3 / 17
3・白雪姫、出会う
しおりを挟む
「雪、お前、アイスティーでいいのか?」
「うん。宵はどうするの?」
今、雪は宵と夜の映画館に来ている。一緒にレイトショーを観に来たのだ。ずっと観たかった作品で、いよいよ今日観られると雪はものすごく楽しみにしていた。
「あの…」
トントンと肩を叩かれ、雪は振り返った。相手は可愛らしい人である。その人は何かを差し出してきた。
「チケット落としましたよ」
「わ、本当だ!すみません、ありがとうございます」
雪は慌ててその人からチケットを受け取った。
「あの…」
「はい?」
雪が相手をまじまじと見つめると、やっぱりとその人は呟いた。
「あの、プロゲーマーの本条雪さんですよね?」
「え、あ、そうです!」
ぱああと相手の顔が輝く。
「あの、握手してください」
「え?あ、はい」
雪が差し出された手を握り返すと、きゅと更に握られた。
「ありがとうございます」
「あ、そんな、ドウモ…」
「翼さん、こんなとこにいた」
熊のような男性がやって来て、雪は固まった。宵もでかいがそれを遥かに凌ぐ。
「あ、ごめんね、大地君。じゃあ」
翼と呼ばれたその人は頭を下げて行ってしまう。
「雪、どうした?」
「やばい人に会っちゃった…かも?」
「なんだ?」
とりあえずシアターに入ろうと宵に促され、雪は従った。座席に収まるが、先程から心臓の鼓動が煩い。
「一体、誰に会ったんだ?」
「さっきの人、イラストレーターの沢村翼さん…だったかも」
「え…」
宵もぽかんとしている。
「とりあえずアイスティーを飲め。俺もウーロン茶を飲むから」
どうやら宵は宵で混乱しているらしい。二人は飲み物を一口飲んだ。二人揃って息をつく。先に口を開いたのは宵だ。
「沢村翼ってあれこれキャラクターデザインしてるよな?」
「うん、今俺がハマってるロイヤルソードもそう」
「そうか…まあとりあえず映画に集中しよう。せっかく楽しみにしてたんだから」
「宵の言う通りだよ」
しばらくすると映画の予告が流れ出した。映画自体はとても楽しめて満足だったが、先程のことを思い返すと、翼のサインが欲しかったと思ってしまう。まだ本人と確認出来たわけではないが、雪の勘はこんな時、当たるのだ。
「翼さんの創るキャラクターはかっこいいよな」
帰りの車の中で唐突に宵が言った。彼なりに気遣ってくれているのだと雪も気が付く。
「そう、とにかくモーションにこだわっててかっこいいよね」
雪は何気なくスマートフォンの画面を見た。誰かからSNSのダイレクトメッセージが届いている。開いてみると、翼本人からだった。
「はぁ?え?はぁ??」
「どうした?雪?」
「翼さんからメッセージ来てる。俺フォローしてたけど、されてたのは気付かなかった」
「あー、まあお前のフォロワーも随分いるからしょうがないよ」
で、なんだって?と宵に促されて、雪はメッセージを読み上げた。
「動画いつも見てます。ロイヤルソードのガチャ配信見ました。雪さんにプレイしてもらえて嬉しいです…だって」
「すげえな。雪、良かったじゃないか」
「返事したほうが良いよね?」
「そりゃそうだろうな」
雪は何度も文章を打ち直してなんとか送信した。
「宵、送れた。ありがとう」
「いや。お前、今日泊まってくんだろ?軽く飲もうぜ」
「うん」
宵と久しぶりに飲めるのが嬉しくて、雪は笑った。
「うん。宵はどうするの?」
今、雪は宵と夜の映画館に来ている。一緒にレイトショーを観に来たのだ。ずっと観たかった作品で、いよいよ今日観られると雪はものすごく楽しみにしていた。
「あの…」
トントンと肩を叩かれ、雪は振り返った。相手は可愛らしい人である。その人は何かを差し出してきた。
「チケット落としましたよ」
「わ、本当だ!すみません、ありがとうございます」
雪は慌ててその人からチケットを受け取った。
「あの…」
「はい?」
雪が相手をまじまじと見つめると、やっぱりとその人は呟いた。
「あの、プロゲーマーの本条雪さんですよね?」
「え、あ、そうです!」
ぱああと相手の顔が輝く。
「あの、握手してください」
「え?あ、はい」
雪が差し出された手を握り返すと、きゅと更に握られた。
「ありがとうございます」
「あ、そんな、ドウモ…」
「翼さん、こんなとこにいた」
熊のような男性がやって来て、雪は固まった。宵もでかいがそれを遥かに凌ぐ。
「あ、ごめんね、大地君。じゃあ」
翼と呼ばれたその人は頭を下げて行ってしまう。
「雪、どうした?」
「やばい人に会っちゃった…かも?」
「なんだ?」
とりあえずシアターに入ろうと宵に促され、雪は従った。座席に収まるが、先程から心臓の鼓動が煩い。
「一体、誰に会ったんだ?」
「さっきの人、イラストレーターの沢村翼さん…だったかも」
「え…」
宵もぽかんとしている。
「とりあえずアイスティーを飲め。俺もウーロン茶を飲むから」
どうやら宵は宵で混乱しているらしい。二人は飲み物を一口飲んだ。二人揃って息をつく。先に口を開いたのは宵だ。
「沢村翼ってあれこれキャラクターデザインしてるよな?」
「うん、今俺がハマってるロイヤルソードもそう」
「そうか…まあとりあえず映画に集中しよう。せっかく楽しみにしてたんだから」
「宵の言う通りだよ」
しばらくすると映画の予告が流れ出した。映画自体はとても楽しめて満足だったが、先程のことを思い返すと、翼のサインが欲しかったと思ってしまう。まだ本人と確認出来たわけではないが、雪の勘はこんな時、当たるのだ。
「翼さんの創るキャラクターはかっこいいよな」
帰りの車の中で唐突に宵が言った。彼なりに気遣ってくれているのだと雪も気が付く。
「そう、とにかくモーションにこだわっててかっこいいよね」
雪は何気なくスマートフォンの画面を見た。誰かからSNSのダイレクトメッセージが届いている。開いてみると、翼本人からだった。
「はぁ?え?はぁ??」
「どうした?雪?」
「翼さんからメッセージ来てる。俺フォローしてたけど、されてたのは気付かなかった」
「あー、まあお前のフォロワーも随分いるからしょうがないよ」
で、なんだって?と宵に促されて、雪はメッセージを読み上げた。
「動画いつも見てます。ロイヤルソードのガチャ配信見ました。雪さんにプレイしてもらえて嬉しいです…だって」
「すげえな。雪、良かったじゃないか」
「返事したほうが良いよね?」
「そりゃそうだろうな」
雪は何度も文章を打ち直してなんとか送信した。
「宵、送れた。ありがとう」
「いや。お前、今日泊まってくんだろ?軽く飲もうぜ」
「うん」
宵と久しぶりに飲めるのが嬉しくて、雪は笑った。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防
藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。
追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。
きっと追放されるのはオレだろう。
ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。
仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。
って、アレ?
なんか雲行きが怪しいんですけど……?
短編BLラブコメ。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる