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第一話「ホテルに泊まろう」
ホテル・ラクサス
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ここは王国バロバニア。一つの大陸のほとんどを領土にしている巨大な国だ。
国王は平和を愛しているため、とても平穏な国である。
今は7月。バロバニアの北地方、ラクサスにもようやく遅い夏がやってきていた。
これはレイラがラクサスに嫁いで1年半が経過した時の話である。
ジジジと長いアンテナを伸ばしたラジオからノイズが走る音がする。
レイラはラジオのダイアルを慎重に回してチューニングを合わせる。
するとノイズが消えて、音声がクリアになった。ラジオから男の声がする。
「えー、マイクテストマイクテスト。
これからホテル・ラクサスの竣工式を始めます」
わっと拍手がわいた。ラジオからざわめきが聞こえている。
今日はホテル・ラクサスの完成を祝う式がそのホテルの庭で行われている。
なんと、豪華なリゾートホテルがこのラクサスに作られたのだ。
ラクサスには使われていない土地が余るほどあった。静かで自然も多く、リゾートホテルにいながらキャンプや広大な自然を満喫できるアクティビティを作ることができる環境とあって、それに目をつける企業が現れたのだ。
ラウはそれに対して、上手く交渉したらしい。
ラクサスにとって、とても有利な条件で契約を結んだようだった。
当然、ラクサス地方を治めている伯爵であるラウも式に出席している。
レイラたちはその様子を家にあるラジオで聞いているのだった。
「れいら、これなあに?」
イヴがラジオを小さな手で指差す。
「ラジオっていうんだ。
大事なことを俺達に知らせてくれるんだよ」
「へー!」
イヴの頭を撫でながらレイラは説明した。
イヴがテーブルの上に置いてあるラジオに身を乗り出す。
「ふしぎだねー!」
「本当だな」
「レイラ様、イヴ、兄さんのスピーチが始まるよ」
トウマの言葉に二人は耳を澄ませた。
ラウが話し始めたようだ。
「皆様、この度はホテル・ラクサス完成の式にお集まり頂き、誠にありがとうございます。
ラクサスは、近年不作が続き、経済が落ち込んでいました。
今回のホテル建築計画は本当に有り難いお話です。改めて御礼を申し上げます」
ラウのスピーチに拍手が起こる。
レイラも彼の声に聞き入っていた。
いつも間近で聞いている声だ。
なんだかラウが恋しくなってくる。
「ラウ様ありがとうございました。
次は工事の指揮をしてくださったマキシ様よりお話を頂きます」
「レイラ様!洗濯物が風で飛んじゃってる!」
ふと窓の外を見たらしいトウマが叫んだ。
レイラも慌てて立ち上がる。
今は夏だ、洗って干せばすぐ乾く。
だが、汗もかく分当然洗濯物の量は増える。
今日も三人で一生懸命洗濯を終わらせたのだ。
レイラは庭に出て、飛んでいた洗濯物をできる限り掴んだ。
トウマも同じことをやってくれている。
「れいら、風強かったね」
イヴが汚れてしまった洗濯物を見つめて言う。レイラはそんな彼女の頭を撫でた。
「大丈夫、ほとんどが乾いているみたいだ。汚れたやつは俺が洗うから、二人はおやつを食べていてくれ」
「でも…俺達も手伝いたい」
レイラはトウマのそんな気持ちが嬉しかった。
だが、汚れた洗濯物はせいぜい2、3枚である。洗い直すのに大して時間もかからないだろう。
「大丈夫だよ、トウマ。
すぐ終わるって」
「うん」
二人のために焼いた大きなチョコチップクッキーを皿に盛って、レイラは熱いお茶を淹れた。
「ほら、熱いからゆっくり食べろよ」
「いただきまーす!」
「いただきます」
二人がクッキーを頬張る。
「美味っ」
「美味しいね。トウマ!」
レイラはいつも、この瞬間が大好きだった。自分の作ったものがこうして喜んでもらえる。それだけで、日々の疲れなんて吹き飛んでしまう。
「じゃあ俺は庭で洗濯をしてくるよ」
「はーい!」
レイラは大きな桶に水を張って、洗濯板に服をごしごし擦りつけた。
汚れたとはいえ、大したことはない。
簡単に汚れは落ちた。
(ふう、次で最後)
「レイラさん」
後ろから名前を呼ばれて、レイラは飛び上がった。
振り返るとそこにはラウがいる。
「え?ラウ様?パーティに参加していたんじゃ?」
竣工式のあとにパーティが開かれるとレイラはラウから聞いていた。
「実は竣工式の間にみなさん、大分出来上がってしまっていて…」
「もしかしてパーティを開いている場合じゃなくなったんですか?」
ラウが頷く。
「私は飲まなかったので、パーティができなかったお詫びにとスタッフからホテルのチケットを頂いて来ました。
近いうちにみんなで行ってみましょうか?
