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キョウ✕獅子王
田舎に帰ろう(夏)
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夏休み前半はバイトや塾の夏期講習なんかでリアルが充実していた。でもそんな僕にもお盆休みというものが存在するらしい。僕のバイトしている書店は個人商店だしなおさらだ。明日から五日間休みなのだそうだ。バイクの免許も思っていたよりすんなり取れた。明日から暇だなあ。
「キョウくん、少ないけどボーナスね。助かったわあ」
「え?ボーナスなんて頂いていいんですか?」
僕が驚いていると、この店では当たり前らしい。確かに結構お客さん来るもんな。
「もちろん。キョウくんがかっこいいから目当てで来るお客さんも多いの。そのお礼も入っているから」
「ありがとうございます」
せっかくくれるならもらわない手はないよなあ。僕はお給料の入った封筒を受け取った。大事にリュックサックに入れる。これでまた獅子王のいるメイド喫茶で遊べるぞ。
そんな喜びを噛みしめながら僕は帰宅した。家に帰ると母さんがいて驚いた。今日は休みでお友達と買い物に行くって言っていたような?
「お帰り、今日は獅子王ちゃんはいないの?」
「ただいま。獅子王は今日バイトだよ」
「メイドさんやってるんでしょ?獅子王ちゃん可愛いし、モテるわよねえ」
「そりゃあモテるよ。僕もまた行くんだ」
母さんと話すとあまり母親って感じじゃないんだよな。親しい女友達って感じだ。まぁこんな僕に友達なんているはずもなく。
「キョウ、お願いがあるの」
母さんの声のトーンが変わる。なんかやな予感するなぁ。
「お盆なんだけど、ひいおじいちゃんのお墓参り行ってきて!!」
「えぇ?あの山の中の?」
「おじいちゃんもおばあちゃんも、もう大変だから行けないみたいなの。お母さん、お家の片付けしたいし」
なんていうことだ。まさか僕にお鉢が回ってくるとは。
「お小遣いあげるから」
う…それには弱い。僕は渋々頷いていた。
『お墓参り?山の中?』
夜、僕は獅子王と通話をしていた。久しぶりに声が聞けて嬉しい。獅子王は今日、課題と戦っていたらしい。苦手な英語をやっつけたと喜んでいた。
「そう。山の麓に墓地があってね、結構暗くて怖いんだ」
僕がそう言うと、獅子王は興味を持ったらしい。まさか。
『俺も行く』
「で、でも、コンビニもないんだよ?」
『いいじゃないか。大自然を堪能しようぜ』
そんないいものじゃないんだけどな。獅子王の話によると、獅子王の親戚はみんな都内で暮らしていて、田舎に帰るという概念がないらしい。だから田舎というものに憧れがあるんだとか。
「獅子王、山道だからちゃんと運動靴で来るんだよ?」
いつものヒールのついた靴じゃさすがにきついだろう。獅子王は分かった!と朗らかに頷いたのだった。大丈夫かな?
