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フェスティバル宣伝
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長屋に戻るとオリオとスバルがクロードと共に課題をしていた。見慣れた光景にホッとする。
クロードはまたノートに何かを書いている。何を書いているのか、とても気になるが、まだちゃんと聞いたことがない。ヒメリはクロードが好きだ。だからこそ彼を尊重したいと思っている。ただ近寄るだけが愛情ではない。
確かに信頼で繋がることが大事だとヒメリは思っている。
「お帰り、ヒメリ。さっきのお嬢ちゃんは?」
クロードの表情が冴えないのは気の所為だろうか?ヒメリは彼の対面に座った。彼にはちゃんと説明したい。
「あの子は俺の妹でヒメカっていいます。モデルを専門にやっているんです。最近舞台に出てるようで、そのなかで色々あったみたいです」
「あぁ、確かに綺麗な子だと思ったよ。
ならこの間の手紙は?」
ヒメリは頷いた。
「はい、ヒメカからです。あの子は都心部に住んでいるので、ここより情報が手に入りやすいから、俺からペテルギウスについて聞いてみたんです。ヒメカには敏腕マネージャーが付いてるので情報は確かですし」
「なるほど。でもまさかあんなに怖がられるなんてな」
クロードが落ち込んでいた理由が分かり、ヒメリは思わず噴き出してしまった。クロードはとてもかっこいい。ヒメカの周りにはそんな異性が大勢いる。だが、ヒメカは大の男嫌いである。ヒメリにはすごく懐いてくれる彼女だが、他の男とはろくに話せない。
仕事の際はプロ根性でなんとかしているようだ。
ヒメリがそんな話をざっくりすると、クロードも納得してくれた。
「ねえ、ヒメ兄ちゃん。ヒメカさんの朗読劇また聞きたいな。モデルをしながら学生だなんてすごいな」
スバルの言葉にヒメリは頷いた。ヒメカの努力は周りにも影響を与えている。
「あぁ。そうだ、皆で一度舞台を見に行こうか?」
「都心部に出るのもたまにはいいかもな」
クロードも乗り気である。あ、とヒメリは思い出した。
「フェスティバルのチラシ、もらってきました。明日から配ります」
チラシには可愛らしいリスのキャラクターが描かれている。
「とりあえず夕飯を作る。ヒメリは先にお茶でも飲め」
クロードに言われ、ヒメリは従うことにした。
「ねえ、ヒメ兄ちゃん、この綴りはなんて読むの?」
オリオに聞かれて、ヒメリは答えた。スバルもオリオも勉強が楽しいと言ってくれる。
それが何より嬉しかった。
「あ…ヒメ兄ちゃん、先生から」
スバルが意を決したように封筒を渡してくる。ヒメリはそれを開けた。
中を読んでみるとスバルのカウンセリングを勧めると書いてある。
ヒメリにはよく分かっていたことだった。
本当ならフリースクールに行く前に、カウンセリングに行かせるべきだった。だが、自分も初めてのことで慌ててしまっていた。スバルは首を縮めてヒメリを見つめている。きっと怒られると思っているのだろう。
ヒメリはスバルの頭を撫でた。
「スバルを怒るわけじゃないよ」
「でも俺があまりに勉強ができないって内容でしょ?」
スバルの不安げな言葉にヒメリは首を横に振った。
「スバルは心のお医者さんのことを知ってるか?」
スバルがギョッとしたような顔をする。
「俺、頭がおかしいってこと?」
「いいや。スバルは健康だよ。でもお父さんのことですごく傷付いた。
その傷を治しませんかって先生は書いてくれたんだ」
「な、治るの?」
「時間はかかる。スバルはこれから自分を大切にするって約束できるか?」
スバルが視線を彷徨わせた。
「少しずつでいい。スバルはもう怒らなくていいんだよ」
ヒメリはスバルとオリオを抱きしめた。いつの間にかこの子たちを我が子のように可愛がっている。
ずっとこのままでいられるかは分からない。でもヒメリは彼らにできる限りのことをしてやりたかった。
「俺、ずっと怒ってたんだ」
スバルが気が付いたように言う。
どうやら無意識だったらしい。
「兄ちゃん、カウンセリング受けなよ!
