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グランドバザール・再
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レヴェルとライダはいつものように作ったものを荷車に載せてフラワータウンにやって来ている。明日は朝からグランドバザールが開催される。
「わぁ、これ素敵なチェストですねー」
いつものようにギルドで出店登録をしていると、そう声を掛けられた。レヴェルの耳は声の主をしっかり察知している。相手はギルドの職員だ。若い人間の男性である。
「あ、それ、ためしに作ったやつで…」
レヴェルが困りながら答えると、彼はへー、とチェストの前に屈んだ。レヴェルが作ったチェストはキリ村の周りでしか採れないキリの木で出来ている。もちろん、高級品だ。だが、キリ村では当たり前に採れるので、キリ村に住む獣人たちはみんなキリの木で作られた家具を使っている。レヴェルもフラワータウンでグランドバザールに出るまでそのことを知らなかった。レヴェルの作る罠の木材はキリの木ではなく、オークという木を使っている。
そちらのほうが湿気や温度変化に強く、外に置くのに向いているからだ。
「これ、キリの木ですよね?」
「はい、そうです」
「おいくらですか?」
「えぇ…?」
じり、と職員に詰め寄られレヴェルは後ずさった。
「こちらは一点物なので金貨3枚です」
後ろからライダが言う。レヴェルはそれにも驚いた。金貨3枚は高すぎるのではないかと思ったのだ。
「買います」
職員が財布から金貨を取り出し、ライダに手渡す。
「ありがとうございます。こちら商品です」
ライダがチェストを渡す。あっさりした取引にレヴェルはただ見ていることしか出来なかった。
✢
「ほら、レヴィ」
宿の部屋でライダに先程受け取った金貨を手渡される。
「え、こんなに良かったのかな?」
金貨はこの世界に流通する貨幣の中で一番価値が高い。レヴェルは見慣れない金貨を見つめていた。
「いや、キリの木の家具は結構高いし、さっきの値段でも相場としては安い方だぞ」
「そうなの?ライダ詳しいね?」
「あぁ、この間フラワータウンに来た時に家具屋を見かけたんだ。面白そうだったから色々見てきた」
「そうだったんだー」
確かにライダは毛糸や縫い糸などを買いにフラワータウンまでよく出掛けている。フラワータウンにある専門店でまとめて購入する方が安上がりということらしい。
「レヴィ、もしかして売りたくなかったか?」
ライダの声に焦りが混じる。レヴェルはううんと首を振った。
「一生懸命作ったものだから売れて嬉しかったよ。でもまだまだだなって思っていたから」
「まだまだ…そうか?」
ライダが首を傾げる。
「俺、もっと頑張るよ。誰でも使いやすい家具を作る!」
「レヴィは高みを目指すんだな。俺も負けてられない」
レヴェルはウトウトしてきた。座っていたダブルのベッドに寝そべって丸くなる。
「レヴィ、シャワー浴びないのか?」
「眠たいの。明日浴びる」
レヴェルの記憶はここで途切れている。
✢
おいおい、とライダは思った。レヴェルが寝巻にすら着替えず眠ってしまったからだ。先程売ったチェストを作るため、昨日は随分作業を頑張っていた。
(レヴィ、疲れたんだな)
ライダはひょいとレヴェルの上半身を抱えた。ゆったり眠れるように寝巻に着せ替えようと思ったのだ。
「レヴィ、変なことは絶対にしない、約束する」
そう断ったが、レヴェルからの返事はない。すやすやと寝息を立てている。ライダはレヴェルが着ていたTシャツに手をかけた。肌に直に着ていたので乳首が丸見えになった。
「っ!!」
ライダは一度深呼吸をした。慌ててベッドに置かれていたガウンを着せ、前を留める。
さすがに下を脱がせるのは気まずいと思い、ライダはそのままレヴェルをベッドに寝かせ布団をかけた。レヴェルはすぴすぴと幸せそうに眠っている。
「レヴィ…怒るかな」
