家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎

文字の大きさ
35 / 54

11-3 結婚挨拶③

しおりを挟む
 突然、彼が入室してくると、兄妹は慌てて立ち上がった。神太郎もゆっくりと腰を上げ、質実にそれを迎える。

 百九十センチの高身長で、一見スレンダーな体型に見えるが、貴族服の下には屈強な肉体を感じさせる男。カイゼル髭の険しい面構えが印象的な齢五十三の紳士。

 ユリーシャの父でルクレイム公爵家当主、バルドレイド・ルクレイム公爵である。彼が上座に腰掛けると、両隣を子供たちが、次いで対面の神太郎が着席した。

 流れる重苦しい空気。ユリーシャは勿論、ミランも緊張の表情を晒している。

「君がここに来た用件は聞いている、三好神太郎」

 まず口を開いたのはバルドレイドだった。

「調べもした。率直に言おう。いくら勇者の一族とはいえ、借家住まいの平民が我がルクレイム家の一人娘を妻にするなど、不相応だと思わないのかね?」

「俺の望みは立場で抑えられるものではないし、自分の本心に嘘を吐くことも出来ない」

 対して、神太郎は先ほどと打って変わって堂々と応じていた。先の不真面目さは鳴りを潜めており、ミランも少しは見直す。ただ、ユリーシャの方はもう少し慎ましく振舞って欲しいと憂いていた。

「見上げた姿勢だ。胆力はあるようだな。だが、そんな態度で望みを成せると思っているのか?」

「俺自身は、今回の件は当人たちの問題であり、親は関係ないと思っている。けれど、ユリーシャは貴方を敬愛しているので、その気持ちを蔑ろには出来ないそうだ。だから、今回俺が赴いた。俺がどういう人物かを見定めてもらうために。なのに、その場の凌ぎの演技をしては意味がないだろう。素の俺を見てもらわなければな」

「ほう、言うな。しかし、それが礼儀をわきまえない理由にはならないぞ」

「別世界人の俺だが、この国には敬意を表している。だが、忠誠は誓っていない。貴方は俺を平民として見ているかもしれないが、俺は貴方を貴族としてではなく一己いっこの人間として向き合っている。それが、この態度の理由だ」

 貴族に対して身分は関係ないと言い切る平民。いや、別世界人なのだから平民ですらないというのだ。

 この世界の尺度では測れない男。一己の人間として相対することを挑まれたならば、誇り高い武人であるバルドレイドも受けざるを得ない。

「成る程、ただの無法者ではないようだな。だが、それだけを理由に貴様を認めることはない。駆け引きは好まん。言っておきたいことがあれば聞こう」

「それが……貴方が満足するような言葉は吐けそうにない」

「何?」

「ただ一つ言えることは、俺はユリーシャを愛し、ユリーシャもまた俺を愛しているということだ。俺たちが一緒になることが彼女の一番の幸せになる」

 神太郎はそう臆面もなく吐いた。

 だが、その瞬間……、

 吹き飛んだ。

 弾丸の如く大窓を割って外へ飛び出し、庭へと転がり落ちる神太郎。それを成したのはバルドレイドの鉄拳。

「神太郎!」

 ユリーシャが心配の声を上げるが、彼へ駆け寄ることは父によって止められる。代わりに、そのバルドレイドが庭に下りた。

「この厚顔無恥め! 娘のことは私が一番考えている。そして、娘に貴様のような害虫がくっ付くことを最も恐れていた。消え失せろ!」

 険しい面に怒りを込め、倒れている厚顔無恥に迫っていく。そして、それの襟首を掴んで持ち上げると、もう一度その顔面に鉄拳を打ち込んだ。

 宙に弧を描き、再び大地に激突させられる神太郎。魔力を込めた拳だからこそ成せる技だ。害虫のひれ伏せられた様を見て、父親も少しは溜飲が下がったか。

「二度と顔を見せるな!」

 最後に、バルドレイドはそう吐き捨て……、

「そんなものか?」

 いや……、

「大事な娘を奪いに来た男への怒りは、そんなものなのか?」

 そう問いながら、神太郎は立ち上がってきた。健在である。そして、今度は彼の方がバルドレイドに歩み寄っていった。

 まだ終わっていない。それを知らされたバルドレイドは、上着を脱いで受けて立つ。迫ってきた神太郎の顔面に三度みたび拳を打ち込んだ!

 夜の空に鳴り響く轟音。庭に出たユリーシャとミランもその光景に目を奪われていた。容赦なく相手の顔面に鉄拳を打ち込んだバルドレイドと、それに全く微動だにしない神太郎の姿を。

「くっ!?」

 魔力を込めた一撃。バルドレイドには手応えがあった。会心の一撃だとも思った。だが、それを避けもせず無防備に受けた神太郎は、顔色も変えず仁王立ちで彼を見返していた。

 そして、バルドレイドはその圧倒的実力差にも気づいた。

 されど、彼に後退はない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 連打! 連打! 連打! 連打! 連打! 連打!

 繰り出される連撃。全ての拳に全力を込め、正確無比に神太郎の顔面に打ち込む。そのサンドバッグの運命を考えると、実に背筋の凍る情景だった。

 しかし、ミランは今回ばかりは逆の意味で背筋が凍っていた。

「ち、父上は素手で魔獣を討ったこともあるんだぞ……」

 王国屈指の軍人である父。その父が、相手を怯ませるどころかその顔を歪ませることすら出来ていないのだ。

「勇者の一族か……」

 彼は神太郎のその強靭さをその言葉で納得するしかなかった。

 打音が鳴り続き、ルクレイム家中の者たちも何事かと庭に出てくる。

 そんな中、ユリーシャの胸は憂慮で一杯だった。

 父への憂慮で。

 そして、しばらくすると連打が止んだ。何十発、いや何百発打ち込んだのだろうか。久々の静寂、されど観衆たちに安堵はなし。全く堪えていない神太郎と肩で息をするバルドレイドを見比べてしまえば、それは当然か。

「公爵、どうした? そこまでか?」

 神太郎は年長の彼にそう問うた。それはまるでバルドレイドを見定めているかのよう。本来なら父親である彼の方が娘を貰いにきた神太郎を見定めるべきなのに、逆になっていたのだ。

「そんな力で愛娘を護れると思っているのか?」

 辛辣しんらつな言葉をぶつけられる。

「貴方では無理だ。彼女は俺が護る」

 それは父親にとって耐え難いものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...