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賭博
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シーサイド・トロピカル号は数ある船の中でも特に人気のある船である。国から国への移動のために使うのはもちろん。贅沢に世界一周旅行もできる。
船旅ならではのゆったりした旅は少し人生に疲れてしまった者や、今までの人生を心ゆくまで振り返りたい者にぴったりなのである。
設備も充実しており、古今東西の料理が食べられるレストランから、子供から大人まで楽しめるラウンジ、そしてしっかりとした大人向けのバーもある。
もちろん充実しているのは、飲食関係の設備だけではない。子供用の遊戯室に始まり、自由にダンスを楽しめる広いホールや、ダーツやビリヤードのプレイ場。そして極めつけはカジノだろうか。
次の日の昼間、クロードはヒメリを連れてカジノ内を歩いていた。ここで、昔の仲間が働いているのを思い出していた。だが奴に会いたくなかった理由、そう、単純に彼をヒメリに会わせたくなかったのだ。
しかし、ペテルギウスの件がある以上、奴の力を貸してもらう他はない。
ヒメリは物珍しそうにキョロキョロしながら歩いている。
そしてスロットやカードゲームを見る度に小さく歓声を上げていた。昨日は不安気にペテルギウスの声が聞こえると言っていたが今日は平気らしい。
昨日は疲れていたせいかもしれない、とクロードは睨んでいるが、まだ判断するのは時尚早だとした。
「お嬢さん、可愛いね。おじさんと一緒に遊ばないかい?」
「え…?」
ヒメリがナンパされてしまっている。これで、もう三回目だ。クロードがヒメリをぐい、と抱き寄せると、男はすたこらと逃げていった。相当クロードが怖かったらしい。
「クロードさん、ごめんなさい。俺が男らしくないから」
「ヒメリのせいじゃない。そうだ、手を繋ぐか」
ヒメリの手は小さい。そして柔らかい。そんなヒメリの可愛らしさにクロードはやられてしまう。だが今はそれに浸っている場合ではない。
クロードたちは、更に奥へ踏み入った。
男達が床に座り、なにかの博打をしている。
クロードも僅かながらだがそれがどんなものか知っていた。
サイコロを2つカップに入れて、揺らして床に置く。カップを伏せた状態で、数字が奇数か偶数かを当てるゲームだったはずだ。
「く…また負け!おかしいだろ!!なんでお前ばかり勝つんだよ!!」
クロードは内心思っていた。こいつ、全然変わってないなと。過去の自分と目の前にいる客をつい重ねてしまうクロードである。クロードは静かに事態を見守る。
「お前、イカサマしてるんだろう!クソ!舐めやがって!」
客に詰め寄られているのは細身の若い男だ。
名前をギーファといった。頭がずば抜けて良く、そしてなによりぎりぎりの勝負が好きだった。クロードも彼のそんな性格を頼もしく思っている。だが、彼には少し女たらしな部分があった。ギーファはとても整った顔立ちをしている。女性たちの心を掴むのも簡単だろう。だからこそ無垢なヒメリに会わせたくなかった。ギーファのことだ、可愛らしいヒメリを口説きにかかってもおかしくない。それを見たくなかったのだ。
「お客様、ならば最後にひと勝負といきましょう。私がこれからコインを投げます。
表か裏か当てるだけ。これなら公平でしょう?」
「そのコインを検めさせろ!」
「もちろんですとも」
客は真剣にコインを眺めている。不審な点はなかったようだ。
「く、勝ったら全額、金を返してもらうからな」
「承知、では先に選んでください」
「フン、俺は表に賭ける」
「なら私はそのどちらも出ないという方に賭けます」
「なんだって?そんなことあり得るわけ…」
ピインっと指で弾いたコインが空中を舞う。それは落ちてこなかった。客が青くなっている。
ギーファの勝利だ。
「く、くそお!!」
客はカジノから飛び出していった。
「おいギーファ、やり過ぎだぞ」
つい昔の感覚でギーファを叱ってしまったクロードである。ギーファはクロードを見ると、ニヤリと笑った。
「兄さんには敵わないですよ。今日は美しい方を連れてるんですね」
「ヒメリっていうんだ」
「は、はじめまして」
「ヒメリさん、いいや、ヒメリ様。あなたみたいな美しい人をこんなに近くで見られるなんて」
「えーと」
ヒメリもさすがに困っている。クロードはため息をついた。はじめからこうなることは分かっていた。
「ギーファ、力を貸してくれないか?報酬はちゃんと払う」
「ヒメリ様とデートふがが」
クロードはギーファの唇を指で摘んだ。彼のせっかくのイケメンが台無しである。
「ヒメリ関連は全部駄目だ」
「兄さんはケチですね。それなら美味い飯を作ってくださいよ?」
「分かった」
ギーファはやはりギーファだった。少しホッとする。
「兄さん、ひと勝負どうですか?」
「いや、お前には勝てないからな」
ギーファがくつくつ笑う。食えない男である。
「とりあえず仕事が終わったら部屋に来てくれ。詳しく話す」
「承知」
ギーファに部屋の番号を教えて、カジノを後にした。
「クロードさんには沢山お仲間さんがいるんですね」
ふふ、とヒメリに笑われる。
「皆どうしようもないワルだよ。なんとか真っ当でいようって必死なのさ」
「それってすごいことだと思います」
クロードはヒメリの頭を撫でた。
「ヒメリ、ラウンジに行こうか」
「はい」
