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7・バイトスタート
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心海はガチガチに緊張していた。大学生になり、随分と隙間時間が増えて、パートならなんとか勤まりそうだぞ、と求人誌を見て応募してみたのだ。
もちろん学業第一だが、やはり金がなければ日々の生活に響く。親からの仕送りは家賃や水道光熱費で消えてしまうので尚更だ。都内に住むのがいかに大変か、心海は今更ながらに実感している。履歴書を持って面接に来たものの、自分に仕事が務まるのかと思うと、正直な所、自信がない。
今までは飲食店で調理補助のバイトをしていたが、今回は近場にあるスーパーの仕事を選んだ。
「新田君、菊花大なんだね。うちの娘はOGでね」
「え?そうなんですか?」
店長と名乗る初老の男性ににこやかに言われて、心海はどきどきしながらも返事をした。
「新田君、レジ打ちしてみない?慣れるまで時間がかかるかもしれないけど、基本的に単調作業だしどうかな?」
「え、それって採用してもらえるんですか?」
「ちょうど人がいなくてね、来てくれると助かるんだけど」
「わ、分かりました。お願いします」
心海が頭を下げると、店長に肩をぽんと叩かれた。
「どうする?今日時間があるなら少し見学してく?」
「いいんですか?」
「いいよ。レジ打ちの練習していって」
「ありがとうございます」
店長にエプロンを貸してもらい、心海はそれを付けた。一緒にレジのコーナーへ向かう。そこにいたのは化粧でばっちり決めた女性だった。
「この子、新しく入った新田君、仲良くしてあげて」
「新田です。よろしくお願いします」
「はいはーい」
店長を見送り心海は女性店員にレジの打ち方を教わった。基本的にバーコードを読み取るだけでいいらしい。そしてポイントカードの有無や袋、割りばしやアイスのスプーンの提供も客に丁寧に聞いていくこと、クレジットカードやお米券などの金券の使い方、そしてたばこの提供についてなども聞いて、心海は意外と仕事があるのだと驚いた。
大事そうなことはメモを取り、すぐさま実践に移された。
そこで受け取ったお金の数え方や渡し方なども教えてもらう。
お釣りは自動で出て来るのでそこはほっとした。
「ねえ、新田君」
「はい?なんでしょうか?」
「うち、夕方の六時半ころ値引きするの。お腹空くでしょ?何か買ってって」
「え?いいんですか?」
「おにぎりとか本当に美味しいの。でも、なかなか定着しないのよね」
どうやら近くにコンビニがあるからという理由らしい。確かにおにぎりを買うのはコンビニでと先入観がある。
心海は帰り際、店の中を物色してみた。
「え?半額?もともと60円なのに?」
「いらっしゃいませ」
店員にそう微笑まれてしまっては買わないわけにはいかない。心海は商品を手に取ってぴゅうと会計を済ませて帰った。この時間、電車は混んでいる。おにぎりがつぶれてしまわないようリュックを死守した。
家に帰ってきてやっとホッとする。
「シフト表ももらえたし、これで好きな同人誌が買えるぞ」
心海はワクワクしながらイラスト系のSNSを開いて見始めた。ここは東京だ。ヲタにとってはたまらない場所でもある。
「あ、おにぎり食べて夕飯作ろうっと」
律は今日も走っているのだろうか。運動部に入った経験がないので分からないが、きっと自分では続かないという自信はある。
「わ、おいひい」
おにぎりは三つ購入していた。昆布、おかか、鮭の三種である。これで100円ほどで買えるのだからありがたい。
「半額はこれからも狙っていこう」
さて料理をしようと心海は立ち上がりエプロンを着けた。冷蔵庫を開けると、鶏もも肉がででんと入っている。
「あ、そっか。唐揚げしようねって話してたんだっけ」
心海は手際よく鶏もも肉を切り分け味付けをした。
「よし、これで揚げるだけだ」
律が帰って来るまであと一時間ほどある。心海は原稿を広げて描き始めた。締め切りは明日に迫っている。
今は仕上げの段階でミスは許されない。
「ふう。これでどうだろう」
時計を見ると律が帰って来る時間になっていて心海は慌てた。
鍋に油を入れて温め始める。
「ただいまー」
律が帰って来た。
「お帰り、りっくん。ごめんね、まだ出来てなくて」
「お、原稿終わったのか?」
え、と思う間に律が原稿用紙を眺めている。
「へえ、すげえな」
「いやいや、りっくんは怒るところだよ?」
