23 / 54
8-3 S級暗殺者、最初の依頼③
しおりを挟む
翌日。兄弟は王国を囲む城壁の外にいた。この国の農地の大部分は外にあり、多くの農民は日が昇ると同時に城壁外に出て、日が沈む前に帰る生活を送っていた。今回の依頼者もその内の一人である。
「よく来てくれたね~。助かるわ~」
森に近い田畑の持ち主モネ婆さんは笑顔で彼らを歓迎した。頭に日差し避けの頭巾を被りながら、左手で鍬を持ち、右手で手拭いで汗を拭っている。見る限りどこにでもいる普通の農民だ。とても暗殺など物騒な依頼をしそうにはない。
「貴女が……モネ婆さん?」
「ええ、モネよ。マリィちゃんのところとは長い付き合いでね。ウチの野菜を卸しているの」
又四郎の怪訝な問いにも、彼女は笑顔で答える。
「……で、暗殺して欲しいのは?」
「ええ、それが困ったヤツでね。そろそろやってくるだろうから、隠れて隠れて」
そして、二人を手招きして一緒に近くの農小屋の中に隠れた。
「誰がやってくるんだ?」
「静かに」
質問も許されず。又四郎は渋々口を噤むと、大人しく身を潜め、壁の隙間から外を窺った。
一体誰が来るのか? 地上げのヤクザ? 傲慢な貴族? 他国の兵? 新米暗殺者は頭の中で様々な憶測を立て、その対応をシュミレーションする。誰が来ようとも必ず成功させる決意だ。
すると、それが現れた。
「ほら、来たよ」
モネ婆さんの小声に誘われて又四郎が見たのは、隣接する森の中から出てきた……猪。
猪だ。獣である。
予想外の標的に「はぁ!?」と声を荒げる又四郎。そんな彼にモネ婆さんが説明する。
「春頃から出没するようになってね。この辺りの畑を荒らすようになったんだよ。初めは夜だけだったんだけど、近頃は人間を恐れず昼間にまで出るようになってねー。困ったわ」
「婆さん、俺は猟師じゃないぞ」
「ただの獣じゃないわよ」
そう言われ改めて猪をよく見れば、確かに普通ではなかった。目つきは険しく、牙も鋭い。何より大きかった。カバほどの大きさの巨大猪である。
「こりゃ、軍隊の出番だろう」
「そうなのよ。何でもガーフボアとかいう魔獣らしくて、私たち農家じゃどうしようもなくて……。でも、お国は城壁の外のことまでは手が回らないらしくてねー」
神太郎のぼやきにモネ婆さんも困ったように頷いた。
辺りを警戒するそぶりも見せず堂々と畑の野菜を貪るガーフボアに、その様子を遠巻きから見ている農家たち。これは放っておくわけにはいかないだろう。
「うーむ、害獣駆除というやつか。思いの他、良識的な仕事内容で良かったな、又四郎」
暗殺なんてものは日陰者の仕事であるが、神太郎としては弟をこれ以上陰の者にしたくはない。こういう多くの人に感謝されることなら、兄も安心出来た。
されど、当人は違うよう。
「……違う」
「あん?」
「こんなの、違う。俺はこんなことを望んでいたんじゃない!」
やはり、彼の理想像からは掛け離れていたようだ。
「どうした? 弟よ。急に動物愛護に目覚めたのか?」
「俺は猟師なんかになりたくない!」
「猟師を馬鹿にするな。害獣駆除は立派な仕事だ。批判していたら、秋田県知事から熊を送りつけられるぞ」
「暗殺者になりたいんだよ! 誰からも恐れられて、誰からも尊敬されるカッコいい暗殺者にさ!」
「恐れられながら尊敬される?」
「そうだよ。強いて言うならマフィアのボスみたいな恐怖の象徴さ」
「何を言ってるんだ。告ることもビビッていた小心者がそんな大それたものになれるわけないだろう」
「うっ」
「いいか? 猟師も暗殺者も変わりはない。それどころか、ナイフ一本で殺せる人間より、銃も効かない巨大なモンスターを退治した方が喜ばれるものだ。モンスター退治……、モンスターハンターだ」
「何がモンスターハンターだよ! ゲームじゃあるまいし。………………モンスターハンター? ……モンスターハンター。………………それはそれでカッコいいかも」
「だろう? 今日のお前はモンスターハンターだ」
流石、兄である。彼は見事、弟にやる気を起こさせたのだった。一方で、その単純過ぎる脳みそに少し呆れてもいたが。
ともかく、乗り気になったことはいいことだ。
「よし行け、モンハン!」
「おう!」
