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千尋・加那太・真司・千晶
急な来訪者②(ハロウィン)
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次の日、千晶は午後休を取り、子どもたちの迎えに行った。子どもたちが自宅にいる間、午後は仕事を休むことにした。
「千晶さん…来てくれたんだ」
小学校に向かうと、透馬が戸惑いながらも千晶のそばに駆け寄ってくる。
「凛くんはもうお迎えの時間?」
「あ、はい」
透馬がチラチラ千晶を窺うように見る。
「どうかした?」
「あ、本当に可愛いなって」
「へ?」
千晶が首を傾げると透馬の顔がブワッと赤くなる。
「な、何でもない」
千晶は笑った。千晶は透馬に授業のことや学校について尋ねる。話によれば仲良しの友達もいるようだ。透馬も弟の凛の前では大人のような表情をしているが彼にも年相応の顔があると知って千晶はホッとした。
「今日は皆でやったプログラミングが楽しかった」
「プログラミング…?」
思っていたより高度な授業内容に千晶は驚いてしまう。
「そう、タブレットでね、出来るんだよ」
「すごいね」
「僕、パソコンでコードを書けるようになりたくて家で勉強してるんだ。そういうのを教えてくれるコミュニティにも入ってるんだよ」
透馬が笑いながら言う。彼の笑顔を初めて見たような気がする。千晶はそれにもホッとした。そして、透馬が普段から自分を抑えながら暮らしているという事実に胸が苦しくなる。千晶は透馬の頭を撫でた。
「透馬くんの好きなこと、いっぱい出来るといいね」
「うん、僕、もっと勉強頑張る」
子供というものはなんてまっすぐなんだろう、と千晶は感心した。そうこうしているうちに、凛の通う保育園に着く。
「こんにちは。お世話になってます」
「あ、透馬くんこんにちは」
保育士が千晶をちらっと見た。千晶はあくまで堂々と笑って頭を下げる。
「お兄ちゃん!」
凛が駆け寄ってきた。行きは皆で車で来たので、その時も注目されたのだ。
「千晶お兄ちゃん!!来てくれたの?」
凜はすっかり千晶と真司に懐いている。
「今日は明日のケーキを焼くから、二人共お手伝いしてくれる?」
「うん!」
二人が元気よく頷く。3人で手を繋いで話をしながら帰った。
家に帰り、千晶はおやつを二人に出した。もし子供がいたらこんな感じなのかと千晶は新鮮に思う。だがもちろん、自分では産めないのであくまでも疑似体験に過ぎないが、千晶なりに彼らを大事に思っている。
「このお菓子美味しい!」
千晶はいつも、自分のご褒美用にと安くて美味い菓子をあちこちの店で探している。今季のリピート商品はこの時期になると出る、定番のさつまいもチップスだった。
あまりに美味しいので小袋に分けられているものを食べている。そうじゃないと食べすぎてしまうからだ。菓子を食べすぎて、太るのは本意ではない。
千晶はエプロンを着けて、夕飯の支度を始めた。10月になって急に冷え込んだ。体を温めるものにしようとクリームシチューのルゥを取り出す。千晶は鼻歌を歌いながら野菜の皮剥きを始めた。
そっと子供たちの様子を見ると、凛は子供向けのアニメを見ている。透馬は宿題をしているようだ。千晶は再び料理に取り掛かった。
「ただいま」
「お帰りなさい、真司さん」
「お帰りなさい!」
19時頃になり、真司が帰宅してきた。凜が駆け寄ってきて真司の足に抱き着く。真司はよいしょ、と凜を抱き上げた。
「お、ケーキ焼いてるのか?」
「はい、楽しみすぎてもう」
ふふ、と千晶が笑う。
「僕ね!生地をまぜまぜしたの!」
凛が勝ち誇ったように言うのがなんとも可愛らしい。
「すごく生地が膨らんでるよ」
透馬が報告してくる。千晶は竹串を手に、オーブンが止まるのを待った。ピーピーとオーブンが鳴り出す。
千晶は気を付けながら生地を取り出して竹串を刺した。
「いいみたいだ」
