家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎

文字の大きさ
54 / 54

16-2 調停者・神太郎②

しおりを挟む
 王室用の食堂。王族が使うに相応しい絢爛豪華けんらんごうかな装飾の一室にて、三人は長テーブルに腰掛けて朝食を堪能していた。

 特に神太郎はエイゼン一の食事に舌鼓したつづみである。

「美味い。これほど美味いパンは初めてだ。流石、王室御用達だな」

 まだ温かい出来たてのパンを千切っては頬張り、千切っては頬張り……。しがない平民の給料ではとても手が出ないものだろう。

「気に入ってくれて何より」

「急いで来たもので道中ロクなものを食べてこなかったから、それもあって最高だよ」

「速やかな来訪に、我々も感謝している」

 調停者の上機嫌ぶりに、後ろにグラントを侍らしているカイラルも一先ず安堵。……だが、

「民の中には恐怖で食事も喉が通らない者もいるというのに」

 シャノンがそう嫌味を加えると、眉を八の字にして「シャノンっ」といさめざるを得なかった。仕方なく話題を変える。

「神太郎殿、勇者殿とは既にお会いになられたか?」

「イエス、いつもと変わりなかったです」

「それは平静だったと受け取ってもいいのかね?」

「イエス、父は至って穏やかです」

 その返答にシャノンが堪らず口を挟む。

「父? 貴方、勇者のお子なのですか!?」

「イエス、息子です」

「お兄様、話になりません。間に入るべき調停者が向こうの身内なんて。これでは公平な話し合いなど到底望めない!」

 再び反対するシャノン。ただ、今回の異論は筋が通っていたので、カイラルも諌めることはせず。それに神太郎が勇者の身内だということは、キダイ王国に送っていた特使メイザーレ伯爵からの知らせで既に承知していた。

「勇者殿を宥める人間となれば身内が最適であろう。こちらに不満はない」

 そして、シャノンの「しかし……」という反論を遮りながら本題に入る。

「神太郎殿、食事中ですまないが、このまま本題に入りたい。勇者殿はどこまでやる気だ?」

「それは父の方が知りたがっていました」

「何?」

「全ての発端は、そちらのサナワ王子が父を侮辱したことに始まります。父はそれに激怒し、王子を成敗した。父としてはそれでこの揉め事は決着がついているのです。しかし、エイゼン王国はサナワ王子の敵討ちのために続々と軍隊を送り込んでくる。だから、父は仕方なくその発生元であるこの王都を包囲したのです。こうでもしないと、エイゼンは延々と刺客を送り込んでくる。それが父の見解です」

「つまり、この包囲はあくまで自衛のためだと?」

「その通り」

 それは自分たちに一切非はないという言い分だった。されど、シャノンは納得出来ない。

「だからって、やり過ぎです。多くの兵が亡くなったのですよ?」

「そりゃ、勇者を殺そうとしたんだから返り討ちにされることもありましょう」

「だからやり過ぎなんです。勇者の力は圧倒的。ならば、攻めてくる兵を殺さずに済む方法もあったはず」

 それは正義感と慈愛心の強い彼女らしい主張だった。しかし、それを聞いた神太郎はパンを食べようと開けた口が塞がらず。しばらくして、呆れるようにこう評した。

「盗人猛々しいとはこのことだな」

「なっ!? そんなにおかしいことですか? 悔しいけれど、勇者と我々とでは大人と子供の差がありました。ただ、大人が子供に対して本気で剣を振り下ろすのは間違っているでしょう。もっと穏便に収められたはず」

 この意見にも神太郎は溜め息を吐いてしまう。そして、こう返答した。

「……アンタは二つ間違っている」

「え?」

「一つ目、大人と子供の差だったのは結果論だろう。それに相手を子供と見縊みくびった結果、喉元をっ切られるなんてこともありえるからな。親父も死にたくないから相手に気遣うなんて人の良い真似はしない。どんなに実力差があろうと、親父はアンタらを子供ではなく対等な相手だと見ていたんだ。アンタ、自分で自分たちをおとしめているのに気づいているのか?」

「う……」

「二つ目、親父は本気など出していない。全くな」

「っ!」

 今度はシャノンの方が言葉を失った。自分たちの立場の弱さを突きつけられ、反論の言も見出せず。

 カイラルは彼女が静かになったのを確認すると早速交渉に入る。

「では、勇者殿も早く矛を収めたいということだな?」

「ええ、そのための条件も聞いています」

「聞こう」

「条件は一……いや、二つ。まず一つはエイゼン王国の魔術書を無制限に閲覧させること」

「魔術書を?」

「父に同行している母が大魔導師だというのは知っているでしょう? 私は詳しくはないのですが、何でもこの国には禁忌とされている古代魔術の書物があるとか。母はそれに興味津々なのです」

「確かに、我が国は世界有数の魔術国家であり、古の魔術書『アスタライヤの書』も受け継がれている。王族でも閲覧することは許されず、とある場所に厳重に封印されている。ただ、その封印は高度な魔術によって行われており、今の我が王国でも解くことは出来ないのだ」

「その辺は母がどうにかするでしょう。駄目なら駄目で大人しく引き下がるでしょうし。そちらはただ閲覧することを認めてくれれば結構です」

「分かった。それでもう一つは?」

「それは……人質をもらいたい。具体的にはシャノン王女をです」

 神太郎はシャノンを見ながら言った。本人が驚きで瞠目している中、説明を続ける。

「和解したと思ったらまた軍隊を差し向けられるなんてのは勘弁とのこと。当然の条件だと思いますが?」

「そうだな」

「ただ、父たちは旅をしている身なので、彼女の身は私がキダイ王国でお預かりします。条件はこの二つのみ。それさえ叶えてくれれば、国王の謝罪も賠償金も不要とのこと。この件も双方の誤解によるものとして責任の所在も定めずに収めると言っています」

 カイラルはその提案にしばし考えてから頷く。

「承知した。ただ、執政を担っているとはいえ私一人では決めかねないので、返答は明日まで待ってもらえないだろうか。それまで部屋を用意するので休まれるといい」

「分かりました。ただ、勇者側が譲歩することはないと考えてもらいたい」

 こうしてグラントが険しい面持ちをする中、最初の交渉は終わった。



 王太子執務室。カイラルはシャノンを連れてそこに戻ると、当事者となる彼女の意見を聞いた。

「お前はどう思う?」

「私が人質になるのは構いません。私の身一つでこの危機が救われるのなら喜んでキダイ王国へ赴きましょう。けれど、アスタライヤの書を見せるのは反対です。あれには古の聖隷魔術師たちが生み出した秘術が記されていると伝わっております。悪用されれば世界中に不幸を撒き散らすことになりましょう」

「うむ。勇者の連れの大魔導師は、あれほどの大量のゴーレムを使役するほどの魔力をもっている。あの封印も解けるかもしれないしな。陛下も同意見だろう」

「……」

「となると、策は一つしかない。シャノン、協力してくれるか?」

「……全てはエイゼンのため」

 ここに至って反目し合っていた兄妹の意志はやっと一つとなる。

 二人は国家のために危険な賭けに出るのであった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...