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1・出会い
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いやだなぁって俺は思っていた。今日はいつもの病院の日だ。予約をしているから、最低でも予約時間の10分前には病院に着いていないといけないのに俺の足取りは重たい。兄さんが振り返って俺に言う。
「翔也、大丈夫か?」
「うん」
兄さんは優しい。いつも俺に大丈夫かって聞いてくれる。それに励まされて、俺は歩くスピードを上げる。そうだ、病気なんかに負けちゃいけない。病院のあとはいつも大型のショッピングモールでコンシューマゲームのソフトを見たり、大好きなレストランでお昼を食べる。月イチの俺の楽しみだ。それが出来なかった時期もあったんだから、今は随分元気になってきてるんだと思う。そう思いたい。俺は病院を見上げた。時間がない、急がなきゃ。俺は兄さんの傍に駆け寄った。
「受付番号でお呼びいたしますね」
「はい」
いつものように予約している旨を伝えると、「714」と大きく書かれた紙を渡される。今は個人情報が大事だとか言ってこうするのが当たり前らしい。
「翔也の誕生日だな」
兄さんに言われて、俺はふと気が付いた。7/14は俺が生まれた日だ。もうすぐ7月か。いつの間にこんなに時間が経っていたんだろう。
「俺、もう18になるのにまだ高校1年だよ。やだな」
通信制高校だからそんなものは気にしなくていいとは言われているけれど、やっぱり同じ年齢の子と一緒に進級したかった。
「翔也のペースでって中学の時、担任の先生と話し合ったろ?」
「そうだけどさ」
俺はぎゅ、と番号の書かれた紙を握った。俺は中学生の時、いじめにあって不登校になった。いじめられたストレスが原因だったのかは分からない。俺は毎晩、怖い夢を見るようになっていた。
からかわれたり、軽く小突かれたりする。
それが日常で、俺は毎日黙って耐え忍んでいたけれど、とうとう朝、ベッドから出られなくなってしまった。兄さんも俺の具合がだんだん悪くなっていくのに気が付いていたみたいだ。何度も検査に行こうと言ってくれていた。でも病院にいくのが怖かった。
そこで病気です、と言われたらますます自分が駄目になってしまうような気がしたからだ。
ベッドから出られない。なんとかトイレには行けていたけれど、食事が出来なかった俺はとうとう入院になってしまった。入院した時は本当に危なかったと後から先生に叱られた。入院したその日、兄さんがすごく泣いていたのを覚えている。ごめんって何度も謝られた。兄さんが悪いわけじゃないのに。
今でも時々思い出して、胸がぎゅってなる。
「714番の方、5番診察室へどうぞ」
俺は兄さんと診察室に向かった。
「翔也くん、どうですか?」
俺は何も言えなかった。ぎゅ、と拳を握ると先生が笑った。
「学校の勉強難しい?」
「数学は好きです。あと、頓服ください。あと」
いつも俺は一言目で詰まる。でも先生が優しく聞いてくれるとこうして言葉がボロボロ溢れてくる。先生がうん、うん、と頷きながら聞いてくれた。
「お兄さんはどうですか?」
「はい。何かスポーツをしたらどうかなって。犬を飼うとか、それなら一緒に散歩したり出来るし」
兄さん、本気なんだって俺はびっくりしてしまった。前から犬を飼おうかという話はあった。でも俺に命を与るなんて出来るのかなって躊躇っていたのだ。兄さんは事あるごとに犬の写真を見せて可愛いだろうって勧めてきた。でも俺が困って俯くから兄さんも強くは言わなかった。
「運動はいいね。翔也くんは好きなスポーツ、あるのかな?」
「えと…サッカーは好きだけど」
「翔也くん、どう?デイケアに来てみない?運動も出来るし楽しいよ」
「え」
デイケア?俺は困ってぎゅっと蹲った。呼吸が粗くなって汗をダラダラかく。
「翔也くん!!翔也くん!!」
「翔也!」
先生と兄さんの声がする。気が付くと病院のベッドにいた。
「翔也、起きたか。よかった」
「にい…さん。ごめんなさい」
「謝るなよ。俺が言い過ぎたから悪かったよな」
兄さんは何も悪くない。俺が首を横に振ると優しく頭を撫でられた。
「点滴終わるな。腹減ったろ?」
「…うん。オムライス食べたいな。兄さんの作ったやつ」
「え、あんなのでいいのか?」
「あんなの…じゃないよ」
そうか、と兄さんが笑った。点滴の後はすごく眠くなる。帰り道は兄さんがおぶってくれた。次に気が付いたら自分の部屋のベッドに横になっていた。
「ぃ…」
「兄さん?」
クーラーはついているけど喉がカラカラだ。
「に!」
「!!」
俺は驚いてしまった。猫が二匹俺を見下ろしている。どこから入ってきたんだろう。
「しょうや、すぐお水持ってくるね!」
「え」
「起きれそうか?」
俺はぱちぱち目を瞬いた。猫かと思ったら人間の姿になっている。
「だ…れ?」
一体どういう状況なんだ?
