たちが無碍には出来ないだろう‥‥」
キビトが諭すように告げるが、「罠に決まっている」とクマリは聞く耳を持たない。
「お前がいるのに、ノエルに手出しなど出来ないだろう。前・総督の二の舞になることを重々承知しているのではないか?」
「‥‥」
「それに、ノエルとの面会が叶うなら、奴隷制度を撤廃するとまで提示しているんだ」
クマリの眉間の皺が伸びてきた。
「グウィン商会長は、スグリを埋葬してくれた。俺たちは、この恩を返すべきだと思う。この機会に、墓参りをしようよ」
クマリは俯いたまま、首を縦に強く振った――。
バルサ総督との謁見は、様々な思惑の中、シャマルの首領とグウィン商会長の立会いの下、実現した。
アリョーシャは、仰々しい大広間を使わず、極私的な庭園のサロンに、三人を招いた。
「まず、私の個人的な願いを聞き入れてくれて、感謝する」
御年二十五歳の若き総督は、柔らかく相好を崩した。
銀髪をお河童に切り揃えたノエルは、確かに中性的な美しさを醸していた。
(私が奪った生命と再び邂逅しているようだな‥‥)
青灰色の瞳を眺めながら、総督は、絞首台で静かに死を待っていた少年を思い起こしていた。
「今回、こういった機会を設けたのは、歌姫の再来と謳われる、ノエルの歌声を、是非一度、聞かせてもらいたかったからだ。どうだろう? 一曲、お願いできないだろうか?」
どこか寂しげに微笑む総督が、何だか気の毒で、ノエルは思わずクマリを見た。
《好きにしな》
クマリは一瞥すると、無言で応えた。クマリの返事に、ノエルは勇んで立ち上がると、その場で一曲披露した。カナリヤのような、高く澄んだ声。
「‥‥っ」
総督は、思わず、頭を抱えるように、額に手を添えて俯いた。なぜなら、涙が零れ落ちるのを止められなかったからである。
(私は、こんなにも歌姫の歌声を愛していたのだな‥‥)
喪ってしまったものが、再び目の前に顕れ、アリョーシャの心は喜びに打ち震えた。
「困ったことがあれば、私を頼って構わない」
別れ際、総督は身分違いの弟を愛う言葉を与えた。
謁見後、その足で、グウィン商会長に連れてきてもらったスグリの墓石の前で、クマリは、バルサ市を出てから初めて、スグリの為の涙を流した。
閉じ込めていた、愛しさと会えない切なさ、淋しさ、そういった感情が、目の前の墓石に触れて、実感を伴って溢れてきてしまった。
(グリ‥‥、ごめんね。こんなところに一人、捨て置いてしまって‥‥。帰ろう‥‥。家族の元へ‥‥)
クマリは徐に墓石の一部を削り取った。そして、その石の欠片を、クマリは肌身離さず首から下げ、クマリの死後、その遺体と共に、一緒に埋葬された‥‥。
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