✢✢✢
獅子王とは新幹線に乗る駅で待ち合わせをしていた。獅子王が手を振っている。ロングTシャツに動きやすそうなパンツ姿だった。正直に言って可愛い。足元はピンク色のスニーカー。獅子王さん、コーデに余念がない。
「キョウ、おはよう!キョウママもおはようございます!」
「あらあら、おはよう。獅子王ちゃん。可愛いスニーカーね」
「オキニです」
獅子王と母さんは波長が合うのかめちゃくちゃ仲が良い。時々しか会わないこともあってか新幹線の中でもずっと話していた。仲間外れにされてるみたいで寂しい。
「キョウ、アイス食おうぜ」
「え?いいけど」
車内販売をしているお姉さんからアイスを買う。母さんはダイエット中だからとやめておくらしい。獅子王がチョコレートで僕がバニラだ。
「あ、やっぱ固いな」
獅子王がスプーンでアイスをトントン叩いている。え、そんな固いはずは…。僕もスプーンでアイスを掬おうとした。
「固っ!」
「だろ?有名らしいぜ、固くて。でもめちゃ美味いらしい」
スマートフォンで検索してみたら、スゲーカタイアイスという名称が付いているとのことだった。
食べ終えるまでに30分以上はかかる強者らしい。
これだけ固ければ仕方ないと思う。僕たちはまるで工事現場の人のように、アイスを叩いたり削ったりしながら食べた。確かに美味しい。固くなる理由としては乳脂肪分が多いからだとか。苦戦しながら食べてる僕たちを母さんは可愛いと言って写真を撮っていた。獅子王はともかく、僕に可愛い要素はないと思うんだけど。
「キョウママ。後で写真共有頼む」
「了解!」
いつの間にかこの二人が繋がっていた。母さんのことだから僕の恥ずかしい話とか絶対にしている、間違いない。
そんなことをしているうちに新幹線は目的の駅に辿り着いていた。田舎だけどまだ賑わっている方だろう。一応観光地だしな。
「へー、ここがキョウママの地元かー」
獅子王がきょろきょろしている。
「おじいちゃんが迎えに来てくれてるみたいなんだけど」
ふとクラクションが軽く鳴らされた。どうやらおじいちゃんだ。おじいちゃんの車は大きい。それもそうだろう。母さんの弟、つまりおじさん一家が一緒に暮らしているからだ。確かいとこがいたはずだけど、まだ小さいから遊べない。
「敏子、キョウ、久しぶりだな。その子が獅子王ちゃんか?」
おじいちゃんは控えめに言ってもかっこいい。年齢の割に若く見えるし背筋だってしゃんとしている。
「お父さん、よかった」
お母さんが助手席に乗り込んだので、僕と獅子王も後部座席に乗り込んだ。車の中は冷房が効いていて涼しいな。
「お願いします」
「可愛い子だねえ。キョウと付き合ってるの?」
「はい」
獅子王がしっかりと頷く。僕としては嬉しいけど少し恥ずかしいような複雑な感情だった。
「キョウはこう見えて打たれ弱いから、優しくしてやってな」
おじいちゃん?何を勝手な。
「心得ています」
獅子王が笑って答える。心得ていたんだ、知らなかった。
車はスムーズに道路をぐいぐい走る。
「おじいちゃん、お墓参りは僕と獅子王で行ってくるよ。掃除もすればいい?」
「ああ、助かるな。明日頼むよ。今日は猟友会の連中がうろついているから」
さすが山。動物がいるんだよな。
「キョウ、リョウユウカイってなんだ?」
獅子王が首を傾げる。
「えーと、ハンターみたいな」
「すっげー、かっこいいな」
「地味な仕事だよ。ひたすら山道を歩いて、動物に警告するんだ。増えてきたら殺して食べたり」
「なるほど。キョウも一緒に歩いたことがあるのか?」
「うん。おじいちゃんも猟友会のメンバーだったから一緒に歩いたよ」
「すげー」
獅子王にとってはなんでも物珍しいんだろうな。しばらく車を走らせるとおじいちゃんの家が見えて来た。
「でかっ」
獅子王が驚いている。一応名家だしなあ。車を家の前に停めるとおばあちゃんが出て来た。
「よく来たわねえ。お疲れ様」
「お母さん、久しぶり」
母さんがおばあちゃんに抱き着いている。
「キョウも来てくれて、獅子王ちゃん、本当に可愛い子ねえ」
やっぱり獅子王は誰が見ても可愛いんだな。
「あ、お世話になります」
獅子王が頭を下げると、おばあちゃんが笑って頷いた。
「スイカ食べられる?」
「あ、はい」
おばあちゃんがそばにある井戸からスイカを丸ごと取り出した。
「みんなで食べましょうか」
