暗殺スキルを持っているからと言って暗殺者だとは思わないでください!

朱之ユク

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お前勇者だったのか!

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「よう、お前ライトって言うんだろ?」
 
 女主人が働く酒場において、この俺に暗殺を依頼してくる人間は腐るほどいる。
 きっとどこかから圧倒的な剣の腕と暗殺スキルを持っていると風の噂で聞いて来たのだろう。

「俺はカインドだ。よろしくな」

 酒を持って、僕は乾杯する。
 カインドと名乗った男は瘦せ型でいかにも今風の良い男である。そんな男が暗殺者だと思って俺に話しかけてくるなんて意味が分からない。

「お前は暗殺者だって噂なんだろ? 殺したい奴がいる。50万で依頼を受けてほしい」
「……五十万か。ところで俺が暗殺者だと誰から教えられたんだ?」
「ああ? 女の勇者って名乗るやつからだ。そいつがライトという男が暗殺スキルを持っていると教えてくれた」

 あの女。
 人のスキルについて簡単にばらすなんて許せない。
 いったいどんな貞操観念をしているのだろうか?
 あとでぶん殴りに行こう。

「はいはい。どうせ俺は売れない暗殺者ですよ」
「なんでやけくそなんだ? お前は凄腕だってその女が言ってたぜ。あいつが言うには勇者スキルを持っているそいつに剣だけで正面から打ち勝ったんだろう? その腕を買って、お前を雇いに来た」

 こいつはバカだ。
 そんな情報を聞いたからと言って俺を雇いに来たのは正真正銘のバカだ。
 暗殺者が正面から勇者に打ち勝ったから何なんだ?
 肝心の暗殺ができないと暗殺を依頼する意味がないだろうに、そんなこともこの男は分からないのだ。

 カインド。
 おれが証明してやる。君はバカだ。

「殺したい相手なんてできるもんなのかな? 俺にはよく分からない」
「そんな奴たくさんいるに決まっているだろ?」
「詳しく教えてくれ」
「殺したい奴は妻だ。あいつ、不倫した挙句に俺がDVしたって言い張って子供を誘拐していったんだ。許せないだろ? 冤罪を吹っ掛けて子供の親権を奪うつもりだ。あんな女に子供任せておけない」
「なるほど。妻を殺せばいいんだな?」
「バカ野郎。そんなわけないだろ。妻を殺したら子どもが泣く。だから殺すのは妻と不倫した男だ。どうせ同棲でもしているんだから無残に殺してやれ」
「不倫か」

 よく聞く話だ。
 愛し合って結婚した男女なのに、なんで不倫なんてするのかな?
 親の決めた結婚相手じゃなくて、自分で好きになった結婚相手なのに。
 
「そうだ。本当に許せない。昔からあいつはそうなんだ。俺に歯向かってきて、子供を俺から離れさせようとする。仕方ないから殴って言うことを聞かせていたのに、ついに逃げやがった」

 なるほどDVは本当だったか。
 どいつもこいつもクズだな。
 こうなったら間男も実在するか分からない。こんなに被害者意識が強いと妄想で作り出している可能性がある。

「とにかく金を渡せ」
「分かった」
  
 カインドは金を僕に渡した。

「最期に言いたいことが有るんだ」
「言いたいこと? 何でも行ってくれ」

 何度も妨害された言葉を僕は大声で言う。

「暗殺スキルを持っているからと言って、俺が暗殺者だと思うなよ!」

 そして、それと同時にクナイでカインドをぶん殴った。暗殺なんてくだらない。真正面から相手を殴り飛ばす。それが俺の戦闘スタイル。

「なっ、裏切りあがったな」
「そんなわけないだろ。俺はもともと暗殺者でもなんでもねーよ! バーカ!」

 そのまま僕は神速の拳を叩き込み、カインドを眠らせた。
 ざまぁない。こんなクズはこれがお似合いだ。
 それにしてもどうして僕が暗殺者だと思っているんだろう。
 暗殺スキルを持っているからと言って暗殺者になるとは限らないだろうに。
 学校で数学を学んだからと言って将来が数学者になるとは限らない。学校で音楽を学んだからと言ってミュージシャンになるとは限らない。
 そんな簡単なことが分からないのだから、やはりバカだ。
 そう思いながら俺は店に金を預けて、酒を飲み始めた。
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