とはいっても大分近場ですが」
「わぁ、楽しみです」
レイラがそう言うとぎゅっとラウに両手を握られた。
「レイラさんと一緒に出掛けたかったんです」
「ラウ様」
二人がお互いを見つめ合っていると子供達がやってきた。
「らうー!おかえりー!」
「兄さん、お帰り」
こうして、レイラ達がホテル・ラクサスに泊まることが決定したのだった。
国王は平和を愛しているため、とても平穏な国である。
今は7月。バロバニアの北地方、ラクサスにもようやく遅い夏がやってきていた。
これはレイラがラクサスに嫁いで1年半が経過した時の話である。
ジジジと長いアンテナを伸ばしたラジオからノイズが走る音がする。
レイラはラジオのダイアルを慎重に回してチューニングを合わせる。
するとノイズが消えて、音声がクリアになった。ラジオから男の声がする。
「えー、マイクテストマイクテスト。
これからホテル・ラクサスの竣工式を始めます」
わっと拍手がわいた。ラジオからざわめきが聞こえている。
今日はホテル・ラクサスの完成を祝う式がそのホテルの庭で行われている。
なんと、豪華なリゾートホテルがこのラクサスに作られたのだ。
ラクサスには使われていない土地が余るほどあった。静かで自然も多く、リゾートホテルにいながらキャンプや広大な自然を満喫できるアクティビティを作ることができる環境とあって、それに目をつける企業が現れたのだ。
ラウはそれに対して、上手く交渉したらしい。
ラクサスにとって、とても有利な条件で契約を結んだようだった。
当然、ラクサス地方を治めている伯爵であるラウも式に出席している。
レイラたちはその様子を家にあるラジオで聞いているのだった。
「れいら、これなあに?」
イヴがラジオを小さな手で指差す。
「ラジオっていうんだ。
大事なことを俺達に知らせてくれるんだよ」
「へー!」
イヴの頭を撫でながらレイラは説明した。
イヴがテーブルの上に置いてあるラジオに身を乗り出す。
「ふしぎだねー!」
「本当だな」
「レイラ様、イヴ、兄さんのスピーチが始まるよ」
トウマの言葉に二人は耳を澄ませた。
ラウが話し始めたようだ。
「皆様、この度はホテル・ラクサス完成の式にお集まり頂き、誠にありがとうございます。
ラクサスは、近年不作が続き、経済が落ち込んでいました。
今回のホテル建築計画は本当に有り難いお話です。改めて御礼を申し上げます」
ラウのスピーチに拍手が起こる。
レイラも彼の声に聞き入っていた。
いつも間近で聞いている声だ。
なんだかラウが恋しくなってくる。
「ラウ様ありがとうございました。
次は工事の指揮をしてくださったマキシ様よりお話を頂きます」
「レイラ様!洗濯物が風で飛んじゃってる!」
ふと窓の外を見たらしいトウマが叫んだ。
レイラも慌てて立ち上がる。
今は夏だ、洗って干せばすぐ乾く。
だが、汗もかく分当然洗濯物の量は増える。
今日も三人で一生懸命洗濯を終わらせたのだ。
レイラは庭に出て、飛んでいた洗濯物をできる限り掴んだ。
トウマも同じことをやってくれている。
「れいら、風強かったね」
イヴが汚れてしまった洗濯物を見つめて言う。レイラはそんな彼女の頭を撫でた。
「大丈夫、ほとんどが乾いているみたいだ。汚れたやつは俺が洗うから、二人はおやつを食べていてくれ」
「でも…俺達も手伝いたい」
レイラはトウマのそんな気持ちが嬉しかった。
だが、汚れた洗濯物はせいぜい2、3枚である。洗い直すのに大して時間もかからないだろう。
「大丈夫だよ、トウマ。
すぐ終わるって」
「うん」
二人のために焼いた大きなチョコチップクッキーを皿に盛って、レイラは熱いお茶を淹れた。
「ほら、熱いからゆっくり食べろよ」
「いただきまーす!」
「いただきます」
二人がクッキーを頬張る。
「美味っ」
「美味しいね。トウマ!」
レイラはいつも、この瞬間が大好きだった。自分の作ったものがこうして喜んでもらえる。それだけで、日々の疲れなんて吹き飛んでしまう。
「じゃあ俺は庭で洗濯をしてくるよ」
「はーい!」
レイラは大きな桶に水を張って、洗濯板に服をごしごし擦りつけた。
汚れたとはいえ、大したことはない。
簡単に汚れは落ちた。
(ふう、次で最後)
「レイラさん」
後ろから名前を呼ばれて、レイラは飛び上がった。
振り返るとそこにはラウがいる。
「え?ラウ様?パーティに参加していたんじゃ?」
竣工式のあとにパーティが開かれるとレイラはラウから聞いていた。
「実は竣工式の間にみなさん、大分出来上がってしまっていて…」
「もしかしてパーティを開いている場合じゃなくなったんですか?」
ラウが頷く。
「私は飲まなかったので、パーティができなかったお詫びにとスタッフからホテルのチケットを頂いて来ました。
近いうちにみんなで行ってみましょうか?
とはいっても大分近場ですが」
「わぁ、楽しみです」
レイラがそう言うとぎゅっとラウに両手を握られた。
「レイラさんと一緒に出掛けたかったんです」
「ラウ様」
二人がお互いを見つめ合っていると子供達がやってきた。
「らうー!おかえりー!」
「兄さん、お帰り」
こうして、レイラ達がホテル・ラクサスに泊まることが決定したのだった。
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