おばあちゃんが切ってくれたスイカは瑞々しくて甘かった。
「美味いな」
獅子王は相変わらず美味しそうに食べる天才だ。しゃくしゃくと噛むたびに音がする。
「あ、そうそう。これお小遣い」
おばあちゃんが僕達にポチ袋を渡してくる。もちろん母さんにもだ。
「ええ、お母さんいいのに」
母さんが断っているけどおばあちゃんがそれで引き下がるはずもない。
「いいじゃないの。たまにしか会えないんだし」
「ありがとうね」
僕たちもお礼を言って受け取った。このお金は貯金しよう。大型バイクの免許を取る時の費用に充てよう。
「ささ、疲れたでしょ。お風呂に入って夕飯食べましょう」
おばあちゃんが言って僕たちは家の中に足を踏み入れた。昔の家だから段差が多い。でも広いしエアコンも各部屋についているからめちゃくちゃ快適だ。さすがお金持ちの家。ちなみにテレビもある。素晴らしい。
「獅子王ちゃん、先に入って」
「え、あ、はい」
おばあちゃんにバスタオルを渡された獅子王は寝間着と下着の替えを持って風呂場に向かった。僕は次なんだろうな。
「キョウくん、夕飯これしかないけど」
テーブルに着くとめいっぱいのおかずが並んでいた。唐揚げとか、肉じゃが、お刺身なんかも並んでいる。僕はお腹が凄く空いていた。駅弁だけじゃ足りなかったんだよなあ。多分それは獅子王も同じ。
「いただきます」
母さんはビールを飲んでいる。いいなあ、早く僕も大人になってお酒を飲んだ後くーって言ってみたい。
「美味しい」
母さんは仕事の時は飲まないようにしているらしい。それがまた可愛いとお店で好評なのだそうだ。
まあ母さんが美人なのは間違いない。
「お風呂頂きました」
獅子王が長い髪を一つに結ってやって来る。か、可愛いなその髪型。僕がじっと見とれていると、獅子王に首を傾げられた。
「なんか変か?」
「ううん、可愛いなって思って」
「俺は風呂上りでも可愛いんだな」
えっへんと獅子王が胸をのけ反らす。うん、本当そういうとこ可愛いよね。
「キョウくんも入ってきて」
「はーい」
僕もバスタオル片手に風呂場に向かった。そういえば獅子王の寝間着も可愛かったからあとで写真を撮らせてもらおう。夕飯を食べていたらおじさん夫婦がやって来た。そうか、二世帯住宅だから居住スペースが違うんだな。
「姉さん、俺たちも混ぜてくれよ」
「いいけど、あたしは強いわよお」
どうやら酒盛り大会が始まるらしい。僕はそっと獅子王の手を掴んだ。
「じゃあ先に寝るね。おやすみなさい」
おやすみなさいと各々が返してくれる。部屋に入るとホッとした。
「キョウ、親戚の人いっぱいいるんだな」
「そうかな?あんまり詳しくなくて」
「でもみんないい人じゃないか」
獅子王がにっこり笑いながら言う。その通りではある。
「明日はお墓の掃除をするんだろ?早く寝て疲れを取らなきゃな」
「獅子王、ちょっと触っていい?」
そう尋ねると獅子王から抱き着いて来てくれた。
「俺もそう思ってた」
嬉しいな。獅子王の長い金髪を指で梳く。さらさらした髪の毛。獅子王が目を閉じて唇を軽く突き出してくる。キス待ちの顔も可愛いな。僕は啄むように獅子王の唇を唇で挟んだ。ちゅっと吸い上げる。
「ん…」
獅子王の唇は今日、グロスが塗られてテカテカしていた。先程のお風呂で取れてしまったみたいだけど、唇がつやつやなのは変わらない。
「っ…」
ちゅっと、軽いキスから深いキスに移行する。
好きだな、ずっと。
きっと変わらないんだろうな。
「獅子王、大丈夫?疲れてるのにごめんね」
「ん…キョウだって同じだろ?」
僕たちはもう一度抱きしめ合って離れた。そろそろ寝たほうが良さそうだ。明日だって早いんだから。
おしまい
「キョウくん、少ないけどボーナスね。助かったわあ」
「え?ボーナスなんて頂いていいんですか?」
僕が驚いていると、この店では当たり前らしい。確かに結構お客さん来るもんな。
「もちろん。キョウくんがかっこいいから目当てで来るお客さんも多いの。そのお礼も入っているから」
「ありがとうございます」
せっかくくれるならもらわない手はないよなあ。僕はお給料の入った封筒を受け取った。大事にリュックサックに入れる。これでまた獅子王のいるメイド喫茶で遊べるぞ。
そんな喜びを噛みしめながら僕は帰宅した。家に帰ると母さんがいて驚いた。今日は休みでお友達と買い物に行くって言っていたような?