今日はすりつぶしたかぼちゃが入ったシフォンケーキだ。ハロウィンといえばかぼちゃである。
ここから粗熱を取る。
「じゃあご飯にしましょうか」
ナキにカリカリを出してから皆で頂きますをする。
「美味ーい」
サラダとチキンナゲットも作っておいたがこちらも好評だった。
「千晶お兄ちゃん、お料理上手なんだね!」
凛が口の周りにシチューを付けている。千晶がティッシュで拭ってやると嬉しそうに笑った。
「お母さんはどんなお料理を作ってくれるんだ?」
真司が尋ねると、凛と透馬が表情を暗くした。
「冷凍食品ばっかり。料理なんて作ってるとこ見たことないよ。いつも仕事が忙しいって言ってる」
「お母さん、僕たちのこと嫌いなのかな」
凜が泣きそうな顔で言う。真司と千晶はそっと目配せし合った。ネグレクトかもしれないと二人は話していた。真司は何度か母親の携帯に電話を入れてみたが返ってくる様子がない。メッセージも残しているのだが効果はなかった。
「二人共、落ち着いて」
千晶はあくまでも明るい声で言った。
「お母さんと連絡が付いたらまた話し合おう?」
「僕たち捨てられたんじゃないの?」
子供は大人が思っているより遥かに敏い。千晶は透馬の頭を撫でた。そうしなければ、自分が泣きそうだった。
夕飯を食べ終えて、子供たちを風呂に入れる。その間千晶は真司と話し合っていた。ずっと自分たちが預かり続けられるかと言えばあまり現実的ではない。
やはり父親に交渉してみるしかないと二人の間で結論が出た。
彼からは何度か子供たちの様子を尋ねるメッセージが来ている。土曜日にこちらへ来るとも言ってくれていた。だが、最後に決めるのは子供たちだ。
千晶は明日のパーティのためにおかずを作り始めた。何かしていないと落ち着かないのだ。真司もそうなのか、部屋の掃除をし始めている。
「二人共、明日のパーティの準備?」
「わぁぁ、パーティ楽しみー!」
千晶と真司はドキドキしながらも子供たちに向かってそうだと頷いた。
「あのな、凛、透馬。お父さんが明後日こっちに来るって言ってるけどどうする?」
真司がなんでもない風を装って二人に尋ねる。
「ええ?お父さんに会いたい!」
「僕もお父さんと話したい」
二人は父親を嫌っているわけではないらしい。では離婚の原因はなんだろうと千晶は考えた。
***
次の日の夜
「こんばんはー」
パーティの準備がすっかり整ったと思った時に誰かが尋ねて来る。透馬と凛が誰が来たのだろうと首を傾げている。
「かなさん、いらっしゃい」
その後ろから身長のある千尋がやって来る。子どもたちはいよいよ固まった。
「こんばんは。お招きありがとう」
「千尋さん、こんばんは」
千尋は子供たちの傍にやってきて屈んだ。
「俺は怖くないからな?」
「十分怖いからね?千尋?」
それに真司が噴き出す。千晶もだ。子どもたちはどうしたものかと状況を窺っている。
「大丈夫だよ、二人共。かなさんと千尋さんは俺たちの友達だから」
「お友達の顔面偏差値高すぎないですか?」
透馬が恐る恐る言う。
「二人共美人さんだからなあ」
真司が困ったように言う。そうこうしている内に千晶はてきぱきとパーティの仕度をしていた。
「あき、イカ飯食うか?作ってみた」
「ええ?すごい。いただきます。今温めますね」
こうしてパーティが始まったのである。
***
初めは飲んだり食べたりを楽しんでいたが、加那太がそうだと声を上げた。
「みんな、トリックオアトリート?」
加那太が持っているのはお菓子の包みだ。本来であればもらう側が言うのだが、加那太式のハロウィンらしい。
「トリート!!」
みんなで一斉に言う。
「というか、加那の仕掛ける悪戯ってなんだよ?」
千尋が呆れたように言う。加那太が笑って一冊の本を千尋に渡した。千尋がペらりとそれを捲ると、びよーんとピエロの顔が飛び出してくる。
「うわ、普通に怖い」
「ピエロ恐怖症に配慮しろよ」
悪戯の披露ができて加那太は安心したように笑った。
「このケーキいつ食べるの?」
