ヨコハマ市警みなと分署にようこそ

傍 日出央

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第三話

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イヤーマフをしていても脳みそを揺さぶる撃発音は、鳴りやんだあともしばらくは耳鳴りを残す。
鼻の奥に染み付いた火薬の匂い。
9発全弾を撃ち尽くした9ミリ拳銃からマガジンを排出してブースの仕切りになっているテーブルに置いた。
手元のスイッチで20メートル先に掲げられたマンシルエットのターゲットを呼び寄せる。
頭の真ん中に1発、心臓に2発、シルエットにかすりもしない弾痕が2発。
僕にしてはまあまあの命中率だ。
イヤーマフを外して頭を軽く振ると髪がエアコンの風を受けて揺れた。

僕はみなと分署地下にあるシューティングレンジで自主的な射撃訓練をしていた。

「素人にしちゃまあまあですけど、なるべく現場では発砲しないほうがいいスね、後藤さんは」
僕の背後からターゲットを覗き込んでそう言ったのは、ヨコハマ市警みなと分署ESU所属の橘祐希巡査だ。

県警が組織する機動隊とは別に、管内の凶悪犯および騒乱事態に即応することを目的としてヨコハマ市警みなと分署には緊急対処部隊、エマージェンシーサービスユニットが配備されている。
県警機動隊の虎の子のSATとの格差を図るために実力部隊の正面装備としてはかなりこじんまりしたレベルに限定されてはいるものの、防弾ボディアーマーとサブマシンガンを基本装備とし閃光手榴弾や非殺傷性ゴム弾ショットガンを使用でき、分署長決済で即時出動できるESUはみなと分署の守り神だ。

そのESU最年少隊員である橘巡査は僕が射撃訓練に励んでいる姿をコーチングブースから眺めていたようだ。
「後藤さん、筋は悪くなさそうなんだよなあ。もっと訓練したら実戦で少しは使えるようになるかもですよ?」
「キミたちの言う実戦が起きたときは僕は隅っこでうずくまって頭を抱えて震えてますよ」
またあ、と言って相好を崩す橘巡査。
「でもまあ、もう少しフォームに気をつけたらかなり照準が安定すると思うスよ」
さすがに弱冠21歳でESUに抜擢されただけあって、僕自身が課題に感じているポイントを的確に見抜いているようだ。
僕は自分で言うのもなんだが警察官としては腕っぷしにはまったく自信がない。
筋力が追いつかないからか、指揮官クラスに標準支給される9ミリ拳銃の反動を抑え込むことができていないのだ。
かといって個人的な理由で口径の小さい拳銃を調達させるほどこの国の警察は融通は利かない。
こういうときばかりはいくら鍛えてもいくら食べてもカラダが大きくならない自分が恨めしい。
僕が撃ち損じることで大事な仲間を守れないとなったら、僕は自分のことを一生許せなくなるだろう。
「ウィーバー気味なのやめたらいいっスよ」
なるほど、構え方か。
僕の構え方は、拳銃を持った右手を真っ直ぐのばし左手は軽く折り曲げてグリップの補助をするタイプの構えだ。
橘巡査が目の前で実演してくれる。
「アイソサリが無難です。専門の訓練を受けてる人間は今はほとんどコレっす」
橘巡査は両手と胴体で綺麗な二等辺三角形を作ってみせた。
両の腕を均等に伸ばして手を組み合わせて拳銃をグリップする。
「なるほどね」
弾倉を抜いたままの拳銃を持って真似をしてみる。
シューティングレンジの奥に向けて照準を合わせる格好。
「後藤さん、そのまま」
そう言って橘巡査が僕の両肩に手をかける。
「肩にちからを入れてたら的に当てる以前に体力が削られます」
ポンと僕の両肩を叩いてリラックスを促す。
「スタンスはもう少し自然に」
肩から腰に撫で降ろされた橘巡査の手が僕の鼠径部を回り込むように内股をまさぐり、腿の内側の柔らかい筋肉の部分をグイと押し開く。
「そう、膝のチカラを抜いて」
膝の裏に添わされた手が太ももをなぶり僕の尻の割れ目をなぞりあげる。
「からだの力を抜いて、緊張しなくて大丈夫っス」
橘のごつごつして大きな手のひらが僕の腰骨を後ろからがっしりと掴んでいる。
とはいえ弾倉を抜いていても1キロ近い9ミリ拳銃をずっと射撃姿勢でキープするのは素人である僕にはしんどい。
からだが少しずつ震えてきている。
「大丈夫、いざとなったら自分が支えてあげますから」
そう言った橘が僕の背中を覆い尽くすようにその広い胸に抱き、肩から腕、そして拳銃をホールドしている両手までその大きな手のひらで撫でていく。
僕の両手を包み込む橘の手のひら。
僕の右の耳たぶに橘の唇が触れる暖かくて柔らかい感触。
「大丈夫、後藤さんが撃たれることなんてありません。オレがついてますから」
橘の厚い胸板を通しても伝わってくる鼓動。
熱くて硬くて力強く脈打つものが僕の尻の割れ目にぴっちりと押し当てられているのがスラックスを通して感じられる。
「オレ、絶対にターゲット外しませんから」
橘のシンボルの先っちょが狙いを澄ませているように、尻の割れ目を押し開くように、じりじりと正確なポジションを探っていく。
耳にかかる橘の吐息は火傷しそうに熱い。

「後藤さん…」

そのとき、シューティングレンジにドヤドヤと捜査課の連中が入ってきた。
おー感心感心などと言いながら僕らを横目に次々とブースに入るとガンガンと撃ち始める。
たまらずイヤーマフをつけ直す僕と橘巡査。
やれやれ。
とりあえず今日の訓練は切り上げてオフィスに戻ろう。
9ミリ拳銃をラックに戻して振り返りざまに橘巡査の耳元にくちを寄せて大声で言う。
「ちゃんと拭いてから詰所に戻るんだぞ!」
大丈夫。
他の連中が撃ちまくる撃発音で誰にも聞かれはしない。
防炎防刃の生地で織り上げられた出動服には染みなどできるわけもなかったが、横目で橘巡査の股間をちらりと確認してから僕はシューティングレンジを後にした。

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