ライダも考えるのをやめて隣に寝そべった。
✢
「ふああ」
レヴェルはん、と伸びをした。ライダも隣で眠っている。彼が自分より遅くまで眠っているのは珍しい。レヴェルはそこで自分の格好に気が付いた。
「あれ?ガウン着てる。ライダが着せてくれたんだ」
「おはよう、レヴィ」
ライダがむくりと起き上がった。
「おはよう、ライダ。ガウン着せてくれてありがとうね!」
「いや、気にするな」
ふい、と視線を外されたがレヴェルは気が付かない。
「あ、シャワー浴びなくちゃね」
「あぁ。浴びたら朝飯を食べに行こう」
「うん」
✢
「こちらお品になります」
レヴェルはいつものように商品を客に手渡した。ありがとうと客は去っていく。
「すみませぇん」
ふと声を掛けられてレヴェルはそちらを見た。まだ幼い女の子である。
「どうされましたか?」
レヴェルが屈みながら聞くと女の子は恥ずかしそうに俯いてしまった。だが意を決したように言う。
「ドレッサーを作って欲しいの…その、ママに」
「ドレッサーかぁ」
レヴェルがふむと考えていると女の子に駆け寄る姿があった。
「レイナお嬢様、こんなところにいらっしゃったんですか!」
「じぃ」
じぃと呼ばれたその人は、燕尾服を着こなした白髪の男性だ。じぃ、と呼ばれるには若い。
「申し訳ありません。お店の邪魔を」
「いえ、依頼?を頂いたのですが」
レヴェルがそう返すと、男性はレイナと呼ばれた女の子を見つめた。
「じぃ、レイナ、このひとがいいの。お祖父様がうでがいいしょくにんって言ってたの」
「なるほど…レヴェルさんとおっしゃいましたね。お嬢様の依頼を受けていただけますか?」
「はい。出来ましたら後日、詳しいお話を聞かせてください」
「分かりました」
レヴェルは依頼書を取り出し、名前と連絡先を書いてもらった。この日、家具作りの依頼は3件あった。
✢
「疲れたぁ」
グランドバザールが終わり、レヴェルたちは店の片付けをしている。
「あぁ、本当だな。帰ったらよく休もう」
「うん。でも意外と依頼が来て嬉しかったよ。ライダもでしょ?」
「あぁ。明日から取り組むつもりだ」
「お互い頑張ろ!」
「あぁ」
2人は拳と拳を軽くぶつけた。
「わぁ、これ素敵なチェストですねー」
いつものようにギルドで出店登録をしていると、そう声を掛けられた。レヴェルの耳は声の主をしっかり察知している。相手はギルドの職員だ。若い人間の男性である。
「あ、それ、ためしに作ったやつで…」
レヴェルが困りながら答えると、彼はへー、とチェストの前に屈んだ。レヴェルが作ったチェストはキリ村の周りでしか採れないキリの木で出来ている。もちろん、高級品だ。だが、キリ村では当たり前に採れるので、キリ村に住む獣人たちはみんなキリの木で作られた家具を使っている。レヴェルもフラワータウンでグランドバザールに出るまでそのことを知らなかった。レヴェルの作る罠の木材はキリの木ではなく、オークという木を使っている。
そちらのほうが湿気や温度変化に強く、外に置くのに向いているからだ。
「これ、キリの木ですよね?」
「はい、そうです」
「おいくらですか?」
「えぇ…?」
じり、と職員に詰め寄られレヴェルは後ずさった。
「こちらは一点物なので金貨3枚です」
後ろからライダが言う。レヴェルはそれにも驚いた。金貨3枚は高すぎるのではないかと思ったのだ。
「買います」
職員が財布から金貨を取り出し、ライダに手渡す。
「ありがとうございます。こちら商品です」
ライダがチェストを渡す。あっさりした取引にレヴェルはただ見ていることしか出来なかった。
✢
「ほら、レヴィ」
宿の部屋でライダに先程受け取った金貨を手渡される。
「え、こんなに良かったのかな?」
金貨はこの世界に流通する貨幣の中で一番価値が高い。レヴェルは見慣れない金貨を見つめていた。
「いや、キリの木の家具は結構高いし、さっきの値段でも相場としては安い方だぞ」
「そうなの?ライダ詳しいね?」
「あぁ、この間フラワータウンに来た時に家具屋を見かけたんだ。面白そうだったから色々見てきた」