加那太が身を乗り出す。子どもの面前でもこの人は変わらない。普段から子供と接している関係もある。
「あ、そろそろ切ってみましょうか」
千晶はナイフを手にやってきた。ケーキを綺麗に等分する。
「今日はかぼちゃのシフォンケーキなんです。みんなで作ったんですよ」
ケーキを載せた皿にたっぷりクリームを盛りつけた。見るからにふわふわしているのが分かる出来栄えだ。
「わあ、美味しそう」
加那太は嬉しそうに一口頬張る。
「うわあ、甘い、美味しい」
「良かったです」
他の者もケーキを口に運んでみる。
「わあ、カボチャの味する」
「クリームあんまり甘くないんだな」
千晶もドキドキしながら一口食べてみた。思っていたより美味しく出来た。
いつも自分でケーキを焼いた時はブログで考察をする。今回もそのつもりで作っている最中に写真を撮っている。
透馬がちらちらと加那太と千尋を見つめている。
「透馬くん?」
加那太が首を傾げる。
「二人共、好きな人と暮らしていて羨ましくて。千晶さんと真司さんも」
しょんぼりと透馬は肩を落としている。
「大丈夫。きっとなんとかなるよ」
加那太が透馬の頭を撫でる。
「そうだな、考えすぎてパフォーマンスが下がるのは避けるべきだ」
千晶は加那太と千尋にも虐待の疑いがあることを告げていた。二人共それを知っているせいか明るく振る舞ってくれている。
「みんな、沢山食べてくださいね」
千晶はにこやかに料理を薦めた。
***
楽しかったパーティの時間はあっという間に過ぎて行った。加那太も千尋も帰る間際まで子供たちのことを心配してくれた。子どもたちは疲れたのだろう、すでによく眠っている。
「真司さん、明日・・」
千晶は言葉を継げなかった。自分達は本当に正しいことをしているのかどうか自信が持てなかった。
父親は今日も子供たちの様子をメッセージで尋ねてくれている。だが、どうしても最悪なパターンを想定してしまう。そんな千晶を真司は抱きしめてくれた。
「もしお父さんに暴力を振るわれていたなら、会いたいなんて言わないんじゃないのか?」
「でも」
この心配が杞憂で終わって欲しい。千晶はそう願っている。
「千晶さん…来てくれたんだ」
小学校に向かうと、透馬が戸惑いながらも千晶のそばに駆け寄ってくる。
「凛くんはもうお迎えの時間?」
「あ、はい」
透馬がチラチラ千晶を窺うように見る。
「どうかした?」
「あ、本当に可愛いなって」
「へ?」
千晶が首を傾げると透馬の顔がブワッと赤くなる。
「な、何でもない」
千晶は笑った。千晶は透馬に授業のことや学校について尋ねる。話によれば仲良しの友達もいるようだ。透馬も弟の凛の前では大人のような表情をしているが彼にも年相応の顔があると知って千晶はホッとした。
「今日は皆でやったプログラミングが楽しかった」
「プログラミング…?」
思っていたより高度な授業内容に千晶は驚いてしまう。
「そう、タブレットでね、出来るんだよ」
「すごいね」
「僕、パソコンでコードを書けるようになりたくて家で勉強してるんだ。そういうのを教えてくれるコミュニティにも入ってるんだよ」
透馬が笑いながら言う。彼の笑顔を初めて見たような気がする。千晶はそれにもホッとした。そして、透馬が普段から自分を抑えながら暮らしているという事実に胸が苦しくなる。千晶は透馬の頭を撫でた。
「透馬くんの好きなこと、いっぱい出来るといいね」
「うん、僕、もっと勉強頑張る」
子供というものはなんてまっすぐなんだろう、と千晶は感心した。そうこうしているうちに、凛の通う保育園に着く。
「こんにちは。お世話になってます」
「あ、透馬くんこんにちは」
保育士が千晶をちらっと見た。千晶はあくまで堂々と笑って頭を下げる。
「お兄ちゃん!」
凛が駆け寄ってきた。行きは皆で車で来たので、その時も注目されたのだ。
「千晶お兄ちゃん!!来てくれたの?」
凜はすっかり千晶と真司に懐いている。
「今日は明日のケーキを焼くから、二人共お手伝いしてくれる?」
