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21・ボス

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なんだかんだお父さんとお母さんが家にいる生活が始まった。とは言っても、二人共ほぼ仕事でいないから、逆にいるとドキッとする。変化といえばそれくらいだ。お盆中は、おばあちゃんの家に、二泊三日で家族旅行に行くことになった。楽しみだ。これでショーヤ姫のやりたいことが出来るだろうか?

「くろー、とらー、ご飯だよー」

最近こうして呼ぶとマオ君とレオ君が我先にと走ってくる。可愛いけど、いいのかなという気持ちもある。メノウさんにもご飯を用意した。お尻をこちらに向けて丸くなっている。心配になってそっと撫でたらふるっとお尻を振った。

「姫様、くすぐったいです」

わあ、ごめん!と心の中で謝ると、メノウさんがひょっこり出てきた。可愛い。

「あら、メノウちゃん出てきたの?珍しいわね」

お母さんがやって来て言う。俺はお母さんがどういう人なのかまだよく分かっていない。それはもちろんお父さんにも同じことが言える。

「ねえ、お母さん。今度一緒に病院に来てくれる?」

そう頼んだら、もちろんと笑われた。お母さんはいつの間にか俺より小さい。小さな頃は見上げていたはずだから不思議な感覚だ。

俺は出て来たメノウさんの頭を撫でた。よしよしとすると甘噛みされる。

「にー」

猫ズも足元に擦り寄ってくる。可愛いの嵐だ。

「翔也、大人気なのねえ」

「うん、仲良しなの」

それじゃあ、とお母さんはなにかを言いかけて黙った。なんだ?
とりあえず今日も課題をやらなければと机に向かう。猫ズが俺の部屋からいなくなる時間は多分レオ君とマオ君の姿でいるということなんだろう。人に仕えるって大変だな。

「あ」

課題をしながら俺は気が付いた。そういえば家の鍵を開けておいてとお母さんから頼まれていた。お母さんは八百屋に行くとかなんとか言っていた。その時に鍵を掛けていった。商店街の人も、お父さんとお母さんが戻ってこられたのを知って喜んでくれた。玄関に向かって鍵を開けると、ウォンと何か音がした。
なんだろう?とドアを開けると巨大な犬がいる。

「え」

「わふ」

犬が俺に飛び付くように甘えてきた。

「こら、ボス。待て」

ボスと呼ばれた犬はすぐに座る。いい子だな。

「兄さん?」

「ごめん、翔也。俺、犬がどうしても飼いたくてさ」

兄さんがやって来て俺の頭を撫でた。

「この子も家族にしてやってくれないか?」

「え、いいよ」

「いいのか?」

ぱあ、と兄さんの表情が明るくなる。俺、犬が嫌いだと思われてたのかな?俺はボスの前にしゃがんだ。

「ボス、俺は翔也だよ。よろしくね」

頭を撫でるとボスはわふ、と返事をしてくれた。可愛い。

「翔也、母さんがそろそろ帰ってくるって。先に昼飯作るか」

「手伝うよ」

「ウォン!」

ボスが鳴いて俺たちは笑った。
お昼は夏の定番、そうめんだ。久しぶりに食べるから楽しみにしていた。

「早くお湯沸かないかな」

「ただいま」

「お母さん、お帰りなさい」

「天ぷら買ってきたの、一緒に出してくれる?翔也、これでよかった?」

なんだろう?と思ったら猫のおやつだ。

「え、わざわざ買ってきてくれたの?これ、くろととらが好きなやつだよ。ありがとう」

「ううん、お母さん、くろちゃんととらちゃんに上手におやつがあげられなくて」

「あ、指に付けてあげるとやりやすいよ。くろもとらも人からもらうのまだ慣れてないから」

二人共、本来の姿は人だもんなぁ。猫の時は間違いなく猫だけど。おっと、お湯が沸いてきた。俺はザルの用意をしてそうめんを鍋に投入した。
箸でほぐしながら茹でること二分。

「出来たぁ!!」

お腹が空いてきた。めんを冷水で冷やして絞ると出来上がり。お皿に盛り付けて。

天ぷらも揚げ立てだ。兄さんが麺つゆや水を運んでおいてくれていた。後は食べるだけだ。

「頂きます」

ナスの天ぷらが嬉しくて箸で掴んだら、思っていたより重たかった。ずっしりしている。齧り付いたらじゅわ、と旨味が広がる。

「うわ、美味しい」

「うん、翔也、エビも美味いぞ」

お母さんは沢山天ぷらを買って来てくれていた。どれも揚げたてで嬉しい。

「お父さんも明日からお休みだから」

ニコニコしながら母さんが言う。一家全員集合…というわけか。

「わふ」

ボスが俺の足元にいる。

「どうしたの?」

そう声を掛けたら足にスリスリされた。可愛い。
猫ズも負けていないのがまた可愛い。

「後で課題が終わったらみんなで遊ぼう」

そう言ったら三人はちょこん、と座る。
可愛いなぁ。

「翔也はもうボスの心を鷲掴みにしたのか」

兄さんが驚いたように言う。

「ボスはいい子なんだよ」

そう答えたら、翔也もなと笑われた。
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