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三話・蔵
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「うがぁあっ!!」
鉈を振り上げるおじさんから僕たちは必死に逃げ出した。靴下のまま庭に向かう。それをおじさんが追いかけてくる。
「詩史!急げ!」
僕たちは茶の間を横切って縁側に向かった。
「ギャァア」
おじさんが急に苦しんで、足を止める。今なら逃げられる。蔵の中に入って中から鍵をかける。しばらく清おじさんは扉を叩きながら外で唸っていたけれど、しばらくしたら家の中に戻っていったようだ。再び怖いくらいの静寂に包まれる。扉が壊れなくてよかった。
「おじさん、一体どうしちゃったんだろ?鍵がかかってなくてよかった。もし掛かってたらとても間に合わなかったよ」
「…」
「兄さん?」
兄さんがスマートフォンの画面を見つめて舌打ちした。どうしたんだろう?
「なんでここ、圏外になってんだ?くそ…」
僕は恐ろしくなった。それはつまり、誰も助けを呼べないということを示す。父さんや母さんにも僕たちがどこにいるか分からない。だって嘘をついて勝手にここに来たから。
兄さんはしばらく考えていた。そうかと思ったら蔵を漁りだす。なにをしようとしてるんだろう?
兄さんが蔵の中の物を動かし始めた。大丈夫かな?
「つまり、あいつから身を守れればいいんだろ?」
確かにその通りだけど、頭を守るためとはいえ、バケツを被れば前はよく見えないし、スコップでは鉈と戦うには心許ないかもしれない。
「ん?なんだこりゃ?」
兄さんが何かの冊子を手に取る。僕も気になって隣から思わず覗き込んだ。それは古びたノートだ。もとから茶色かったのか、年月が経ったせいで茶色くなったのかはもう判別できない。表紙にはこう書いてある。「死亡日記」と。なんだか背筋に冷たいものが走る。ただでさえこんな状況だから尚更だ。いつ清おじさんが戻ってくるかと思うと気が気じゃない。もし、蔵に火を放たれたりしたら、僕たちはそれでおしまいだ。
兄さんがページを捲った。
「六月一日、父さまにおもちゃを買ってもらってうれしかった…なんだ、普通の日記じゃないか」
兄さんがホッとしたような声を上げる。兄さんも怖いんだなって僕はそこで初めて気が付いた。
兄さんが更にページを捲る。
「六月二日、兄さまとあそんでもらった。おれはすごくしあわせだ」
兄さんが日記を音読してページを捲る。どのページにも仲睦まじい家族の様子が書かれていた。
「六月十三日、ぬえがやってきた。おれたちになにかをさしだせと言う。でなければみなごろしだと言われる。父さまは自分の片目をえぐられた……おい…なんだよこれ…冗談だよな?」
兄さんがガタガタ震えている。僕はもう怖くて怖くてたまらなかった。今の状況はどう考えても普通じゃないから余計だ。「ぬえ」って何者なんだろう?よく都市伝説になってるやつなんだろうか?「ぬえ」と呼ばれた何かは、その子の家族から毎日何かを奪い取る。命すらも簡単に。兄さんは他のページも読んでいる。
「に、兄さん、それはもういいよ!とにかくここからなんとか逃げ出さなきゃ!」
「落ち着け、詩史。もしかしたら、あいつはこの蔵に近づけないのかも知れない」
「え?」
「これだ」
兄さんが示したのは大きな鏡台だった。蔵の入口近くにでん、と置いてある。確かおばあちゃんがお嫁に来たときにお父さんから贈ってもらったって言っていた。あまりにも大きいし、おじいちゃんが新しく買ってくれたから蔵に入れたって言っていたな。嬉しそうに話してくれたっけ。
「さっき茶の間を通った時、ばあちゃんが使ってた鏡台を見てあいつは苦しんだ。あいつの弱点は多分、鏡だ。それか自分の姿を映すもの…例えば水たまりとか…雨が降ってないから今は無理だけど」
「じゃあどうするの?」
「ここで鏡を探そう。なければこの鏡台をなんとか壊して使う」
そうするしかここから脱出して、生き残る方法がないんだ。僕は反射的に頷いていた。
鉈を振り上げるおじさんから僕たちは必死に逃げ出した。靴下のまま庭に向かう。それをおじさんが追いかけてくる。
「詩史!急げ!」
僕たちは茶の間を横切って縁側に向かった。
「ギャァア」
おじさんが急に苦しんで、足を止める。今なら逃げられる。蔵の中に入って中から鍵をかける。しばらく清おじさんは扉を叩きながら外で唸っていたけれど、しばらくしたら家の中に戻っていったようだ。再び怖いくらいの静寂に包まれる。扉が壊れなくてよかった。
「おじさん、一体どうしちゃったんだろ?鍵がかかってなくてよかった。もし掛かってたらとても間に合わなかったよ」
「…」
「兄さん?」
兄さんがスマートフォンの画面を見つめて舌打ちした。どうしたんだろう?