「お帰り、今日は獅子王ちゃんはいないの?」
「ただいま。獅子王は今日バイトだよ」
「メイドさんやってるんでしょ?獅子王ちゃん可愛いし、モテるわよねえ」
「そりゃあモテるよ。僕もまた行くんだ」
母さんと話すとあまり母親って感じじゃないんだよな。親しい女友達って感じだ。まぁこんな僕に友達なんているはずもなく。
「キョウ、お願いがあるの」
母さんの声のトーンが変わる。なんかやな予感するなぁ。
「お盆なんだけど、ひいおじいちゃんのお墓参り行ってきて!!」
「えぇ?あの山の中の?」
「おじいちゃんもおばあちゃんも、もう大変だから行けないみたいなの。お母さん、お家の片付けしたいし」
なんていうことだ。まさか僕にお鉢が回ってくるとは。
「お小遣いあげるから」
う…それには弱い。僕は渋々頷いていた。
『お墓参り?山の中?』
夜、僕は獅子王と通話をしていた。久しぶりに声が聞けて嬉しい。獅子王は今日、課題と戦っていたらしい。苦手な英語をやっつけたと喜んでいた。
「そう。山の麓に墓地があってね、結構暗くて怖いんだ」
僕がそう言うと、獅子王は興味を持ったらしい。まさか。
『俺も行く』
「で、でも、コンビニもないんだよ?」
『いいじゃないか。大自然を堪能しようぜ』
そんないいものじゃないんだけどな。獅子王の話によると、獅子王の親戚はみんな都内で暮らしていて、田舎に帰るという概念がないらしい。だから田舎というものに憧れがあるんだとか。
「獅子王、山道だからちゃんと運動靴で来るんだよ?」
いつものヒールのついた靴じゃさすがにきついだろう。獅子王は分かった!と朗らかに頷いたのだった。大丈夫かな?
