異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ

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 おやつを食べ終えた子どもたちは屋敷の裏庭にある東屋にいる。ここは子どもたちの遊び場にとエンオウが翔吾と共に一から作ってくれた場所である。エンオウは子どもたちを目に入れても痛くないというほど可愛がっていた。子どもたちからは「エンオウのおじちゃん」と呼ばれ、慕われている。

「シャナ、そこは窓だよ」

「お前、よく視えるな。本当に」

 マヨイが杖を振り、シャナは紙に定規を置いて鉛筆で線を引っ張っている。

「二人共、何してるの?」

 とびすけが尋ねると、二人は笑った。

「俺たちは皆で歴史的建造物内の見学に行くんだ」

「つまりね、魔王城の中の地図を描いてるの」

 魔王城を歴史的建造物と言いかえるのはどうかと思うが、とびすけはなんだかワクワクしてきた。地図を見つめる。

「こんな感じなんだ、魔王城って」

「王城とそこまで変化はないわ。ただし、奥に何かがいるのよね」

 マヨイが再び杖を振る。彼女の魔力は彼女の年齢にとてもそぐわない。だからいつも力を持て余している。

「マヨイがいればなんとかなんだろ」

「ちょっと、あたしは女の子なのよ?」

「マヨイ姉さん、あたしも手伝えるわ」

「あたしもよ」

 龍であるルーも魔法が使える。そしてチサトはテレパスの持ち主だった。相手の気持ちを読み取ることが出来る。戦闘時、相手が次に何をしてくるか探るのは大事である。一方でとびすけは縮こまった。自分が戦闘向きではないことは自分が一番よく知っている。

「どうしよう、僕、何もできない」

「お前には罠があるだろ。頼りにしてるぞ、トビア」

 シャナにそう言われて頭を撫でられるととびすけは勇気が出るのだ。

「うん、なんか変なのがいても罠で皆をサポートするよ」

 それを翔吾は静かに窺っていた。やはり子どもたちは魔王城に乗り込むつもりらしい。

「何してるの?おとーさん」

 急に声を掛けられるが翔吾はもう驚かない。長年の経験がそうさせた。

「ルネ、本当に行かせるつもりなのか?」

「それがいいって占いには出てるけどね」

 ルネシアの占いは確かである。

「まさかシャナがあんなに振り切れた子になるとは」

 はああと翔吾がため息を吐くと、ルネシアが小さく笑う。

「ふふ、とびすけをいい感じに守ってくれそうじゃない」

 翔吾ははた、と気が付いた。ずっと聞かなければと思っていたのだ。

「やっぱりトビアは次期龍姫なの?」

「うん、まあね。すでに二人の間には信頼関係があるし、遅かれ早かれ…ね」

 ルネシアはこう言っている。トビアとシャナは番になるのだと。

「ううん、複雑だなぁ」

「子離れしなきゃ駄目ですよ。おとーさん」

「まだ5歳だよ?」

「龍に年齢は関係ないでしょ」

確かにその通りかもしれない、と考えそうになって、翔吾は首を振った。

「まだ俺もお父さんでいたいよ」

「あはは」

二人は東屋を離れた。とびすけが振り返るが誰もいない。今、父たちがいたような気がしたが気の所為だろう。とびすけは着々と完成していく図面を見て歓声を上げた。

「ここが一番怪しいわ」 

マヨイが杖で図面をこつりと叩く。

「本当に奥じゃねえか。時間もあまりないし、やっぱり行くなら最短ルートだな。とびすけ、壁を壊すための火薬を取りに行こう」

まるで本を借りに行こうというくらいの気軽さでシャナが言う。とびすけはそれに頷いた。爆弾は敵襲にも便利である。もちろん、取り扱いに十分注意が必要だが。二人は立ち上がった。

「あたしたちはもう少し魔王城の周りを探るわ。あたしの出自がなにか分かるかも。それって面白いじゃない」

「おう、頼んだ。まぁほどほどにな」

とても6歳の子どもがする会話じゃない。だが、ここにいる子どもたちにとっては当たり前の光景だった。

「とびすけ、おいで」

「うん」

シャナはとびすけを呼ぶ時、いつも「おいで」と必ず呼んでくれる。他の子には「こっちに来い」だとか、もっと乱暴に「おい」だけだったりするが、とびすけの時には違うのだ。自分だけシャナにとっての特別ではないかと、とびすけは毎回そう思うのだが、父に似て慎重な性格である。いやいやと考え直す。いつもこれの繰り返しだ。


二人は工房を訪れている。

火薬は龍の里の誇る技術の一つ、龍銃の弾に使われる。火薬といってもただの火薬ではない。龍の魔力が籠もった時にだけ反応し爆発する特別製だ。
とびすけはこの火薬を使った爆弾の扱いに長けている。誰に教わったわけでもない。ただ、ずっと龍銃が作られる様を見てきたというのが理由に挙げられるだろう。

「坊っちゃんたち、またきなすったんですかい?」

職人の一人がシャナととびすけに声を掛けてくれた。

「なあ、火薬を分けてくれよ」

シャナが大人たちを見上げながら言う。

「構いやしませんが、今度は何に使うんで?」

どうやら分けてくれそうだとシャナととびすけはお互いを見つめ合って笑った。

「魔王城を落としたいんだ」

「ほう。またたいそれたことを」

「ただ、落としている時間が2日もない」

シャナの言葉に職人は笑った。

「奥に進むために最短ルートをってことですか。いいでしょう。爆弾を作っていきなさい。ただし10個までですよ」

個数制限は痛いが、無償で作らせてもらえるだけありがたい。二人はせっせと爆弾を手作りした。壁を破壊するならある程度の威力が要る。殺傷能力に関しては考えたことがないが、爆弾によって、取り返しのつかないことが起こりうることはとびすけもシャナもよく理解していた。

「こうか?とびすけ」

「うん、ちゃんと出来てるよ」

爆弾は小さな子供の手のひら大のサイズだ。子供が投げるのだから小さいのは当然だが、破壊力は抜群である。とびすけは布の袋に爆弾を丁寧にしまった。持ち上げてみる。運ぶだけなら容易だ。あとは自分の使い方次第である。とびすけは自分の道具箱のもとへ向かった。罠を作る為である。翔吾やルネシアにいたずらで仕掛けるレベルではない。もっとずっと危険なものだ。自分たちはこれから本気の戦いに出るのだ。準備は抜かりなくしなければならない。子どもたちは皆、そう思っている。
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