家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎

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12-2 三好一族の脅威②

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 神太郎が応接室に戻ってくると、彼もやっと待ち人に会えた。

 キダイ王国宰相、長兄、三好仙熊みよし せんゆうである。ソファに腰を下ろしていた彼は、フラフラ出歩く弟に苦言を呈する。

「神太郎、お前な、こっちは忙しいんだ。無駄な時間を使わせるな」

「そりゃ、こっちの台詞だ。呼び出しておいて待たせるなんて何様だ」

「宰相様だよ。ほら、座れ」

 仙熊は神太郎を座らせると、人払いをさせた。そして兄弟二人っきりになると、彼の顔は険しくなる。どうやら、外に漏れてはならない用件のようだ。

「お前に訊きたいことがある。この間のネクスタリア王女のタカマ山参拝事件についてだ」

 それは神太郎の予想内の用件だった。だから淡々と問い返す。

「ああ、あれか。俺のところの北門に厳罰を下すのか?」

「いや、あの件は国王には知られていないままだ。報告は俺のところで止めて、内々に収めた」

「なら、俺の王女への侮辱罪?」

「まさか、彼女はお前のことを気に入っているようだ。寧ろ、上手くやったと褒めているよ」

「なら、何?」

「王女に同行した近衛兵を事情聴取したんだが、彼らは揃って興味深いことを証言していた。襲ってきた魔族が
『魔軍七将ベイザルネットは討たれた』と言っていたとな。ベイザルネットとは、二ヶ月前にこの国を襲った奴だろう? 目前まで迫っておきながら、何故か撤退していった……。だが、その魔族の言葉が本当ならそれも納得出来る。……神太郎、お前がやったのか?」

「ああ」

「何故、報告しない!」

 兄の言葉に怒気が篭った。だが、弟に尻込みはない。

「すれば、俺はどうなっていた?」

「多大な褒賞に、栄進。お前を国防局の中枢にねじ込むことも可能だった」

「兄貴はこの国を独裁するか?」

「ああ」

 仙熊はハッキリと認めた。それでも神太郎は驚かない。この兄なら普通にあり得ると知っていたからだ。

「いいか、神太郎。俺たち三好一族はこの国の異物だ。貴族の多くは俺たちを排除したがっている。そして、そのための切っ掛けを求めている。今のところ俺は上手く国家運営をこなし、国王から寵愛ちょうあいを受けているが、それがいつまで続くかは分からない。少しでも失政を犯せば、反三好派の連中はこぞって国王に三好排除の諫言かんげんをするだろう。味方の少ない俺たちが国王の後ろ盾を失えば、この国にはいられない」

「……」

「だから、少しでも三好一族がこの国の中枢に食い込む必要があるんだ。俺は今政治のトップだが、その上お前が軍部のトップにでもなれば、この国をかなり支配することが出来る。しばらくは安泰だろう。俺たちが生き残るの方法はただ一つ。三好一族による独裁だけだ」

 転生者である三好家がこの国で安心して暮らすには、元々の支配層である貴族の大半を排除しなければならないという。

 人間にとっての脅威は魔族であったが、三好家にとっての脅威は人間だったのだ。

「兄貴は相変わらず過激だな。兄弟一怖い男だ」

 暢気な神太郎もその危険な状況は理解した。……理解したのだが、

「でも面倒くさ。兄貴だけでどうにか出来ない?」

 やっぱり気が乗らなかった。

「お前なぁ……」

「それにさ、相手は何百年もこの地に根付いた特権階級たちだろう? 俺が軍部を支配しても、結局は流血は避けられないと思うんだよね。それに負ければ、俺たちは国を追われる」

「まぁな。武力や権力で支配するにも限度があるし。結局必要なのは、貴族たちの三好家への支持なんだが……」

「親父たちが魔王を討ったら支持を得られるか?」

「いやー、人間ってのは醜いからなー。魔王がいなくなった途端、勇者一族はもう不要と排除されるかもしれないし」

「どんなに頑張っても認められない存在か……。こりゃからめ手を使わないと駄目そうだな」

 神太郎、考える。自分が楽して解決させる方法を。

 ……。

 そして悪魔の策を思いついた。

「貴族たちが俺たちを嫌っているのは、既得権益を侵されているからだよな?」

「ああ。俺が宰相になって喜ぶ者より、恨みや嫉妬を抱く者の方が多いだろう」

「なら、兄貴が既得権益そのものになればいい」

 それは普通の人間なら意味が分からなかっただろう。発想すらしないためだ。だが、兄弟である仙熊はその意味をすぐに理解し、つい一笑してしまった。

「……何が『兄貴は相変わらず過激だ』だ。兄弟一怖いのは、そんな発想をするお前だろう」

 そして、神太郎はそれを堂々と口にする。決して口外してはならないそれを。

「兄貴が国王そのものになる。そうなれば、貴族らも従順にならざるを得なくなるだろう。俺たち兄弟も王族として安泰だ」

 それは国家の簒奪さんだつだ。天下の大罪である。されど、宰相として厚遇されている仙熊の口から出たのは、それをとがめる言葉ではなかった。

「しかし、簒奪だって貴族の支持が必要だぞ?」

「嫌っているのは既得権益を侵されている貴族だけ。大多数の平民は、魔族を倒してくれる勇者を歓迎してくれる。それに奪うんじゃなくて、正当に譲位されればいい。兄貴が国王に信頼されているうちに」

「悪くない案だ。ただ、大きな問題がある。それは……」

 と、そこでドアがノックされた。仙熊が入室を許可すると、入ってきたのは彼の部下。何やら耳打ちをされた仙熊は、その内容に堪らず眉間にシワを寄せてしまった。

「分かった。陛下も既にお聞きなのだな? すぐに向かおう」

 重そうな腰を上げる兄。次いで、弟にもこう告げる。

「神太郎、お前も来い」

「どこに?」

「今、エイゼン王国の特使が抗議に来ているそうだ。その相手をする」

「何で俺も?」

「どうやら、親父がエイゼンの王子を殺して、王国軍を壊滅させたらしい」

 それは、とてつもないスキャンダラスな内容だった。人間たちの希望である勇者が、魔族でなく人間の王子を殺害し、その軍勢を壊滅させたと言うのだ。

 同胞を滅ぼした。それが真実なら、反三好の風潮は一気に大きくなろう。

 遠い地にいる父の暴走によって、国に残った子供たちは窮地に立たされるのであった。
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