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第四話
二葉の紙芝居
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「こんにちは。小説家の市ヶ谷二葉といいます。どうぞ宜しくお願いします。
今日は皆さんに紙芝居を見ていただきたくて参りました」
二葉が体育館のステージの上に立って話している。
子どもたちが座って、静かに二葉の話を聞いている。
彼女が緊張しないのか心配したのは杞憂だったようだ。
先程から二葉は、子供たちに向けてすらすらと話している。
そう、ここは例のカネダ小学校だ。
㊙潜入調査ってやつである。
二葉は小説家だ。しかも売れっ子の。
彼女は絵も上手く、紙芝居も描くことができる。
僕たちはそれを上手く利用して、サアヤちゃんの母親、ヤマノイさんに話が聞けないか試しに来てみた、というところだ。
非公式なのには変わりないけれど、話を聞くためにはこれしかない。
(ぼんくらさんに捜査権はないし)
「二葉さんは小説家だったんですね」
ぼんくらさんがぽつり、と呟いた。
そっか、ぼんくらさんはそのことを知らなかったんだっけ。
「ぼんくらさん、早く行きましょう」
思わず言ってしまってから気が付いた。
いくら優しいぼんくらさんでも、このあだ名にはさすがに傷付くだろう。
でもぼんくらさんはにっこり笑った。
「いやぁ、史郎くんもようやく心を許してくれたね!」
そんなことを言いながらバシバシ背中を叩かれる。
どうやらよかったようだ、ホッとした。
そんなこんなで僕たちは給食を作るための厨房に向かった。
昼前だから時間的に忙しいだろうけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
厨房のドアをノックする。
すぐに白衣を着た完全防備の人が出てくる。
写真で見たときより、やつれてるけどヤマノイさんだ、間違いない。
「すみませんね、突然押し掛けて。
二、三お聞きしたいことが」
ぼんくらさんはやはりプロだ。
僕一人ではこうはいかなかった。
ヤマノイさんはため息をついて厨房から出てきてくれた。彼女が帽子を外すと長い髪の毛がばさりと出てきた。
「他の刑事さんにも話しましたが、蜂蜜のことなら何も知りません。
その日はデザートがパンケーキで蜂蜜は寄付されたものだったんです。それに寄付の蜂蜜だけでは全校児童の分はまかないきれなかったし」
「なるほど。では寄付された方も蜂蜜については知らなかったと」
「そうだと思いますよ。
とにかく私は何も関係ありません」
「サアヤさんについてお尋ねしても?」
僕の言葉にヤマノイさんはぎゅ、と唇を噛んだ。辛い記憶だろう。
「サアヤは本当に可愛くていい子でした。
下校中に突然連れ去られたんです」
ヤマノイさんが涙をこぼす。
すかさずぼんくらさんがハンカチを差し出した。
良いところあるなー。
ヤマノイさんがそのハンカチで涙を拭う。
「サアヤが生きていてくれたらどれだけ良かったか…。もういいでしょう?
仕事に戻らないと」
「ヤマノイさん、最後に一つ。
蜂蜜はどこから寄付を?」
「わかりません。あ、もしかしたら事務の方なら分かるかも」
「わかりました。
どうもありがとうございます」
そろそろ二葉も限界だろう。
帰り際に事務所に寄ってみることにしよう。ぼんくらさんを見ると強く頷かれた。なんだか頼もしい。
「行こうか、史郎くん」
「はい」
僕たちは体育館に戻った。
二葉がお辞儀をしてステージを降りる。
彼女を称える拍手がずっと響いていた。
今日は皆さんに紙芝居を見ていただきたくて参りました」
二葉が体育館のステージの上に立って話している。
子どもたちが座って、静かに二葉の話を聞いている。
彼女が緊張しないのか心配したのは杞憂だったようだ。
先程から二葉は、子供たちに向けてすらすらと話している。
そう、ここは例のカネダ小学校だ。
㊙潜入調査ってやつである。
二葉は小説家だ。しかも売れっ子の。
彼女は絵も上手く、紙芝居も描くことができる。
僕たちはそれを上手く利用して、サアヤちゃんの母親、ヤマノイさんに話が聞けないか試しに来てみた、というところだ。
非公式なのには変わりないけれど、話を聞くためにはこれしかない。
(ぼんくらさんに捜査権はないし)
「二葉さんは小説家だったんですね」
ぼんくらさんがぽつり、と呟いた。
そっか、ぼんくらさんはそのことを知らなかったんだっけ。
「ぼんくらさん、早く行きましょう」
思わず言ってしまってから気が付いた。
いくら優しいぼんくらさんでも、このあだ名にはさすがに傷付くだろう。
でもぼんくらさんはにっこり笑った。
「いやぁ、史郎くんもようやく心を許してくれたね!」
そんなことを言いながらバシバシ背中を叩かれる。
どうやらよかったようだ、ホッとした。
そんなこんなで僕たちは給食を作るための厨房に向かった。
昼前だから時間的に忙しいだろうけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
厨房のドアをノックする。
すぐに白衣を着た完全防備の人が出てくる。
写真で見たときより、やつれてるけどヤマノイさんだ、間違いない。
「すみませんね、突然押し掛けて。
二、三お聞きしたいことが」
ぼんくらさんはやはりプロだ。
僕一人ではこうはいかなかった。
ヤマノイさんはため息をついて厨房から出てきてくれた。彼女が帽子を外すと長い髪の毛がばさりと出てきた。
「他の刑事さんにも話しましたが、蜂蜜のことなら何も知りません。
その日はデザートがパンケーキで蜂蜜は寄付されたものだったんです。それに寄付の蜂蜜だけでは全校児童の分はまかないきれなかったし」
「なるほど。では寄付された方も蜂蜜については知らなかったと」
「そうだと思いますよ。
とにかく私は何も関係ありません」
「サアヤさんについてお尋ねしても?」
僕の言葉にヤマノイさんはぎゅ、と唇を噛んだ。辛い記憶だろう。
「サアヤは本当に可愛くていい子でした。
下校中に突然連れ去られたんです」
ヤマノイさんが涙をこぼす。
すかさずぼんくらさんがハンカチを差し出した。
良いところあるなー。
ヤマノイさんがそのハンカチで涙を拭う。
「サアヤが生きていてくれたらどれだけ良かったか…。もういいでしょう?
仕事に戻らないと」
「ヤマノイさん、最後に一つ。
蜂蜜はどこから寄付を?」
「わかりません。あ、もしかしたら事務の方なら分かるかも」
「わかりました。
どうもありがとうございます」
そろそろ二葉も限界だろう。
帰り際に事務所に寄ってみることにしよう。ぼんくらさんを見ると強く頷かれた。なんだか頼もしい。
「行こうか、史郎くん」
「はい」
僕たちは体育館に戻った。
二葉がお辞儀をしてステージを降りる。
彼女を称える拍手がずっと響いていた。
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