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五章
二話・黄金色の石
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二人はゆっくり地面に降り立っていた。向こう側が暗くなっている。
「概念の世界って不思議だな。何もないようだけどなんか温かい」
シンが辺りを探っている。サーラはどちらに行けばいいかなんとなく分かっていた。
「シン、多分ここはアデスとイリシアの境界だ」
「え?じゃあこの暗い方って」
サーラは頷いた。
「イリシアだ。行ってみよう」
「サーラ?それ」
シンに声を掛けられてサーラは初めて気が付いた。先程の石がネックレスになっている。サーラはそれを手に取った。
ほわりと石が明るくなる。
「優しい光だね」
「あぁ、優しい子みたいだ」
二人は暗い方に向かって歩き出した。イリシアの神々にサーラは会ったことがない。イリシアの神々は静かな世界を好み、サーラのようなはしゃぎ回るような幼い女の子を避けるのだと父親から聞いたことがあった。では、今のサーラはどうだろうか?サーラは心の中で呼び掛けてみる。
(私はサーラ。イリシアの神様たち、私の進むべき標を教えて欲しい)
返答はない。イリシアに住む安寧の神々は静かなことを好むのだ。自分が招かれざる客であることは理解しなければいけない。
イリシアの概念世界はどこまでも平坦だった。
急に黄金色の石が輝き出す。サーラとシンはあまりの眩しさに目をつむった。目を開けると、白髭を蓄えた老人がいた。
「まさか、その石がアデスにあるとは…」
「サーラ姫様が来ているぞ!」
「なにかあったのか?」
ぞろぞろと現れたのはもちろん神々である。
シンとサーラはその様子にしばらく何も言えなかった。
白髪の老人が話しかけて来る。その周りを他の神々も取り囲んだ。
「姫様はその石を何故砕かなかったのですか?あなたの瞳と同じ黄金色です。あなたにとって、忌まわしい色のはずですよ」
サーラは石を優しく握った。答えならもう出ている。
「私にこの石を砕く権利などありません。石も私たちの世界を作る大事な一欠片です」
「姫様、呪いをその石に宿すのです。そのためにその石はあなたの前に現れたのでしょう。石はあなたを試したのでしょうね」
そんな不思議なことが?とサーラは一瞬疑いそうになったが、それを受け入れた。不思議なことが起こるのがアデスとイリシアである。
「姫様、石に気持ちを集中させるのです。イリシアの石は死のオーラを持っています。つまり呪いも死ぬ。そして負の連鎖を断ち切り、安楽へ向かわせます。イリシアは安寧を司ります」
サーラは石に呪いを吸い取ってもらえるように念じた。黄金色だった石はどんどん黒ずんでいく。これが呪いなのかと思うと恐ろしかった。人の感情はこれほどまでにどす黒く暗いものなのだろうか。だが人間にも色々いる。
自分の想像できないような考えを持つ者だって当然いるはずだ。
石にヒビが入りパキリと割れた。それはさらさらとサーラの手からこぼれ落ちる。先程まで感じていた体の不調が楽になった気がした。
「姫様、人間の暗い感情は我々にとっては必要不可欠なのです。人間の暗い感情を吸い取ると、その人間はまた元気になれますからね。ただし、今回は特例です。まさか人間の暗い感情の渦が意思を持ち、神に成り代わろうとは」
「そいつはどうなったの?」
シンが尋ねると、老人は笑った。
「また現れるやもしれませんな。そうしたらまた対処法を講じる。我々に出来ることはそれのみですよ」
「イリシアの神々、凄すぎる」
シンは驚嘆したのだった。
「概念の世界って不思議だな。何もないようだけどなんか温かい」
シンが辺りを探っている。サーラはどちらに行けばいいかなんとなく分かっていた。
「シン、多分ここはアデスとイリシアの境界だ」
「え?じゃあこの暗い方って」
サーラは頷いた。
「イリシアだ。行ってみよう」
「サーラ?それ」
シンに声を掛けられてサーラは初めて気が付いた。先程の石がネックレスになっている。サーラはそれを手に取った。
ほわりと石が明るくなる。
「優しい光だね」
「あぁ、優しい子みたいだ」
二人は暗い方に向かって歩き出した。イリシアの神々にサーラは会ったことがない。イリシアの神々は静かな世界を好み、サーラのようなはしゃぎ回るような幼い女の子を避けるのだと父親から聞いたことがあった。では、今のサーラはどうだろうか?サーラは心の中で呼び掛けてみる。
(私はサーラ。イリシアの神様たち、私の進むべき標を教えて欲しい)
返答はない。イリシアに住む安寧の神々は静かなことを好むのだ。自分が招かれざる客であることは理解しなければいけない。
イリシアの概念世界はどこまでも平坦だった。
急に黄金色の石が輝き出す。サーラとシンはあまりの眩しさに目をつむった。目を開けると、白髭を蓄えた老人がいた。
「まさか、その石がアデスにあるとは…」
「サーラ姫様が来ているぞ!」
「なにかあったのか?」
ぞろぞろと現れたのはもちろん神々である。
シンとサーラはその様子にしばらく何も言えなかった。
白髪の老人が話しかけて来る。その周りを他の神々も取り囲んだ。
「姫様はその石を何故砕かなかったのですか?あなたの瞳と同じ黄金色です。あなたにとって、忌まわしい色のはずですよ」
サーラは石を優しく握った。答えならもう出ている。
「私にこの石を砕く権利などありません。石も私たちの世界を作る大事な一欠片です」
「姫様、呪いをその石に宿すのです。そのためにその石はあなたの前に現れたのでしょう。石はあなたを試したのでしょうね」
そんな不思議なことが?とサーラは一瞬疑いそうになったが、それを受け入れた。不思議なことが起こるのがアデスとイリシアである。
「姫様、石に気持ちを集中させるのです。イリシアの石は死のオーラを持っています。つまり呪いも死ぬ。そして負の連鎖を断ち切り、安楽へ向かわせます。イリシアは安寧を司ります」
サーラは石に呪いを吸い取ってもらえるように念じた。黄金色だった石はどんどん黒ずんでいく。これが呪いなのかと思うと恐ろしかった。人の感情はこれほどまでにどす黒く暗いものなのだろうか。だが人間にも色々いる。
自分の想像できないような考えを持つ者だって当然いるはずだ。
石にヒビが入りパキリと割れた。それはさらさらとサーラの手からこぼれ落ちる。先程まで感じていた体の不調が楽になった気がした。
「姫様、人間の暗い感情は我々にとっては必要不可欠なのです。人間の暗い感情を吸い取ると、その人間はまた元気になれますからね。ただし、今回は特例です。まさか人間の暗い感情の渦が意思を持ち、神に成り代わろうとは」
「そいつはどうなったの?」
シンが尋ねると、老人は笑った。
「また現れるやもしれませんな。そうしたらまた対処法を講じる。我々に出来ることはそれのみですよ」
「イリシアの神々、凄すぎる」
シンは驚嘆したのだった。
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