家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎

文字の大きさ
18 / 54

7-1 踊る乙女①

しおりを挟む
 この一週間、北門はどこか落ち着いた雰囲気が漂っていた。いや、活気がなかったと言うべきか。従事している門番たちもどことなく大人しい。だが、それもあの男が帰ってくるまでのこと。

「ハッハー、神太郎様のお帰りだー! お前ら、元気だったか!?」

 神太郎が北門に現れると、同僚たちは皆その帰還を歓迎した。

「おー、戻ってきたな、神太郎」

「どうだ? 随分としごかれたんじゃないか?」

「よく一週間も持ったな。俺は三日で逃げ出すと思ってたぜ」

 快く彼を迎える笑顔の仲間たち。

 ……否、一人だけ違った。それは遠く執務室の窓からその様子を見下ろしているルメシア。生気を失ったジト目で彼を見つめていた。その心中は、何とも形容しがたいどず黒いもので満たされている。

 それは、神太郎が彼女に帰還の挨拶にやって来ても変わりはしなかった。

「おーい、帰ってきたぞ~、ルメシア。寂しがっていなかったか?」

 いつものように無作法に執務室に入ってくる神太郎。それだけで、彼の勤務態度更正が失敗に終わったと分からせてくれた。だが、今はそんなことはどうでもいい。窓の外を眺めているルメシアは、彼に一瞥もしなかった。神太郎も違和感を覚える。

「どうしたん?」

「……」

「ルメシア?」

「……」

「?」

「……」

「……」

 無視するルメシア。その胸中が素直に応えることを拒んでいたのだ。それに、この男に何て言うかも迷っている。

 彼女の中のどす黒いもの。それは勿論ユリーシャとのことだが、そのことを率直に口にするのははばかられる感じもする。見っともない嫉妬に思われるだろう。だから、ルメシアは言葉を慎重に選んでいた。

 そして決する。

「神太郎、貴方に言っておく……」

 彼女はやっと振り向き、神太郎を見た。いや、睨んだ。冷たい眼差しで。

 が……、

「あれ?」

 既にいなかった。待たせ過ぎたのか? しかし、だからとてここで去ってしまう彼は実に大物である。ルメシアは慌てるも、もう遅し。

「ちょっと神太郎? 神太郎ぉ!? 戻ってきなさーい!」

 結局その後、二人っきりになるタイミングは得られず、彼と話すことは出来なかったのであった。



 しかも悪いことに、翌日は二人とも休日だった。神太郎に会うことすら叶わない。住まいであるケルヴェイン公爵家の自室に篭るルメシアは、その悶々もんもんとした気持ちを膨らませていく。

 ソファに座って本を読みながら悶々……。

 庭先のガーデンテーブルで茶を嗜みながら悶々……。

 ベッドに寝転がって天井を眺めながら悶々……。

 鏡で自分の顔を見ながら悶々……。

 ルメシアは苦悩していた。納得出来なかったのだ。何故、たった一週間の付き合いのユリーシャが神太郎の家でお泊り出来たのか……。長い間上司だった自分は、家にすら行ったことがないのに。

 圧倒的敗北感。門番としての評価でも負け、そして神太郎との距離でも負けた。同じ衛長、同じ公爵令嬢なのに、この差は一体なんだというのだ。

「おかしい……。絶対おかしい」

 鏡の自分を見つめてぼやくルメシア。その不条理がとてつもなく憎らしかった。

 ……。

 ……。

 ……その末、

「しんたろぉ……」

 彼女はその怒りを張本人にぶつけることにした。



 平民が多く暮らす下町住宅街。その中にある二階建て賃貸住宅の上の階が、神太郎の住まいである。その家の前に、下町に相応しくない豪勢な馬車が止まった。車体にはケルヴェイン公爵家の紋章。下車したのはその令嬢ルメシア。彼女は御者に帰るよう命じると、二階への階段を上った。

 年頃の女性が一人で男性の家に臨む。淑女として大事に育てられてきた彼女にとっては、それは一世一代のイベントである。

「ふぅ……」

 玄関前で深呼吸をする淑女。胸の鼓動は高鳴り、羞恥心が引き返すことを望んでくる。しかし、どす黒いものを解消するにはこれしかない。

 少女は意を決すると、その戸を開く。

 そして、その目に入ってきたのは……、


 短鞭を持って悠々とベッドに腰掛けた神太郎と……、


 その前にしゃがんだ猫耳バンドと首輪を付けた少女だった。


「……」

「……」

「……」

 沈黙。

 硬直。

 三人は時間が止まったかのように見つめ合った。

 理解出来ない光景にルメシアは閉口し、予想外の来客に神太郎は閉口し、あまりの恥ずかしさに少女は閉口する。

 やがて、最初に動いたのは少女だった。彼女は神太郎から短鞭を奪い取ると、それで彼をしばく! しばく! しばく! しばく! しばく! しばく! しばく! しばく!

「ち、ちょっと待て、リエール! マジで誰も来る予定なかったんだよ!」

 神太郎の言い訳も通じず、彼女は顔を真っ赤にして殴り続ける。最後には、付けていた猫耳と首輪を投げ捨て、家を出て行ってしまった。

 取り残された二人はまた沈黙……。

 いや……、

「「おい、ちょっと!」」

 二人同時に相手を怒鳴った。そのまま、まずはルメシアから。

「今の女は誰よ? 何していたのよ!?」

「東門の同僚だよ。街で偶然会ったから遊んでたんだよ」

如何いかがわしいことをしようとしてたでしょう!」

「如何わしいのはお前だろうが、ルメシア!」

「っ!?」

 思い掛けない反論に、ルメシアは困惑。だが、神太郎の怒りは収まらない。

「まず、お前が代わりにその猫耳と首輪を付けろ。でなければ帰れ」

「はぁ!?」

「人の楽しみを邪魔した責任を取れ。責任を取れない上司なら、そんなものはいらない。俺は北門を辞める」

 冗談ではないと戸惑う美人上司。だが、神太郎の本気度も感じ取れた。彼は北門に固執していない。

 とにかく、ルメシアがここに来た目的は神太郎と話すことだ。そのためにも、ここはその条件を飲むべきだろう。

「く、屈辱……」

 彼女はそれらを手に取ると、渋々自ら付けるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...