✢✢✢
獅子王とは新幹線に乗る駅で待ち合わせをしていた。獅子王が手を振っている。ロングTシャツに動きやすそうなパンツ姿だった。正直に言って可愛い。足元はピンク色のスニーカー。獅子王さん、コーデに余念がない。
「キョウ、おはよう!キョウママもおはようございます!」
「あらあら、おはよう。獅子王ちゃん。可愛いスニーカーね」
「オキニです」
獅子王と母さんは波長が合うのかめちゃくちゃ仲が良い。時々しか会わないこともあってか新幹線の中でもずっと話していた。仲間外れにされてるみたいで寂しい。
「キョウ、アイス食おうぜ」
「え?いいけど」
車内販売をしているお姉さんからアイスを買う。母さんはダイエット中だからとやめておくらしい。獅子王がチョコレートで僕がバニラだ。
「あ、やっぱ固いな」
獅子王がスプーンでアイスをトントン叩いている。え、そんな固いはずは…。僕もスプーンでアイスを掬おうとした。
「固っ!」
「だろ?有名らしいぜ、固くて。でもめちゃ美味いらしい」
スマートフォンで検索してみたら、スゲーカタイアイスという名称が付いているとのことだった。
食べ終えるまでに30分以上はかかる強者らしい。
これだけ固ければ仕方ないと思う。僕たちはまるで工事現場の人のように、アイスを叩いたり削ったりしながら食べた。確かに美味しい。固くなる理由としては乳脂肪分が多いからだとか。苦戦しながら食べてる僕たちを母さんは可愛いと言って写真を撮っていた。獅子王はともかく、僕に可愛い要素はないと思うんだけど。
「キョウママ。後で写真共有頼む」
「了解!」
いつの間にかこの二人が繋がっていた。母さんのことだから僕の恥ずかしい話とか絶対にしている、間違いない。
そんなことをしているうちに新幹線は目的の駅に辿り着いていた。田舎だけどまだ賑わっている方だろう。一応観光地だしな。
「へー、ここがキョウママの地元かー」
獅子王がきょろきょろしている。
「おじいちゃんが迎えに来てくれてるみたいなんだけど」
ふとクラクションが軽く鳴らされた。どうやらおじいちゃんだ。おじいちゃんの車は大きい。それもそうだろう。母さんの弟、つまりおじさん一家が一緒に暮らしているからだ。確かいとこがいたはずだけど、まだ小さいから遊べない。
「敏子、キョウ、久しぶりだな。その子が獅子王ちゃんか?」
おじいちゃんは控えめに言ってもかっこいい。年齢の割に若く見えるし背筋だってしゃんとしている。
「お父さん、よかった」
お母さんが助手席に乗り込んだので、僕と獅子王も後部座席に乗り込んだ。車の中は冷房が効いていて涼しいな。
「お願いします」
「可愛い子だねえ。キョウと付き合ってるの?」
「はい」
獅子王がしっかりと頷く。僕としては嬉しいけど少し恥ずかしいような複雑な感情だった。
「キョウはこう見えて打たれ弱いから、優しくしてやってな」
おじいちゃん?何を勝手な。
「心得ています」
獅子王が笑って答える。心得ていたんだ、知らなかった。
車はスムーズに道路をぐいぐい走る。
「おじいちゃん、お墓参りは僕と獅子王で行ってくるよ。掃除もすればいい?」
「ああ、助かるな。明日頼むよ。今日は猟友会の連中がうろついているから」
さすが山。動物がいるんだよな。
「キョウ、リョウユウカイってなんだ?」
獅子王が首を傾げる。
「えーと、ハンターみたいな」
「すっげー、かっこいいな」
「地味な仕事だよ。ひたすら山道を歩いて、動物に警告するんだ。増えてきたら殺して食べたり」
「なるほど。キョウも一緒に歩いたことがあるのか?」
「うん。おじいちゃんも猟友会のメンバーだったから一緒に歩いたよ」
「すげー」
獅子王にとってはなんでも物珍しいんだろうな。しばらく車を走らせるとおじいちゃんの家が見えて来た。
「でかっ」
獅子王が驚いている。一応名家だしなあ。車を家の前に停めるとおばあちゃんが出て来た。
「よく来たわねえ。お疲れ様」
「お母さん、久しぶり」
母さんがおばあちゃんに抱き着いている。
「キョウも来てくれて、獅子王ちゃん、本当に可愛い子ねえ」