「え?なんで怒るんだ?このおにぎり食っていいんだろ?」
「う、うん」
どうも律は自分に甘い。まあ怒られなくてよかったかと心海はホッと息を吐いた。
もちろん学業第一だが、やはり金がなければ日々の生活に響く。親からの仕送りは家賃や水道光熱費で消えてしまうので尚更だ。都内に住むのがいかに大変か、心海は今更ながらに実感している。履歴書を持って面接に来たものの、自分に仕事が務まるのかと思うと、正直な所、自信がない。
今までは飲食店で調理補助のバイトをしていたが、今回は近場にあるスーパーの仕事を選んだ。
「新田君、菊花大なんだね。うちの娘はOGでね」
「え?そうなんですか?」
店長と名乗る初老の男性ににこやかに言われて、心海はどきどきしながらも返事をした。
「新田君、レジ打ちしてみない?慣れるまで時間がかかるかもしれないけど、基本的に単調作業だしどうかな?」
「え、それって採用してもらえるんですか?」
「ちょうど人がいなくてね、来てくれると助かるんだけど」
「わ、分かりました。お願いします」
心海が頭を下げると、店長に肩をぽんと叩かれた。
「どうする?今日時間があるなら少し見学してく?」
「いいんですか?」
「いいよ。レジ打ちの練習していって」
「ありがとうございます」
店長にエプロンを貸してもらい、心海はそれを付けた。一緒にレジのコーナーへ向かう。そこにいたのは化粧でばっちり決めた女性だった。
「この子、新しく入った新田君、仲良くしてあげて」
「新田です。よろしくお願いします」
「はいはーい」
店長を見送り心海は女性店員にレジの打ち方を教わった。基本的にバーコードを読み取るだけでいいらしい。そしてポイントカードの有無や袋、割りばしやアイスのスプーンの提供も客に丁寧に聞いていくこと、クレジットカードやお米券などの金券の使い方、そしてたばこの提供についてなども聞いて、心海は意外と仕事があるのだと驚いた。
大事そうなことはメモを取り、すぐさま実践に移された。
そこで受け取ったお金の数え方や渡し方なども教えてもらう。
お釣りは自動で出て来るのでそこはほっとした。
「ねえ、新田君」
「はい?なんでしょうか?」
「うち、夕方の六時半ころ値引きするの。お腹空くでしょ?何か買ってって」
「え?いいんですか?」
「おにぎりとか本当に美味しいの。でも、なかなか定着しないのよね」
どうやら近くにコンビニがあるからという理由らしい。確かにおにぎりを買うのはコンビニでと先入観がある。
心海は帰り際、店の中を物色してみた。
「え?半額?もともと60円なのに?」
「いらっしゃいませ」
店員にそう微笑まれてしまっては買わないわけにはいかない。心海は商品を手に取ってぴゅうと会計を済ませて帰った。この時間、電車は混んでいる。おにぎりがつぶれてしまわないようリュックを死守した。
家に帰ってきてやっとホッとする。
「シフト表ももらえたし、これで好きな同人誌が買えるぞ」
心海はワクワクしながらイラスト系のSNSを開いて見始めた。ここは東京だ。ヲタにとってはたまらない場所でもある。
「あ、おにぎり食べて夕飯作ろうっと」
律は今日も走っているのだろうか。運動部に入った経験がないので分からないが、きっと自分では続かないという自信はある。
「わ、おいひい」
おにぎりは三つ購入していた。昆布、おかか、鮭の三種である。これで100円ほどで買えるのだからありがたい。
「半額はこれからも狙っていこう」
さて料理をしようと心海は立ち上がりエプロンを着けた。冷蔵庫を開けると、鶏もも肉がででんと入っている。
「あ、そっか。唐揚げしようねって話してたんだっけ」
心海は手際よく鶏もも肉を切り分け味付けをした。
「よし、これで揚げるだけだ」
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今は仕上げの段階でミスは許されない。
「ふう。これでどうだろう」
時計を見ると律が帰って来る時間になっていて心海は慌てた。
鍋に油を入れて温め始める。
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「お帰り、りっくん。ごめんね、まだ出来てなくて」
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「いやいや、りっくんは怒るところだよ?」
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