そして神太郎の言葉に背を押され、新人モンスターハンターは初仕事に挑むのであった。
「よく来てくれたね~。助かるわ~」
森に近い田畑の持ち主モネ婆さんは笑顔で彼らを歓迎した。頭に日差し避けの頭巾を被りながら、左手で鍬を持ち、右手で手拭いで汗を拭っている。見る限りどこにでもいる普通の農民だ。とても暗殺など物騒な依頼をしそうにはない。
「貴女が……モネ婆さん?」
「ええ、モネよ。マリィちゃんのところとは長い付き合いでね。ウチの野菜を卸しているの」
又四郎の怪訝な問いにも、彼女は笑顔で答える。
「……で、暗殺して欲しいのは?」
「ええ、それが困ったヤツでね。そろそろやってくるだろうから、隠れて隠れて」
そして、二人を手招きして一緒に近くの農小屋の中に隠れた。
「誰がやってくるんだ?」
「静かに」
質問も許されず。又四郎は渋々口を噤むと、大人しく身を潜め、壁の隙間から外を窺った。
一体誰が来るのか? 地上げのヤクザ? 傲慢な貴族? 他国の兵? 新米暗殺者は頭の中で様々な憶測を立て、その対応をシュミレーションする。誰が来ようとも必ず成功させる決意だ。
すると、それが現れた。
「ほら、来たよ」
モネ婆さんの小声に誘われて又四郎が見たのは、隣接する森の中から出てきた……猪。
猪だ。獣である。
予想外の標的に「はぁ!?」と声を荒げる又四郎。そんな彼にモネ婆さんが説明する。
「春頃から出没するようになってね。この辺りの畑を荒らすようになったんだよ。初めは夜だけだったんだけど、近頃は人間を恐れず昼間にまで出るようになってねー。困ったわ」
「婆さん、俺は猟師じゃないぞ」
「ただの獣じゃないわよ」
そう言われ改めて猪をよく見れば、確かに普通ではなかった。目つきは険しく、牙も鋭い。何より大きかった。カバほどの大きさの巨大猪である。
「こりゃ、軍隊の出番だろう」
「そうなのよ。何でもガーフボアとかいう魔獣らしくて、私たち農家じゃどうしようもなくて……。でも、お国は城壁の外のことまでは手が回らないらしくてねー」
神太郎のぼやきにモネ婆さんも困ったように頷いた。
辺りを警戒するそぶりも見せず堂々と畑の野菜を貪るガーフボアに、その様子を遠巻きから見ている農家たち。これは放っておくわけにはいかないだろう。
「うーむ、害獣駆除というやつか。思いの他、良識的な仕事内容で良かったな、又四郎」
暗殺なんてものは日陰者の仕事であるが、神太郎としては弟をこれ以上陰の者にしたくはない。こういう多くの人に感謝されることなら、兄も安心出来た。
されど、当人は違うよう。
「……違う」
「あん?」
「こんなの、違う。俺はこんなことを望んでいたんじゃない!」
やはり、彼の理想像からは掛け離れていたようだ。
「どうした? 弟よ。急に動物愛護に目覚めたのか?」
「俺は猟師なんかになりたくない!」
「猟師を馬鹿にするな。害獣駆除は立派な仕事だ。批判していたら、秋田県知事から熊を送りつけられるぞ」
「暗殺者になりたいんだよ! 誰からも恐れられて、誰からも尊敬されるカッコいい暗殺者にさ!」
「恐れられながら尊敬される?」
「そうだよ。強いて言うならマフィアのボスみたいな恐怖の象徴さ」
「何を言ってるんだ。告ることもビビッていた小心者がそんな大それたものになれるわけないだろう」
「うっ」
「いいか? 猟師も暗殺者も変わりはない。それどころか、ナイフ一本で殺せる人間より、銃も効かない巨大なモンスターを退治した方が喜ばれるものだ。モンスター退治……、モンスターハンターだ」
「何がモンスターハンターだよ! ゲームじゃあるまいし。………………モンスターハンター? ……モンスターハンター。………………それはそれでカッコいいかも」
「だろう? 今日のお前はモンスターハンターだ」
流石、兄である。彼は見事、弟にやる気を起こさせたのだった。一方で、その単純過ぎる脳みそに少し呆れてもいたが。
ともかく、乗り気になったことはいいことだ。
「よし行け、モンハン!」
「おう!」
そして神太郎の言葉に背を押され、新人モンスターハンターは初仕事に挑むのであった。
28
あなたにおすすめの小説
Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる