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ルネは空を滑空するのが好きだ。初めこそ上手く飛ぶことが出来なかったが、何度も繰り返している内にコツを掴み、助走なしで空に浮かぶことが出来るようになった。翔吾に波導を合わせて声を掛ける。

「ショーゴ、今どこ?」

彼とは龍の姿に戻っても普通に話せるのがルネは嬉しかった。

「中継局の前だよ!ルネが見える!」

おーい!と翔吾は建物の前で大きく手を振っている。ルネは彼の近くに降り立った。

「ショーゴすごいよ!犯人も捕まえたし、警察もすぐ来てくれるみたい」

「良かった。間に合ったんだね」

ルネはショーゴに掴まるように言った。飛空艇に戻るのだ。やっと安心出来る。ルネは翔吾の肩を爪の生えた手で掴んで飛び上がった。自分は小さな龍だが、ヒト一人くらいなら運べる。それが今はとても嬉しい。
飛空艇に着くと、すでに警察は来ていた。二人にも詳しい事情を聞きたいと言う。翔吾もルネもそれに頷いたのだった。
部屋に戻る際、キータはブロリアの元へ戻っていった。

✢✢✢

「ねえ、ルネ」

「何かあった?」

俺たちは事情聴取の順番が来るのを部屋で待っている。まあお茶もあるし、トイレも部屋の中にあるから何も問題はないのだけど。俺はルネに1枚の紙を差し出した。

「何これ、チラシ?便利屋?」

「そう。あの中継局にいた管理ロボットが起業して儲けたいって言い始めてさ」

一体どう説明したものかな。俺は初めからルネに話をした。

「なるほど、そのロボット、アールくんって言うんだ。監視カメラの管理を任されてたんだね」

「そう。だから警察や探偵に決定的な映像を渡して協力すればがっぽり儲かるんじゃないかって言っていて」

ルネがチラシをじっと見つめている。

「これはどうしたの?」

「うん、やるなら宣伝が大事なんじゃないかなって俺が提案したらアールが作ったんだ。それを配ってくれって」

「ショーゴは本当にお人好しだなぁ」

「よく言われる」

「でも悪くないのかも。今回みたいな事件が起こる可能性もあるし」

「実際、捕まえられたもんな」

「でしょー」

そんな折、ドアをノックされた。いよいよ事情聴取か?ドアを開けたら、制服姿のおじさんがいる。

「ショーゴ様、龍姫様!お二人にお願いしたいことがありまして!」

なんだろう?事情聴取は?

「ささ、とりあえずこちらへ」

俺たちは空いていた個室の一つに連れて行かれた。されたことと言えば、体の採寸である。なんだ?
ルネも不思議そうに首を傾げている。

先程のおじさんはニコニコしながら言った。

「お二人には一日警察署長をしてもらおうかと」

な…何だって?

「あの、俺たち今神殿巡りをしてまして」

「存じ上げております!それが終わってからでいいので是非とも!」

「どうする?ショーゴ」

ルネが不安そうに見上げてきた。うーん、断る理由もないしなぁ。

「分かりました。一旦二人で話し合ってみます」

「ありがとうございます。前向きな検討よろしくお願い致します」

おじさんはもう一度頭を下げる。それから俺たちは事情聴取を別々に受けた。緊張しているせいか、上手く言葉が出てこなくて、喉がカラカラになった。見かねた刑事さんにお茶を出してもらったら少しマシになった。ルネは大丈夫だったのかな。

部屋に戻るとルネがベッドに丸くなっていた。龍が猫ちゃんになったな。そばに腰掛けると、ルネが目を開ける。

「ショーゴ、僕疲れた」

「俺もだよ。何聞かれたの?」

「僕が事件と関わりがないかどうかの確認だってさ。関わりなんかあるわけないのにー!」

もー、とルネが足をバタバタさせている。まあ、警察は疑ってなんぼな組織だからな。

「俺も似たようなこと聞かれたよ。みんな聞かれてるから大丈夫」

そう言ったらルネが起き上がって抱き着いてきた。頭を撫でると嬉しそうにするから可愛いんだよな。

「ねえ、警察署長ってなにするの?」

「あぁ、あれか。多分訓練を見たりするんじゃないかな」

「へええ!」

ルネが顔を輝かせる。飛空艇が高度を下げてきている。いよいよモアグリア王城都市に戻ってきたぞ。
ターミナルに無事に停泊した船から俺たちは降りた。ハクはずっと厩舎にいたから走りたくてしょうがないだろう。フィールドに向かうとハクはしばらく俺たちの周りを走り回って戻ってきた。

「ハク、何かあった?」

ルネの胸に顔を擦り付けているハクの頭をルネが撫でている。ハクがこんなに甘えてくるのは珍しい。

「そっか。馬番さんもハクのそばに居られなかったから寂しかったんだね」

ハクが鼻を鳴らす。可愛いな。今回の飛空艇の事件はかなり重大に捉えられているようだ。これからも何が起きるか分からないもんな。
ターミナルには二つ出入り口がある。王城都市側と簡易ギルド側だ。観光客は大抵王城都市側から出るけど、俺たちは通路を抜けて裏側にある簡易ギルドに向かった。中に入ると赤ん坊の泣く声がした。帰ってきたなぁ。

「ショーゴ、帰ってきたか」

俺はピンフィーネさんに敬礼した。

「団長、ただいま戻りました」

「龍姫様もお疲れ様です。龍の里はどうですか?」

「うん、変わらないよ。前より賑やかになってた。ヒトがいるっていいね」

コロニーから次々とヒトが帰ってきているもんな。

「あの、これお土産です」

俺はおせんべいの箱を3つ取り出した。足りると良いけれど。ピンフィーネさんが笑う。

「気など遣わなくてもいいのに。だが、前にも言ったが、私はせんべいに目がない。今回はありがたく頂戴しよう。フィーナ!、お茶を淹れるからな!」

「はーい!ショーゴ様、龍姫様、お帰りなさいませ」

気が付いたフィーナさんがやってくる。彼女の話によれば、赤ん坊たちはみんなすくすく大きくなっているようだ。

「あ…!」

フィーナさんが急に声を上げる。どうしたんだろう?

「シャナ様がここに来て間もなく1年になるんです。ですから皆様でまとめて…」

なるほど、なにかお祝いをということか。シャナはもう首が座って囲いの中をはいずり回ることが出来る。子供の成長は早いなぁ。マヨイもまた随分大きくなったなぁ。彼女はつかまり立ちができるらしい。チサトも笑ったり泣いたり忙しい。

「おいショーゴ」

ぬっと現れたのは熊…いや、ブロリアだった。ルイさんはあの事件の解決で謹慎が解けたらしい。よかった。

「お前、署長ペコペコさせたって噂になってるぞ」

え…?署長?
俺が首を傾げると、ブロリアが頭を抱える。

「お前に一日警察署長を頼んだおっさんいたろ?あれ署長だぞ」

「えー?!」

警察って縦社会だよな?大丈夫か?

「もうお前たちは一日警察署長やるの確定だからな」

やっぱりそうなりますよね?!

「僕やりたかったから嬉しいなー」

ルネがニコニコしながら言う。

「なんだ?やけに楽しそうだな。ブロリア、久しいな」

「ども」

みんなで雑談をしながらお茶を飲んだ。
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