家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎

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8-3 S級暗殺者、最初の依頼③

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 翌日。兄弟は王国を囲む城壁の外にいた。この国の農地の大部分は外にあり、多くの農民は日が昇ると同時に城壁外に出て、日が沈む前に帰る生活を送っていた。今回の依頼者もその内の一人である。

「よく来てくれたね~。助かるわ~」

 森に近い田畑の持ち主モネ婆さんは笑顔で彼らを歓迎した。頭に日差し避けの頭巾を被りながら、左手で鍬を持ち、右手で手拭いで汗を拭っている。見る限りどこにでもいる普通の農民だ。とても暗殺など物騒な依頼をしそうにはない。

「貴女が……モネ婆さん?」

「ええ、モネよ。マリィちゃんのところとは長い付き合いでね。ウチの野菜を卸しているの」

 又四郎の怪訝けげんな問いにも、彼女は笑顔で答える。

「……で、暗殺して欲しいのは?」

「ええ、それが困ったヤツでね。そろそろやってくるだろうから、隠れて隠れて」

 そして、二人を手招きして一緒に近くの農小屋の中に隠れた。

「誰がやってくるんだ?」

「静かに」

 質問も許されず。又四郎は渋々口をつぐむと、大人しく身を潜め、壁の隙間から外を窺った。

 一体誰が来るのか? 地上げのヤクザ? 傲慢ごうまんな貴族? 他国の兵? 新米暗殺者は頭の中で様々な憶測を立て、その対応をシュミレーションする。誰が来ようとも必ず成功させる決意だ。

 すると、それが現れた。

「ほら、来たよ」

 モネ婆さんの小声に誘われて又四郎が見たのは、隣接する森の中から出てきた……猪。

 猪だ。獣である。

 予想外の標的に「はぁ!?」と声を荒げる又四郎。そんな彼にモネ婆さんが説明する。

「春頃から出没するようになってね。この辺りの畑を荒らすようになったんだよ。初めは夜だけだったんだけど、近頃は人間を恐れず昼間にまで出るようになってねー。困ったわ」

「婆さん、俺は猟師じゃないぞ」

「ただの獣じゃないわよ」

 そう言われ改めて猪をよく見れば、確かに普通ではなかった。目つきは険しく、牙も鋭い。何より大きかった。カバほどの大きさの巨大猪である。

「こりゃ、軍隊の出番だろう」

「そうなのよ。何でもガーフボアとかいう魔獣らしくて、私たち農家じゃどうしようもなくて……。でも、お国は城壁の外のことまでは手が回らないらしくてねー」

 神太郎のぼやきにモネ婆さんも困ったように頷いた。

 辺りを警戒するそぶりも見せず堂々と畑の野菜を貪るガーフボアに、その様子を遠巻きから見ている農家たち。これは放っておくわけにはいかないだろう。

「うーむ、害獣駆除というやつか。思いの他、良識的な仕事内容で良かったな、又四郎」

 暗殺なんてものは日陰者の仕事であるが、神太郎としては弟をこれ以上陰の者にしたくはない。こういう多くの人に感謝されることなら、兄も安心出来た。

 されど、当人は違うよう。

「……違う」

「あん?」

「こんなの、違う。俺はこんなことを望んでいたんじゃない!」

 やはり、彼の理想像からは掛け離れていたようだ。

「どうした? 弟よ。急に動物愛護に目覚めたのか?」

「俺は猟師なんかになりたくない!」

「猟師を馬鹿にするな。害獣駆除は立派な仕事だ。批判していたら、秋田県知事から熊を送りつけられるぞ」

「暗殺者になりたいんだよ! 誰からも恐れられて、誰からも尊敬されるカッコいい暗殺者にさ!」

「恐れられながら尊敬される?」

「そうだよ。強いて言うならマフィアのボスみたいな恐怖の象徴さ」

「何を言ってるんだ。告ることもビビッていた小心者がそんな大それたものになれるわけないだろう」

「うっ」

「いいか? 猟師も暗殺者も変わりはない。それどころか、ナイフ一本で殺せる人間より、銃も効かない巨大なモンスターを退治した方が喜ばれるものだ。モンスター退治……、モンスターハンターだ」

「何がモンスターハンターだよ! ゲームじゃあるまいし。………………モンスターハンター? ……モンスターハンター。………………それはそれでカッコいいかも」

「だろう? 今日のお前はモンスターハンターだ」

 流石、兄である。彼は見事、弟にやる気を起こさせたのだった。一方で、その単純過ぎる脳みそに少し呆れてもいたが。

 ともかく、乗り気になったことはいいことだ。

「よし行け、モンハン!」

「おう!」

 そして神太郎の言葉に背を押され、新人モンスターハンターは初仕事に挑むのであった。
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