やっぱり獅子王は誰が見ても可愛いんだな。
「あ、お世話になります」
獅子王が頭を下げると、おばあちゃんが笑って頷いた。
「スイカ食べられる?」
「あ、はい」
おばあちゃんがそばにある井戸からスイカを丸ごと取り出した。
「みんなで食べましょうか」
おばあちゃんが切ってくれたスイカは瑞々しくて甘かった。
「美味いな」
獅子王は相変わらず美味しそうに食べる天才だ。しゃくしゃくと噛むたびに音がする。
「あ、そうそう。これお小遣い」
おばあちゃんが僕達にポチ袋を渡してくる。もちろん母さんにもだ。
「ええ、お母さんいいのに」
母さんが断っているけどおばあちゃんがそれで引き下がるはずもない。
「いいじゃないの。たまにしか会えないんだし」
「ありがとうね」
僕たちもお礼を言って受け取った。このお金は貯金しよう。大型バイクの免許を取る時の費用に充てよう。
「ささ、疲れたでしょ。お風呂に入って夕飯食べましょう」
おばあちゃんが言って僕たちは家の中に足を踏み入れた。昔の家だから段差が多い。でも広いしエアコンも各部屋についているからめちゃくちゃ快適だ。さすがお金持ちの家。ちなみにテレビもある。素晴らしい。
「獅子王ちゃん、先に入って」
「え、あ、はい」
おばあちゃんにバスタオルを渡された獅子王は寝間着と下着の替えを持って風呂場に向かった。僕は次なんだろうな。
「キョウくん、夕飯これしかないけど」
テーブルに着くとめいっぱいのおかずが並んでいた。唐揚げとか、肉じゃが、お刺身なんかも並んでいる。僕はお腹が凄く空いていた。駅弁だけじゃ足りなかったんだよなあ。多分それは獅子王も同じ。
「いただきます」
母さんはビールを飲んでいる。いいなあ、早く僕も大人になってお酒を飲んだ後くーって言ってみたい。
「美味しい」
母さんは仕事の時は飲まないようにしているらしい。それがまた可愛いとお店で好評なのだそうだ。
まあ母さんが美人なのは間違いない。
「お風呂頂きました」
獅子王が長い髪を一つに結ってやって来る。か、可愛いなその髪型。僕がじっと見とれていると、獅子王に首を傾げられた。
「なんか変か?」
「ううん、可愛いなって思って」
「俺は風呂上りでも可愛いんだな」
えっへんと獅子王が胸をのけ反らす。うん、本当そういうとこ可愛いよね。
「キョウくんも入ってきて」
「はーい」
僕もバスタオル片手に風呂場に向かった。そういえば獅子王の寝間着も可愛かったからあとで写真を撮らせてもらおう。夕飯を食べていたらおじさん夫婦がやって来た。そうか、二世帯住宅だから居住スペースが違うんだな。
「姉さん、俺たちも混ぜてくれよ」
「いいけど、あたしは強いわよお」
どうやら酒盛り大会が始まるらしい。僕はそっと獅子王の手を掴んだ。
「じゃあ先に寝るね。おやすみなさい」
おやすみなさいと各々が返してくれる。部屋に入るとホッとした。
「キョウ、親戚の人いっぱいいるんだな」
「そうかな?あんまり詳しくなくて」
「でもみんないい人じゃないか」
獅子王がにっこり笑いながら言う。その通りではある。
「明日はお墓の掃除をするんだろ?早く寝て疲れを取らなきゃな」
「獅子王、ちょっと触っていい?」
そう尋ねると獅子王から抱き着いて来てくれた。
「俺もそう思ってた」
嬉しいな。獅子王の長い金髪を指で梳く。さらさらした髪の毛。獅子王が目を閉じて唇を軽く突き出してくる。キス待ちの顔も可愛いな。僕は啄むように獅子王の唇を唇で挟んだ。ちゅっと吸い上げる。
「ん…」
獅子王の唇は今日、グロスが塗られてテカテカしていた。先程のお風呂で取れてしまったみたいだけど、唇がつやつやなのは変わらない。
「っ…」
ちゅっと、軽いキスから深いキスに移行する。
好きだな、ずっと。
きっと変わらないんだろうな。
「獅子王、大丈夫?疲れてるのにごめんね」
「ん…キョウだって同じだろ?」
僕たちはもう一度抱きしめ合って離れた。そろそろ寝たほうが良さそうだ。明日だって早いんだから。
おしまい
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