俺の学校にもカウンセラーさん、いるよ!いつも遊んでくれる!」
オリオが無邪気に言う。
「スバルが受けたいって思うなら受けてみればいいさ。答えはすぐじゃなくていい」
「うん、ありがとう」
子供たちが寝静まった頃、ヒメリはチラシ置き場を作った。出入り口の一番目立つところに置く。ここならきっと手に取ってもらえるだろう。
クロードはその様子を見ながら何かを書いている。ヒメリはいよいよ気になって彼に聞いてみることにした。
「クロードさんはいつも、何を書いてるんですか?」
「レシピだ」
「え?」
「美味かったもののレシピを自分で推理して書いてる。ヒメリのクリームパンのレシピもあるぞ」
ヒメリは隣から覗き込んだ。クリームパンのクリームの材料が細かく数量まで書かれている。
「わ、すごい。ほとんど正解です」
クロードの舌は確かだ。
「俺、クリームパンを改良しようと思っているんです」
「あぁ。フェスティバルに出すんだもんな」
クロードにはなんでもお見通しらしい。ヒメリは笑った。
「アドバイス頂いてもいいですか?」
「俺でいいならな」
ヒメリはクロードの頬に手を添えた。
クロードも抱き寄せてくれる。
「クロードさん、好きです」
「ヒメリ、好きだよ」
彼に名前を呼ばれると嬉しい。
ヒメリは彼に唇を落としていた。
クロードはまたノートに何かを書いている。何を書いているのか、とても気になるが、まだちゃんと聞いたことがない。ヒメリはクロードが好きだ。だからこそ彼を尊重したいと思っている。ただ近寄るだけが愛情ではない。
確かに信頼で繋がることが大事だとヒメリは思っている。
「お帰り、ヒメリ。さっきのお嬢ちゃんは?」
クロードの表情が冴えないのは気の所為だろうか?ヒメリは彼の対面に座った。彼にはちゃんと説明したい。
「あの子は俺の妹でヒメカっていいます。モデルを専門にやっているんです。最近舞台に出てるようで、そのなかで色々あったみたいです」
「あぁ、確かに綺麗な子だと思ったよ。
ならこの間の手紙は?」
ヒメリは頷いた。
「はい、ヒメカからです。あの子は都心部に住んでいるので、ここより情報が手に入りやすいから、俺からペテルギウスについて聞いてみたんです。ヒメカには敏腕マネージャーが付いてるので情報は確かですし」
「なるほど。でもまさかあんなに怖がられるなんてな」
クロードが落ち込んでいた理由が分かり、ヒメリは思わず噴き出してしまった。クロードはとてもかっこいい。ヒメカの周りにはそんな異性が大勢いる。だが、ヒメカは大の男嫌いである。ヒメリにはすごく懐いてくれる彼女だが、他の男とはろくに話せない。
仕事の際はプロ根性でなんとかしているようだ。
ヒメリがそんな話をざっくりすると、クロードも納得してくれた。
「ねえ、ヒメ兄ちゃん。ヒメカさんの朗読劇また聞きたいな。モデルをしながら学生だなんてすごいな」
スバルの言葉にヒメリは頷いた。ヒメカの努力は周りにも影響を与えている。
「あぁ。そうだ、皆で一度舞台を見に行こうか?」
「都心部に出るのもたまにはいいかもな」
クロードも乗り気である。あ、とヒメリは思い出した。
「フェスティバルのチラシ、もらってきました。明日から配ります」
チラシには可愛らしいリスのキャラクターが描かれている。
「とりあえず夕飯を作る。ヒメリは先にお茶でも飲め」
クロードに言われ、ヒメリは従うことにした。
「ねえ、ヒメ兄ちゃん、この綴りはなんて読むの?」
オリオに聞かれて、ヒメリは答えた。スバルもオリオも勉強が楽しいと言ってくれる。
それが何より嬉しかった。
「あ…ヒメ兄ちゃん、先生から」
スバルが意を決したように封筒を渡してくる。ヒメリはそれを開けた。
中を読んでみるとスバルのカウンセリングを勧めると書いてある。
ヒメリにはよく分かっていたことだった。
本当ならフリースクールに行く前に、カウンセリングに行かせるべきだった。だが、自分も初めてのことで慌ててしまっていた。スバルは首を縮めてヒメリを見つめている。きっと怒られると思っているのだろう。
ヒメリはスバルの頭を撫でた。
「スバルを怒るわけじゃないよ」
「でも俺があまりに勉強ができないって内容でしょ?」
スバルの不安げな言葉にヒメリは首を横に振った。
「スバルは心のお医者さんのことを知ってるか?」
スバルがギョッとしたような顔をする。
「俺、頭がおかしいってこと?」
「いいや。スバルは健康だよ。でもお父さんのことですごく傷付いた。
その傷を治しませんかって先生は書いてくれたんだ」
「な、治るの?」
「時間はかかる。スバルはこれから自分を大切にするって約束できるか?」
スバルが視線を彷徨わせた。
「少しずつでいい。スバルはもう怒らなくていいんだよ」
ヒメリはスバルとオリオを抱きしめた。いつの間にかこの子たちを我が子のように可愛がっている。
ずっとこのままでいられるかは分からない。でもヒメリは彼らにできる限りのことをしてやりたかった。
「俺、ずっと怒ってたんだ」
スバルが気が付いたように言う。
どうやら無意識だったらしい。
「兄ちゃん、カウンセリング受けなよ!
俺の学校にもカウンセラーさん、いるよ!いつも遊んでくれる!」
オリオが無邪気に言う。
「スバルが受けたいって思うなら受けてみればいいさ。答えはすぐじゃなくていい」
「うん、ありがとう」
子供たちが寝静まった頃、ヒメリはチラシ置き場を作った。出入り口の一番目立つところに置く。ここならきっと手に取ってもらえるだろう。
クロードはその様子を見ながら何かを書いている。ヒメリはいよいよ気になって彼に聞いてみることにした。
「クロードさんはいつも、何を書いてるんですか?」
「レシピだ」
「え?」
「美味かったもののレシピを自分で推理して書いてる。ヒメリのクリームパンのレシピもあるぞ」
ヒメリは隣から覗き込んだ。クリームパンのクリームの材料が細かく数量まで書かれている。
「わ、すごい。ほとんど正解です」
クロードの舌は確かだ。
「俺、クリームパンを改良しようと思っているんです」
「あぁ。フェスティバルに出すんだもんな」
クロードにはなんでもお見通しらしい。ヒメリは笑った。
「アドバイス頂いてもいいですか?」
「俺でいいならな」
ヒメリはクロードの頬に手を添えた。
クロードも抱き寄せてくれる。
「クロードさん、好きです」
「ヒメリ、好きだよ」
彼に名前を呼ばれると嬉しい。
ヒメリは彼に唇を落としていた。
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