男の娘、愛doll始めました!

はやしかわともえ

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ゲーム

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昼下がり、講義を終えた翡翠は事務所に来ている。ロケハンも業務内ということで、給料がもらえるようだ。ありがたいことだ。
わたなべが境の家まで、車で送ってくれるようで、ますますありがたい。

「じゃあ行って来ます」

「行ってらっしゃい、気を付けてね」


今日は社長の黒咲もいた。彼女が送りだしてくれる。

「あの、わたなべさん。境さんってどんな人なんですか?」

車内でわたなべに尋ねると、彼女は考える様子を見せた。

「うーん、悪い人ではないと思うけど。
どちらかといえば、物静かって感じかしら。そうね、ゲームをこつこつしていくタイプみたい」

「へー」

あまりの情報の少なさに、ちょっと心配になるが、なるようにしかならないとも思う。
境の家はマンションだった。
だが特別セキュリティのしっかりしたマンションだ。
自分の家とは雲泥の差だなと翡翠は思う。

わたなべに部屋番号を教わり、ボタンを押した。すぐ境は出てくれる。すかさずわたなべが挨拶してくれる。

「あ、境さん。煌めき社のわたなべですー。今日はウチの翡翠をよろしくお願いします」

「分かりました。こちらこそよろしくお願いします」

傍から境の応対を聞いていて、少し安心した。
彼は普通に大人らしい。
わたなべに手を振り、翡翠はマンション内に入った。境の部屋は三階だ。
エレベーターを使って三階に上がると境が立っていた。

「君、やっぱりこの前の子だったんだ」

「初めまして、原翡翠といいます」

ぺこりと頭を下げると境もよろしく、と頭を下げた。

「この間は大丈夫だったんですか?」

翡翠はずっと気になっていたことを聞いてみた。境が困ったように笑う。

「ゲームの予約は出来たんだけど、君に会ったことをうっかりマネージャーに喋っちゃって全部バレた」

たはは、と境が笑う。
意外と天然な人なのかもしれない。

「なんのゲームを予約したんですか?」

「うん、詳しく話すね。とりあえず中に入ろう」

「はい」

境が翡翠の手を握って引っ張る。
あまりにも自然過ぎて、翡翠は驚いた。
きっと女性の扱いにも慣れているんだろう。

「何飲む?今って、もう暑いよね?」

境に連れられて入った部屋は広かった。空調が効いているのか涼しい。
観葉植物があちこちに置かれている。
家具は温かみのあるブラウン系でまとめているようだ。

台所も広い。翡翠が部屋を観察しているのが分かったのか、境は笑った。

「何か面白いものあった?」

そっと目を合わせて聞かれる。境は人気俳優というだけあって、顔立ちが華やかだ。
あの時は帽子を被っていたから分からなかったが、オーラみたいなものも感じる。

翡翠は困って、さっと彼から視線を外した。
なんだかドキドキしてしまうのは彼が有名な芸能人だからだろうか。

「えと、植物好きなんですか?」

「うん、割と」

にこにこしながら境が答えてくれる。

「とりあえず何か飲まない?アイスコーヒーならすぐ出せるから」

「はい」

翡翠は大人しく緑色のソファに座った。境がアイスコーヒーの入ったグラスをテーブルに置く。テーブルもまた木目調の優しい感じの物だった。

「翡翠くん、ミルクとガムシロ要る派?」

「はい」

ブラックでも飲めないことはないが、どちらかと言えば甘い方が好きだ。
境が用意してくれたものを翡翠はアイスコーヒーに入れた。
ストローでくるくるかき混ぜて一口飲む。
冷たくて美味しかった。

「美味しいです」

「よかった。最近コーヒーにハマってて色々チャレンジしてるとこ」

なんだかいいな、と思ってしまい、翡翠は慌てた。なにがどう、いいのだろうか。

「翡翠くん、もしかして暑い?顔真っ赤!
ちょっと待って、すぐ温度下げるね!」

境がわたわたしている。翡翠は暑いせいかと、自分を無理やり納得させた。
しばらくして空調が効いてくる。

「翡翠くん、大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

棒読みのようになんとか答える翡翠だ。
境がよかった、と笑ってくれた。
カッコいい、と翡翠の脳が反応している。

翡翠はそれを無視することにした。
今までだって同性を好きになったことはあった。だが自分をゲイと認めるのには抵抗があった。ただでさえ体が小さく、声変わりすらまともにしてくれないのに、更にゲイという属性まで持つなんて恐ろしかった。

きっと翡翠の周りの人は、翡翠を応援してくれる。いつも翡翠は応援されてばかりだ。

「翡翠くん、大丈夫?」

ついぼーっとしてしまった。翡翠は慌てて、グラスの中のコーヒーを服にこぼしてしまった。
今日はお気に入りのロングTシャツを着ていた。

「大丈夫?待って、擦らないで」

境が優しく言ってくれる。翡翠はロングTシャツを境に脱がされていた。
ロングTシャツの下は何も着ていなかったので、当然半裸になる。
筋肉のつきにくい、白い身体が顕になる。
もう少し筋肉がつけば、と筋トレもしているが、一向に成果は出ない。

「ちょ、ちょっと洗ってくるからこれ着ておいて」

境に手渡されたのは黒いTシャツだった。
広げてみると、白熊が無表情で挑発しているシュールなものだ。確かゲームのキャラクターだったはずである。

翡翠は大人しくそれを着た。
そのTシャツは少しサイズが大きい。
境が戻ってくる。

「今、洗濯してるからその間、ゲームしよっか。乾燥機もあるから着て帰れるよ」

「すみません、お願いします」

境が何故か困ったような表情をしているが、翡翠には理由が分からなかった。
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