「うん!」
二人が元気よく頷く。3人で手を繋いで話をしながら帰った。
家に帰り、千晶はおやつを二人に出した。もし子供がいたらこんな感じなのかと千晶は新鮮に思う。だがもちろん、自分では産めないのであくまでも疑似体験に過ぎないが、千晶なりに彼らを大事に思っている。
「このお菓子美味しい!」
千晶はいつも、自分のご褒美用にと安くて美味い菓子をあちこちの店で探している。今季のリピート商品はこの時期になると出る、定番のさつまいもチップスだった。
あまりに美味しいので小袋に分けられているものを食べている。そうじゃないと食べすぎてしまうからだ。菓子を食べすぎて、太るのは本意ではない。
千晶はエプロンを着けて、夕飯の支度を始めた。10月になって急に冷え込んだ。体を温めるものにしようとクリームシチューのルゥを取り出す。千晶は鼻歌を歌いながら野菜の皮剥きを始めた。
そっと子供たちの様子を見ると、凛は子供向けのアニメを見ている。透馬は宿題をしているようだ。千晶は再び料理に取り掛かった。
「ただいま」
「お帰りなさい、真司さん」
「お帰りなさい!」
19時頃になり、真司が帰宅してきた。凜が駆け寄ってきて真司の足に抱き着く。真司はよいしょ、と凜を抱き上げた。
「お、ケーキ焼いてるのか?」
「はい、楽しみすぎてもう」
ふふ、と千晶が笑う。
「僕ね!生地をまぜまぜしたの!」
凛が勝ち誇ったように言うのがなんとも可愛らしい。
「すごく生地が膨らんでるよ」
透馬が報告してくる。千晶は竹串を手に、オーブンが止まるのを待った。ピーピーとオーブンが鳴り出す。
千晶は気を付けながら生地を取り出して竹串を刺した。
「いいみたいだ」
今日はすりつぶしたかぼちゃが入ったシフォンケーキだ。ハロウィンといえばかぼちゃである。
ここから粗熱を取る。
「じゃあご飯にしましょうか」
ナキにカリカリを出してから皆で頂きますをする。
「美味ーい」
サラダとチキンナゲットも作っておいたがこちらも好評だった。
「千晶お兄ちゃん、お料理上手なんだね!」
凛が口の周りにシチューを付けている。千晶がティッシュで拭ってやると嬉しそうに笑った。
「お母さんはどんなお料理を作ってくれるんだ?」
真司が尋ねると、凛と透馬が表情を暗くした。
「冷凍食品ばっかり。料理なんて作ってるとこ見たことないよ。いつも仕事が忙しいって言ってる」
「お母さん、僕たちのこと嫌いなのかな」
凜が泣きそうな顔で言う。真司と千晶はそっと目配せし合った。ネグレクトかもしれないと二人は話していた。真司は何度か母親の携帯に電話を入れてみたが返ってくる様子がない。メッセージも残しているのだが効果はなかった。
「二人共、落ち着いて」
千晶はあくまでも明るい声で言った。
「お母さんと連絡が付いたらまた話し合おう?」
「僕たち捨てられたんじゃないの?」
子供は大人が思っているより遥かに敏い。千晶は透馬の頭を撫でた。そうしなければ、自分が泣きそうだった。
夕飯を食べ終えて、子供たちを風呂に入れる。その間千晶は真司と話し合っていた。ずっと自分たちが預かり続けられるかと言えばあまり現実的ではない。
やはり父親に交渉してみるしかないと二人の間で結論が出た。
彼からは何度か子供たちの様子を尋ねるメッセージが来ている。土曜日にこちらへ来るとも言ってくれていた。だが、最後に決めるのは子供たちだ。
千晶は明日のパーティのためにおかずを作り始めた。何かしていないと落ち着かないのだ。真司もそうなのか、部屋の掃除をし始めている。
「二人共、明日のパーティの準備?」
「わぁぁ、パーティ楽しみー!」
千晶と真司はドキドキしながらも子供たちに向かってそうだと頷いた。
「あのな、凛、透馬。お父さんが明後日こっちに来るって言ってるけどどうする?」
真司がなんでもない風を装って二人に尋ねる。
「ええ?お父さんに会いたい!」
「僕もお父さんと話したい」
二人は父親を嫌っているわけではないらしい。では離婚の原因はなんだろうと千晶は考えた。