「そうだったんだー」
確かにライダは毛糸や縫い糸などを買いにフラワータウンまでよく出掛けている。フラワータウンにある専門店でまとめて購入する方が安上がりということらしい。
「レヴィ、もしかして売りたくなかったか?」
ライダの声に焦りが混じる。レヴェルはううんと首を振った。
「一生懸命作ったものだから売れて嬉しかったよ。でもまだまだだなって思っていたから」
「まだまだ…そうか?」
ライダが首を傾げる。
「俺、もっと頑張るよ。誰でも使いやすい家具を作る!」
「レヴィは高みを目指すんだな。俺も負けてられない」
レヴェルはウトウトしてきた。座っていたダブルのベッドに寝そべって丸くなる。
「レヴィ、シャワー浴びないのか?」
「眠たいの。明日浴びる」
レヴェルの記憶はここで途切れている。
✢
おいおい、とライダは思った。レヴェルが寝巻にすら着替えず眠ってしまったからだ。先程売ったチェストを作るため、昨日は随分作業を頑張っていた。
(レヴィ、疲れたんだな)
ライダはひょいとレヴェルの上半身を抱えた。ゆったり眠れるように寝巻に着せ替えようと思ったのだ。
「レヴィ、変なことは絶対にしない、約束する」
そう断ったが、レヴェルからの返事はない。すやすやと寝息を立てている。ライダはレヴェルが着ていたTシャツに手をかけた。肌に直に着ていたので乳首が丸見えになった。
「っ!!」
ライダは一度深呼吸をした。慌ててベッドに置かれていたガウンを着せ、前を留める。
さすがに下を脱がせるのは気まずいと思い、ライダはそのままレヴェルをベッドに寝かせ布団をかけた。レヴェルはすぴすぴと幸せそうに眠っている。
「レヴィ…怒るかな」
ライダも考えるのをやめて隣に寝そべった。
✢
「ふああ」
レヴェルはん、と伸びをした。ライダも隣で眠っている。彼が自分より遅くまで眠っているのは珍しい。レヴェルはそこで自分の格好に気が付いた。
「あれ?ガウン着てる。ライダが着せてくれたんだ」
「おはよう、レヴィ」
ライダがむくりと起き上がった。
「おはよう、ライダ。ガウン着せてくれてありがとうね!」
「いや、気にするな」
ふい、と視線を外されたがレヴェルは気が付かない。
「あ、シャワー浴びなくちゃね」
「あぁ。浴びたら朝飯を食べに行こう」
「うん」
✢
「こちらお品になります」
レヴェルはいつものように商品を客に手渡した。ありがとうと客は去っていく。
「すみませぇん」
ふと声を掛けられてレヴェルはそちらを見た。まだ幼い女の子である。
「どうされましたか?」
レヴェルが屈みながら聞くと女の子は恥ずかしそうに俯いてしまった。だが意を決したように言う。
「ドレッサーを作って欲しいの…その、ママに」
「ドレッサーかぁ」
レヴェルがふむと考えていると女の子に駆け寄る姿があった。
「レイナお嬢様、こんなところにいらっしゃったんですか!」
「じぃ」
じぃと呼ばれたその人は、燕尾服を着こなした白髪の男性だ。じぃ、と呼ばれるには若い。
「申し訳ありません。お店の邪魔を」
「いえ、依頼?を頂いたのですが」
レヴェルがそう返すと、男性はレイナと呼ばれた女の子を見つめた。
「じぃ、レイナ、このひとがいいの。お祖父様がうでがいいしょくにんって言ってたの」
「なるほど…レヴェルさんとおっしゃいましたね。お嬢様の依頼を受けていただけますか?」
「はい。出来ましたら後日、詳しいお話を聞かせてください」
「分かりました」
レヴェルは依頼書を取り出し、名前と連絡先を書いてもらった。この日、家具作りの依頼は3件あった。
✢
「疲れたぁ」
グランドバザールが終わり、レヴェルたちは店の片付けをしている。
「あぁ、本当だな。帰ったらよく休もう」
「うん。でも意外と依頼が来て嬉しかったよ。ライダもでしょ?」
「あぁ。明日から取り組むつもりだ」
「お互い頑張ろ!」
「あぁ」
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