僕たちの境界(クロスオーバー)

はやしかわともえ

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ケーキバイキング

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初めてのオフ会から数週間が経過したある日曜日。
千晶は一人、ある都内の駅前にいた。まだ午前9時過ぎだが、もう沢山の人が道を歩いている。
今は3月の半ば。だんだんと暖かくなりつつある。春ももう直だ。

「あきくーん!お待たせー!」

千晶は声のした方を見た。
向こうから加那太が走ってくる。

千晶は手を振った。
今日はついに2人で遊ぶのである。

「こんにちは。久しぶりー!」

「こんにちは、かなさん」

今日の加那太は紺色の細身のパンツにゆったりした白いトップスを着ていた。
千晶はお気に入りのデニムのパンツにカーキの長袖のトレーナーを着ている。少し肌寒いかと思ったが晴れているので平気そうだ。


「待った?遅くなってごめんね」

「いえ!気にしないで下さい!
じゃあ行きましょうか」

千晶は内心、ドキドキしていた。
今日の日程を自分達2人だけでやり遂げられるのか、とても不安である。
真司の顔を思い浮かべて千晶は勇気を奮い立たせた。
先に加那太と話をしたいと思ったのは自分の方なのだ。しっかりしなくてはいけない。

「今日はケーキバイキングに行くんだよね?」

「はい。そこでランチ限定のスペシャル苺ショートケーキがあって、それが食べたいかなって」

「わぁ、楽しみ」

加那太が笑う。彼と話している内に千晶はだんだん安心してきた。
加那太は自分といても楽しそうにしてくれている。

目的地まで歩いている間、加那太が最近プレイしているソーシャルゲームについて話してくれた。
千晶もそのゲームの評判についてはよく知っている。
テレビのコマーシャルで流れていたからだ。

ガチャの出が渋いと加那太がぼやくので、千晶は笑ってしまった。

「俺もそれ始めてみようかな…」

千晶がそう呟くと、加那太がすかさずこう言う。

「あ、じゃあフレンドになってくれる?バトル助けてあげられるかも」

「分かりました。あとでインストールしてみます」

「やった!」

加那太が突然真剣な表情をした。千晶はそれに驚く。加那太がそのままの表情で言う。

「でね、思ったんだけど、この前の映画なんだけど、もう一回2人で観に行かない?」

「…俺もそう思っていました」

「ホントっ?」

「はい」

千晶もそう思い、映画館のスケジュールを確認していた。
加那太も同じことを思っていてくれたのだとなんだか嬉しい。

「あ、じゃあケーキバイキング終わったら行こう」

「はい!」


✣✣✣


ケーキバイキングの店の前には既に行列が出来ている。
ここは予約制なので、皆開店するのを待っているのだろう。

「あきくんは、ここに来たことあるの?」

「はい。ここは季節限定のケーキが月毎にあるので、何度か来ています」

「あきくん、甘い物好きだもんね。さすがスイーツブロガーさん。
真司さんは一緒に来るの?」

「はい。真司さんにはいつも付き合ってもらってます」

へー、と加那太が笑う。

「いいなぁ、デート」

「かなさんは千尋さんとデートしないんですか?」

「旅行にはよく行くかな」

加那太が首を傾げながら言う。
千晶はいろいろ(老夫婦のようだな…とか)思ったが、とりあえずこう言った。

「素敵ですね!」

「温泉気持ちいいよ」

千晶はいよいよ返事に困った。
ますます増す老夫婦感になんともいえない。

時間になり、列が進み始める。
中に入ると甘い香りがした。
いろいろなケーキがテーブルいっぱいにずらっと並んでいる。

「わー、ケーキ綺麗だね」

「ですよね。かなさんは写真、撮りますか?」

「千尋に見せたいし撮るー」

2人は他の客に混じり、ケーキの写真を撮った。
バイキングの時間は90分だ。
加那太と千晶は席についた。

「このカルボナーラパスタ食べたいな」


メニューを見ながら加那太が言う。半熟の玉子が乗った美味しそうなパスタだ。

「それ美味いですよ。大盛りも無料でできます」

「じゃあそうするー」

加那太が沢山食べることは前回のオフ会で把握している。
だからこそ今回のケーキバイキングである。

千晶もボロネーゼパスタ(並)を頼み、2人はケーキとドリンクを取りに行った。

「かなさん、スペシャル苺ショートはこれです」

千晶は今日の目当てのケーキを見つけた。

「わあ、おっきい」

「スポンジがふわふわで美味しいらしいですよ。苺も丁度旬ですし。サンドされてるのも苺です」

「食べるのが楽しみだねー」

加那太は苺ショートを含めて三種類のケーキ、千晶は苺ショートのみを取り、席に戻った。時間内であれば食べ放題である。

「いただきます」

2人は一口、ショートケーキを食べる。

「わ、美味っ!
スポンジが口の中で消えたよ」

「ですよね!口溶けのよさが評判らしくて美味いって聞いてます」

「これ、何個でも食べられそう!」

(かなさんなら確かに有り得そうだ)

千晶はそう思ったが言わずに頷いた。店員がパスタを運んでくる。

「カルボナーラパスタ、大好きなんだよね」

「味変にもなりますしね」

「あ、なるほど」

(かなさんに味変っていう概念はないんだな)

千晶はそれを頭にメモする。
大事なことだ。

加那太がフォークにパスタを巻いて食べ始める。

「わー、美味っ。クリーム濃厚だね!ベーコンうまーい!」

「よかったです」

千晶も、届いたボロネーゼパスタを食べ始めた。

食べながら、あまりドリンクは飲まないよう気をつける。
以前、大食い動画で見たのだ。
水分は極力少なくするのが沢山食べるコツらしい。


(今日は絶対3つ、ケーキを食べるんだ)

千晶は個人的にこんな目標を立てていた。
千晶もどちらかと言えば、食べられる方である。
だが、この前の加那太の食べっぷりには流石に敵わないと感じた。

世の中は広い。
上には上がいるのである。

「おかわりしてくるね」

加那太はドリンクを飲み干したらしく新しく取りに行った。

(かなさん…水分摂るのに食べられるんだ)

加那太はいつも千晶の予想の斜め上をいく。

「ねぇねぇ、チョコレートケーキも美味しそうだよ」

加那太はチョコレートケーキを二切れとドリンクを手に戻ってきた。これで加那太のケーキは5つである。
加那太は座るとチョコレートケーキを食べ始めた。

「んー、甘くて美味しい」

「かなさん、すごいですね」

「なにが?」

加那太がチョコレートケーキを食べながら聞いてくる。

「かなさんが沢山食べるからびっくりしてます」

そう言うと加那太は笑いだした。

「僕、食いしん坊なんだよね。
フードファイターは無理なんだけど」

「千尋さんはご飯の作り甲斐がありますね」

「あー、どうなのかなー?
千尋は糖質制限してるから」

「意識高い…!」

結局、加那太はカルボナーラパスタとケーキを5つ食べ、千晶はボロネーゼパスタとケーキを2つ食べて時間は終了になった。

「お腹いっぱい」

「よかったです」

2人は会計を済ませて、映画館に向かうことにした。
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