家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎

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9-5 王女殿下のお忍び旅行⑤

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「し、神太郎……」

 彼の登場にネクスタリアは勿論、マッソリーボンネも驚いている。この男も衝撃波で吹き飛ばしたはずだと。

 その神太郎が彼女に告げる。

「勘違いするなよ、ネクスタリア。俺はお前を助けに来たわけじゃない。お前にはキダイパンの借りがある。俺がされたように、目の前で跪かせてヒイヒイ泣かせてやるのは、この俺だからな」

 この期の及んで何を言ってるのだ? と、理解出来ないネクスタリアだったが、やはり声が出ないまま。

 一方、気を取り直したマッソリーボンネは、彼のその勇敢な行動を評価する。

「フン、あくまであるじを護るか。実に立派な心掛けだ、雑兵。しかし、貴様にそれが出来るか? 魔力を全く感じさせない雑魚の貴様に。名を聞こう」

「三好神太郎」

「三好? ……貴様、勇者の一族か」

 だが、その正体を知ると、魔族は途端に殺意をみなぎらせた。予想外の極上の獲物を見つけ、喜んでいたのだ。

「気が変わった。貴様も殺す。王女の首だけでなく、あの勇者一族の首まで献上すれば、魔軍七将の席は間違いない。世界中に俺の名が轟くだろう」

 改めて構える爪に、マッソリーボンネは全力を込める。

「せめてもの情けだ。一発で終わらせてやる」

「日の出まで時間がない。一発で終わらせてやる」

 互いが互いに全く同じ宣告すると、それは開始の合図となる。

 機先を制したのはマッソリーボンネ! 人間を遥かに超越した高速の突きが、神太郎の腹を完全に捉える。

 噴き出す血。飛び散る肉。その手から生み出される熱い感触が、魔族の本能をたぎらせ、笑みを浮かばせた。

 ………………尤も、その血肉が己のものだと気付くと、すぐにそれも消えるのだが。

「っ!?」

 確かに爪は当たっていた。神太郎の服も裂けていた。だが、腹は裂けていない。代わりに消えたのは、マッソリーボンネの手首から先。

「な……」

 更に吐血まですると、彼は己の腹の方に穴が空いていることに気づく。神太郎の貫き手によって生み出された穴に。

 全く同じ宣告に、全く同じ攻撃。そして、結果は全くの真逆。マッソリーボンネがつたないい足取りで下がると、神太郎は涼しい顔でさとす。

「慎重だなんて言っていたが、お前がもう少しでも慎重だったら、俺にもペットを差し向けただろうにな。そうすれば、その無茶な野望もすっぱり諦められて長生き出来ただろうに」

「うっ……」

「いや、それ以前にベイザルネットを討った国に手を出そうなんて思わないだろう。どこが慎重だよ」

「そ、そうか……お前が奴を……」

「功名心に駆られ、迂闊な行動に出た。それがお前の敗因だ」

 人間の前で崩れ落ちる魔族。全ては、己が強者だと勘違いしてしまったことにある。

 こうして、マッソリーボンネは自身の死因を思い知りながら絶命するのであった。

 決着……。されど、ネクスタリアはそれを信じられず呆然としたままだった。だから、神太郎は手を差し出す。

「ほら、立て。もう日の出まで一分もなさそうだぞ」

 彼によって半ば無理やり立たせられた王女だったが、それでも呆気に取られたまま。特に、神太郎があの凶悪な魔族を倒したことと、そのことを歯牙しがにもかけない様子に驚かされっ放しだ。

 実際、神太郎は魔族のことなんてもうどうでも良かった。まずは吹き飛ばされたルメシアたちの確認。その方向である裾野を見るが、彼女も近衛兵も普通に立ち上がって慌てて戻ってきている。放っておいても良さそうだった。