「翔也、大丈夫か?」
「うん」
兄さんは優しい。いつも俺に大丈夫かって聞いてくれる。それに励まされて、俺は歩くスピードを上げる。そうだ、病気なんかに負けちゃいけない。病院のあとはいつも大型のショッピングモールでコンシューマゲームのソフトを見たり、大好きなレストランでお昼を食べる。月イチの俺の楽しみだ。それが出来なかった時期もあったんだから、今は随分元気になってきてるんだと思う。そう思いたい。俺は病院を見上げた。時間がない、急がなきゃ。俺は兄さんの傍に駆け寄った。
「受付番号でお呼びいたしますね」
「はい」
いつものように予約している旨を伝えると、「714」と大きく書かれた紙を渡される。今は個人情報が大事だとか言ってこうするのが当たり前らしい。
「翔也の誕生日だな」
兄さんに言われて、俺はふと気が付いた。7/14は俺が生まれた日だ。もうすぐ7月か。いつの間にこんなに時間が経っていたんだろう。
「俺、もう18になるのにまだ高校1年だよ。やだな」
通信制高校だからそんなものは気にしなくていいとは言われているけれど、やっぱり同じ年齢の子と一緒に進級したかった。
「翔也のペースでって中学の時、担任の先生と話し合ったろ?」
「そうだけどさ」
俺はぎゅ、と番号の書かれた紙を握った。俺は中学生の時、いじめにあって不登校になった。いじめられたストレスが原因だったのかは分からない。俺は毎晩、怖い夢を見るようになっていた。
からかわれたり、軽く小突かれたりする。
それが日常で、俺は毎日黙って耐え忍んでいたけれど、とうとう朝、ベッドから出られなくなってしまった。兄さんも俺の具合がだんだん悪くなっていくのに気が付いていたみたいだ。何度も検査に行こうと言ってくれていた。でも病院にいくのが怖かった。
そこで病気です、と言われたらますます自分が駄目になってしまうような気がしたからだ。
ベッドから出られない。なんとかトイレには行けていたけれど、食事が出来なかった俺はとうとう入院になってしまった。入院した時は本当に危なかったと後から先生に叱られた。入院したその日、兄さんがすごく泣いていたのを覚えている。ごめんって何度も謝られた。兄さんが悪いわけじゃないのに。
今でも時々思い出して、胸がぎゅってなる。
「714番の方、5番診察室へどうぞ」
俺は兄さんと診察室に向かった。
「翔也くん、どうですか?」
俺は何も言えなかった。ぎゅ、と拳を握ると先生が笑った。
「学校の勉強難しい?」
「数学は好きです。あと、頓服ください。あと」
いつも俺は一言目で詰まる。でも先生が優しく聞いてくれるとこうして言葉がボロボロ溢れてくる。先生がうん、うん、と頷きながら聞いてくれた。
「お兄さんはどうですか?」
「はい。何かスポーツをしたらどうかなって。犬を飼うとか、それなら一緒に散歩したり出来るし」
兄さん、本気なんだって俺はびっくりしてしまった。前から犬を飼おうかという話はあった。でも俺に命を与るなんて出来るのかなって躊躇っていたのだ。兄さんは事あるごとに犬の写真を見せて可愛いだろうって勧めてきた。でも俺が困って俯くから兄さんも強くは言わなかった。
「運動はいいね。翔也くんは好きなスポーツ、あるのかな?」
「えと…サッカーは好きだけど」
「翔也くん、どう?デイケアに来てみない?運動も出来るし楽しいよ」
「え」
デイケア?俺は困ってぎゅっと蹲った。呼吸が粗くなって汗をダラダラかく。
「翔也くん!!翔也くん!!」
「翔也!」
先生と兄さんの声がする。気が付くと病院のベッドにいた。
「翔也、起きたか。よかった」
「にい…さん。ごめんなさい」
「謝るなよ。俺が言い過ぎたから悪かったよな」
兄さんは何も悪くない。俺が首を横に振ると優しく頭を撫でられた。
「点滴終わるな。腹減ったろ?」
「…うん。オムライス食べたいな。兄さんの作ったやつ」
「え、あんなのでいいのか?」
「あんなの…じゃないよ」
そうか、と兄さんが笑った。点滴の後はすごく眠くなる。帰り道は兄さんがおぶってくれた。次に気が付いたら自分の部屋のベッドに横になっていた。
「ぃ…」
「兄さん?」
クーラーはついているけど喉がカラカラだ。
「に!」
「!!」
俺は驚いてしまった。猫が二匹俺を見下ろしている。どこから入ってきたんだろう。
「しょうや、すぐお水持ってくるね!」
「え」
「起きれそうか?」
俺はぱちぱち目を瞬いた。猫かと思ったら人間の姿になっている。
「だ…れ?」
一体どういう状況なんだ?
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