「なんでここ、圏外になってんだ?くそ…」
僕は恐ろしくなった。それはつまり、誰も助けを呼べないということを示す。父さんや母さんにも僕たちがどこにいるか分からない。だって嘘をついて勝手にここに来たから。
兄さんはしばらく考えていた。そうかと思ったら蔵を漁りだす。なにをしようとしてるんだろう?
兄さんが蔵の中の物を動かし始めた。大丈夫かな?
「つまり、あいつから身を守れればいいんだろ?」
確かにその通りだけど、頭を守るためとはいえ、バケツを被れば前はよく見えないし、スコップでは鉈と戦うには心許ないかもしれない。
「ん?なんだこりゃ?」
兄さんが何かの冊子を手に取る。僕も気になって隣から思わず覗き込んだ。それは古びたノートだ。もとから茶色かったのか、年月が経ったせいで茶色くなったのかはもう判別できない。表紙にはこう書いてある。「死亡日記」と。なんだか背筋に冷たいものが走る。ただでさえこんな状況だから尚更だ。いつ清おじさんが戻ってくるかと思うと気が気じゃない。もし、蔵に火を放たれたりしたら、僕たちはそれでおしまいだ。
兄さんがページを捲った。
「六月一日、父さまにおもちゃを買ってもらってうれしかった…なんだ、普通の日記じゃないか」
兄さんがホッとしたような声を上げる。兄さんも怖いんだなって僕はそこで初めて気が付いた。
兄さんが更にページを捲る。
「六月二日、兄さまとあそんでもらった。おれはすごくしあわせだ」
兄さんが日記を音読してページを捲る。どのページにも仲睦まじい家族の様子が書かれていた。
「六月十三日、ぬえがやってきた。おれたちになにかをさしだせと言う。でなければみなごろしだと言われる。父さまは自分の片目をえぐられた……おい…なんだよこれ…冗談だよな?」
兄さんがガタガタ震えている。僕はもう怖くて怖くてたまらなかった。今の状況はどう考えても普通じゃないから余計だ。「ぬえ」って何者なんだろう?よく都市伝説になってるやつなんだろうか?「ぬえ」と呼ばれた何かは、その子の家族から毎日何かを奪い取る。命すらも簡単に。兄さんは他のページも読んでいる。
「に、兄さん、それはもういいよ!とにかくここからなんとか逃げ出さなきゃ!」
「落ち着け、詩史。もしかしたら、あいつはこの蔵に近づけないのかも知れない」
「え?」
「これだ」
兄さんが示したのは大きな鏡台だった。蔵の入口近くにでん、と置いてある。確かおばあちゃんがお嫁に来たときにお父さんから贈ってもらったって言っていた。あまりにも大きいし、おじいちゃんが新しく買ってくれたから蔵に入れたって言っていたな。嬉しそうに話してくれたっけ。
「さっき茶の間を通った時、ばあちゃんが使ってた鏡台を見てあいつは苦しんだ。あいつの弱点は多分、鏡だ。それか自分の姿を映すもの…例えば水たまりとか…雨が降ってないから今は無理だけど」
「じゃあどうするの?」
「ここで鏡を探そう。なければこの鏡台をなんとか壊して使う」
そうするしかここから脱出して、生き残る方法がないんだ。僕は反射的に頷いていた。
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