***
次の日の夜
「こんばんはー」
パーティの準備がすっかり整ったと思った時に誰かが尋ねて来る。透馬と凛が誰が来たのだろうと首を傾げている。
「かなさん、いらっしゃい」
その後ろから身長のある千尋がやって来る。子どもたちはいよいよ固まった。
「こんばんは。お招きありがとう」
「千尋さん、こんばんは」
千尋は子供たちの傍にやってきて屈んだ。
「俺は怖くないからな?」
「十分怖いからね?千尋?」
それに真司が噴き出す。千晶もだ。子どもたちはどうしたものかと状況を窺っている。
「大丈夫だよ、二人共。かなさんと千尋さんは俺たちの友達だから」
「お友達の顔面偏差値高すぎないですか?」
透馬が恐る恐る言う。
「二人共美人さんだからなあ」
真司が困ったように言う。そうこうしている内に千晶はてきぱきとパーティの仕度をしていた。
「あき、イカ飯食うか?作ってみた」
「ええ?すごい。いただきます。今温めますね」
こうしてパーティが始まったのである。
***
初めは飲んだり食べたりを楽しんでいたが、加那太がそうだと声を上げた。
「みんな、トリックオアトリート?」
加那太が持っているのはお菓子の包みだ。本来であればもらう側が言うのだが、加那太式のハロウィンらしい。
「トリート!!」
みんなで一斉に言う。
「というか、加那の仕掛ける悪戯ってなんだよ?」
千尋が呆れたように言う。加那太が笑って一冊の本を千尋に渡した。千尋がペらりとそれを捲ると、びよーんとピエロの顔が飛び出してくる。
「うわ、普通に怖い」
「ピエロ恐怖症に配慮しろよ」
悪戯の披露ができて加那太は安心したように笑った。
「このケーキいつ食べるの?」
加那太が身を乗り出す。子どもの面前でもこの人は変わらない。普段から子供と接している関係もある。
「あ、そろそろ切ってみましょうか」
千晶はナイフを手にやってきた。ケーキを綺麗に等分する。
「今日はかぼちゃのシフォンケーキなんです。みんなで作ったんですよ」
ケーキを載せた皿にたっぷりクリームを盛りつけた。見るからにふわふわしているのが分かる出来栄えだ。
「わあ、美味しそう」
加那太は嬉しそうに一口頬張る。
「うわあ、甘い、美味しい」
「良かったです」
他の者もケーキを口に運んでみる。
「わあ、カボチャの味する」
「クリームあんまり甘くないんだな」
千晶もドキドキしながら一口食べてみた。思っていたより美味しく出来た。
いつも自分でケーキを焼いた時はブログで考察をする。今回もそのつもりで作っている最中に写真を撮っている。
透馬がちらちらと加那太と千尋を見つめている。
「透馬くん?」
加那太が首を傾げる。
「二人共、好きな人と暮らしていて羨ましくて。千晶さんと真司さんも」
しょんぼりと透馬は肩を落としている。
「大丈夫。きっとなんとかなるよ」
加那太が透馬の頭を撫でる。
「そうだな、考えすぎてパフォーマンスが下がるのは避けるべきだ」
千晶は加那太と千尋にも虐待の疑いがあることを告げていた。二人共それを知っているせいか明るく振る舞ってくれている。
「みんな、沢山食べてくださいね」
千晶はにこやかに料理を薦めた。
***
楽しかったパーティの時間はあっという間に過ぎて行った。加那太も千尋も帰る間際まで子供たちのことを心配してくれた。子どもたちは疲れたのだろう、すでによく眠っている。
「真司さん、明日・・」
千晶は言葉を継げなかった。自分達は本当に正しいことをしているのかどうか自信が持てなかった。
父親は今日も子供たちの様子をメッセージで尋ねてくれている。だが、どうしても最悪なパターンを想定してしまう。そんな千晶を真司は抱きしめてくれた。
「もしお父さんに暴力を振るわれていたなら、会いたいなんて言わないんじゃないのか?」
「でも」
この心配が杞憂で終わって欲しい。千晶はそう願っている。
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