 次に祈願の準備だが……。

「あ、ヤバイ。祭壇の供え物が」

 マッソリーボンネが座ったせいで、祭壇上の供え物が滅茶苦茶になっていた。これでは用を成さないか。神太郎、慌てる。

「マズイ、マズイ、マズイ、マズイ。ネクス、供え物がないとマズイんだよな?」

「え? え、ええ……そうね」

「折角、眠い中無理やり起きたんだ。完璧に成さないとなぁ……。代わりの物を用意しないと。………………あ、これでいいか」

 と、彼が手に取ったのは、何とマッソリーボンネの死体だ。それを祭壇に置く。ネクスタリアも「えぇ……」と完全に引いてしまっていたが、背に腹は代えられない。

「仕方がないだろう、他にないんだから。それに、食べ物より効果ありそうだし」

 どちらにしろ、もう時間はない。タカマ山を背に日が昇る寸前である。

「ヤバイ、もう時間だ。ほら、祈れ!」

 とんでもないアクシデントに見舞われたが、何とか望みは叶いそうである。ネクスタリアもこの頃になるとやっと自分を取り戻した。そして、神太郎を認めた。

 全ては彼のお陰。彼女はそう感謝をしながら、神太郎と共に祈願を始めるのであった。



 正午、王女一行は村からの出立準備を整えていた。ネクスタリアが村人たちからの丁重な挨拶を受けている一方、隅にいるルメシアはとてつもなく気落ちしている。理由は王国からの重罰のことだ。

「はぁ、これで厳罰確定よ」

「まだそんなことを悩んでいるのか」

 またクヨクヨしていると呆れる神太郎。だが、その時より状況が悪化しているのだから当然であろう。

「そりゃそうでしょ。まさか王女が魔族に襲われるなんて……。これはどう考えても厳罰ものでしょう!」

「王女は無事だったんだからいいだろう」

「よくないわよ。近衛兵から怪我人も出ているほどなのよ。間違いなく王国に知られ、間違いなく調査が行われ、間違いなく私の不正が暴かれる。破滅よ」

 嘆く乙女。そこにその原因がやってくる。

「二人とも、この度はご苦労だった。少し早いが労っておこう」

 そう告げるネクスタリアは落ちついた様子だった。

「ルメシア、今回の気遣いに感謝する。私が責任をもって、貴女に累が及ばないよう手を回しておくわ」

「あ、ありがとうございます」

 次いで、神太郎にも。

「それに神太郎」

「ん?」

「あ、ありがとう……。もし良かったら、王宮に顔を出して。その時、また改めて感謝をするわ」

 王女は少し顔を赤らめて感謝した。

 こうして、彼女は短く要件を済ませると、自分の馬車へと戻っていくのだった。

 本人が護ると直接言いに来るほどなら、その言葉も信じられるか。ルメシアも悩みが軽くなった。

「そうだ、神太郎。私もお礼を言っておくね。また魔族から助けてくれてありがとう」

「早起きしたのにお祈りが出来なかったら頭にくるからな」

「そういえば、何てお祈りしたの? 私もお願いしたいことがあったのになー」

 あの時、ルメシアは慌てて祭壇に戻っていたが、到着した頃には魔族も倒され日の出も過ぎていたのだ。乙女として願いたいことがあったのにと、内心ガッカリである。

「勿論、お前と同じことを祈ったさ」

 だが、神太郎が代わりに祈ってくれていたよう。それを聞くと、乙女は俄然嬉しくなった。堪らず彼の腕にしがみ付く。

「そう? やっぱり? ありがとう、神太郎!」

「ああ、国家安康、君臣豊楽をな」

 ……。

 ……。

 ……。

「………………は?」

 ルメシアはつい聞き返してしまった。自分が思っていたことと全く違ったから。だが、神太郎の方だって困惑している。

「いや、だって夕飯の時、そう言っていたじゃないか」

 その彼の言い分は正論だった。正論だったが……彼女にとって全く納得出来ないものだった。

「私たちキスしたのよ? 改めて付き合い始めたのよ? そこは、『私たちがずっと一緒にいられますように』って願うところでしょう!」

「いや、だって……」

「臨機応変に対応しなさいよ!」

「だって……」

「アンタは女心を全く分かってない!」

「だってぇ……」

 返答に詰まる神太郎。何を言えばいいのか全く分からず、彼女の凄まじい剣幕を前にその声はどこか泣き声が混じっていた。

 こうして、彼は不条理な怒りを浴びて今回の小旅行を終わるのだった。


―王女殿下のお忍び旅行・完―
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