レベル0の俺がレベル100のあいつに勝つ方法

遭遇

「よし、今日もやるか」

残業を終え帰宅した航はいつものルーティンをこなし、ゲームを起動していた。
平介が言うに、エルフの谷はかなり広大らしい。
ゲーム世界に入ると、現実のことを忘れられる。航はふうと大きく息を吐いた。

「ワタル、何か悩み事かな？」

声を掛けられて振り返るとレイランスがいた。彼は栗毛の馬に乗っている。

「あー、いや、この世界に癒されてました」

「そうか。護衛任務もまた頼むぞ。それでな」

なんだろうと航は首を傾げた。

「この間、熊を狩猟しただろう？」

「…あ！」

「思い出してくれて何よりだ。その熊は人食いをしていてね、あまりの凶暴さに僕たちの手に負えなかったんだ」

確かあの時クエストをクリアしたと表示された。

「あの熊を利用して蜘蛛切という盗賊団も暗躍していてね」

「あ…」

「やはりワタルが倒していたのだね。たまごを守りながらよくやってくれた」

「まぁたまたまです」

レイランスが笑う。

「君には礼としてこれをあげよう」

「へ？」

レイランスが差し出してきたのは【新鮮な野菜】だった。

「なんですか？これ、食材？」

アイテムの概要を見てみると、特定のモンスターの好物と書かれている。レイランスも話すつもりはないらしい。ニコニコしていた。

「さて、せっかくだ。ワタル。稽古をしていかないかい？」

「是非お願いします」

それからレイランスのしごきをみっちり受けたのだった。

✢

「やっと金曜日か」

航は１人、カレンダーを見て呟いた。仕事も始まれば楽しいのだが、朝は憂鬱だ。そんな時は平介にゲームの話をしようとメッセージで持ちかける。平介もいいですよといつも二つ返事だ。優しい友人がいてよかったなと航はホッとしながらワイシャツのボタンを留めてネクタイを締めた。夏場こそクールビズと言って緩い格好ができるが、年中そうならないものかと航は悶々としている。
会社まで電車で約40分程。その間にソシャゲをプレイするのが日課になっている。

「先輩、おはようございます」

「おはよう。早いな？」

「話したいことがあって」

おそらく森羅万象のことだろうなと航は構えた。

「あの鍵について、攻略を見てみたんですがヒットしないんです」

やはり謎の多いゲームである。

「あと、レイランスさんたちの受け答えが自然過ぎませんか？まるで、生きてるみたいで」

確かにその通りだと航も思う。

「とりあえず今日から護衛任務始めるだろ？」

「はい。ストーリー見たいですもんね」

「平介、今日も頑張ろうな」

「はい！」

素直な後輩の頭を航はぽんぽんと撫でた。