ラスタニカには明後日到着する。ペテルギウスはおそらくこちらの動きを読んでくるだろう。だが負ける気はない。ヒメリのためにも。
船旅ならではのゆったりした旅は少し人生に疲れてしまった者や、今までの人生を心ゆくまで振り返りたい者にぴったりなのである。
設備も充実しており、古今東西の料理が食べられるレストランから、子供から大人まで楽しめるラウンジ、そしてしっかりとした大人向けのバーもある。
もちろん充実しているのは、飲食関係の設備だけではない。子供用の遊戯室に始まり、自由にダンスを楽しめる広いホールや、ダーツやビリヤードのプレイ場。そして極めつけはカジノだろうか。
次の日の昼間、クロードはヒメリを連れてカジノ内を歩いていた。ここで、昔の仲間が働いているのを思い出していた。だが奴に会いたくなかった理由、そう、単純に彼をヒメリに会わせたくなかったのだ。
しかし、ペテルギウスの件がある以上、奴の力を貸してもらう他はない。
ヒメリは物珍しそうにキョロキョロしながら歩いている。
そしてスロットやカードゲームを見る度に小さく歓声を上げていた。昨日は不安気にペテルギウスの声が聞こえると言っていたが今日は平気らしい。
昨日は疲れていたせいかもしれない、とクロードは睨んでいるが、まだ判断するのは時尚早だとした。
「お嬢さん、可愛いね。おじさんと一緒に遊ばないかい?」
「え…?」
ヒメリがナンパされてしまっている。これで、もう三回目だ。クロードがヒメリをぐい、と抱き寄せると、男はすたこらと逃げていった。相当クロードが怖かったらしい。
「クロードさん、ごめんなさい。俺が男らしくないから」
「ヒメリのせいじゃない。そうだ、手を繋ぐか」
ヒメリの手は小さい。そして柔らかい。そんなヒメリの可愛らしさにクロードはやられてしまう。だが今はそれに浸っている場合ではない。
クロードたちは、更に奥へ踏み入った。
男達が床に座り、なにかの博打をしている。
クロードも僅かながらだがそれがどんなものか知っていた。
サイコロを2つカップに入れて、揺らして床に置く。カップを伏せた状態で、数字が奇数か偶数かを当てるゲームだったはずだ。
「く…また負け!おかしいだろ!!なんでお前ばかり勝つんだよ!!」
クロードは内心思っていた。こいつ、全然変わってないなと。過去の自分と目の前にいる客をつい重ねてしまうクロードである。クロードは静かに事態を見守る。
「お前、イカサマしてるんだろう!クソ!舐めやがって!」
客に詰め寄られているのは細身の若い男だ。
名前をギーファといった。頭がずば抜けて良く、そしてなによりぎりぎりの勝負が好きだった。クロードも彼のそんな性格を頼もしく思っている。だが、彼には少し女たらしな部分があった。ギーファはとても整った顔立ちをしている。女性たちの心を掴むのも簡単だろう。だからこそ無垢なヒメリに会わせたくなかった。ギーファのことだ、可愛らしいヒメリを口説きにかかってもおかしくない。それを見たくなかったのだ。
「お客様、ならば最後にひと勝負といきましょう。私がこれからコインを投げます。
表か裏か当てるだけ。これなら公平でしょう?」
「そのコインを検めさせろ!」
「もちろんですとも」
客は真剣にコインを眺めている。不審な点はなかったようだ。
「く、勝ったら全額、金を返してもらうからな」
「承知、では先に選んでください」
「フン、俺は表に賭ける」
「なら私はそのどちらも出ないという方に賭けます」
「なんだって?そんなことあり得るわけ…」
ピインっと指で弾いたコインが空中を舞う。それは落ちてこなかった。客が青くなっている。
ギーファの勝利だ。
「く、くそお!!」
客はカジノから飛び出していった。
「おいギーファ、やり過ぎだぞ」
つい昔の感覚でギーファを叱ってしまったクロードである。ギーファはクロードを見ると、ニヤリと笑った。
「兄さんには敵わないですよ。今日は美しい方を連れてるんですね」
「ヒメリっていうんだ」
「は、はじめまして」
「ヒメリさん、いいや、ヒメリ様。あなたみたいな美しい人をこんなに近くで見られるなんて」
「えーと」
ヒメリもさすがに困っている。クロードはため息をついた。はじめからこうなることは分かっていた。
「ギーファ、力を貸してくれないか?報酬はちゃんと払う」
「ヒメリ様とデートふがが」
クロードはギーファの唇を指で摘んだ。彼のせっかくのイケメンが台無しである。
「ヒメリ関連は全部駄目だ」
「兄さんはケチですね。それなら美味い飯を作ってくださいよ?」
「分かった」
ギーファはやはりギーファだった。少しホッとする。
「兄さん、ひと勝負どうですか?」
「いや、お前には勝てないからな」
ギーファがくつくつ笑う。食えない男である。
「とりあえず仕事が終わったら部屋に来てくれ。詳しく話す」
「承知」
ギーファに部屋の番号を教えて、カジノを後にした。
「クロードさんには沢山お仲間さんがいるんですね」
ふふ、とヒメリに笑われる。
「皆どうしようもないワルだよ。なんとか真っ当でいようって必死なのさ」
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クロードはヒメリの頭を撫でた。
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「はい」
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