僕の死亡日記

はやしかわともえ

文字の大きさ
3 / 22

三話・蔵

しおりを挟む
「うがぁあっ!!」

鉈を振り上げるおじさんから僕たちは必死に逃げ出した。靴下のまま庭に向かう。それをおじさんが追いかけてくる。

「詩史!急げ!」

僕たちは茶の間を横切って縁側に向かった。

「ギャァア」

おじさんが急に苦しんで、足を止める。今なら逃げられる。蔵の中に入って中から鍵をかける。しばらくきよおじさんは扉を叩きながら外で唸っていたけれど、しばらくしたら家の中に戻っていったようだ。再び怖いくらいの静寂に包まれる。扉が壊れなくてよかった。

「おじさん、一体どうしちゃったんだろ?鍵がかかってなくてよかった。もし掛かってたらとても間に合わなかったよ」

「…」

「兄さん?」

兄さんがスマートフォンの画面を見つめて舌打ちした。どうしたんだろう?

「なんでここ、圏外になってんだ?くそ…」

僕は恐ろしくなった。それはつまり、誰も助けを呼べないということを示す。父さんや母さんにも僕たちがどこにいるか分からない。だって嘘をついて勝手にここに来たから。
兄さんはしばらく考えていた。そうかと思ったら蔵を漁りだす。なにをしようとしてるんだろう?
兄さんが蔵の中の物を動かし始めた。大丈夫かな?

「つまり、あいつから身を守れればいいんだろ?」

確かにその通りだけど、頭を守るためとはいえ、バケツを被れば前はよく見えないし、スコップでは鉈と戦うには心許ないかもしれない。

「ん?なんだこりゃ?」

兄さんが何かの冊子を手に取る。僕も気になって隣から思わず覗き込んだ。それは古びたノートだ。もとから茶色かったのか、年月が経ったせいで茶色くなったのかはもう判別できない。表紙にはこう書いてある。「死亡日記」と。なんだか背筋に冷たいものが走る。ただでさえこんな状況だから尚更だ。いつ清おじさんが戻ってくるかと思うと気が気じゃない。もし、蔵に火を放たれたりしたら、僕たちはそれでおしまいだ。
兄さんがページを捲った。

「六月一日、父さまにおもちゃを買ってもらってうれしかった…なんだ、普通の日記じゃないか」

兄さんがホッとしたような声を上げる。兄さんも怖いんだなって僕はそこで初めて気が付いた。
兄さんが更にページを捲る。

「六月二日、兄さまとあそんでもらった。おれはすごくしあわせだ」

兄さんが日記を音読してページを捲る。どのページにも仲睦まじい家族の様子が書かれていた。

「六月十三日、ぬえがやってきた。おれたちになにかをさしだせと言う。でなければみなごろしだと言われる。父さまは自分の片目をえぐられた……おい…なんだよこれ…冗談だよな?」

兄さんがガタガタ震えている。僕はもう怖くて怖くてたまらなかった。今の状況はどう考えても普通じゃないから余計だ。「ぬえ」って何者なんだろう?よく都市伝説になってるやつなんだろうか?「ぬえ」と呼ばれた何かは、その子の家族から毎日何かを奪い取る。命すらも簡単に。兄さんは他のページも読んでいる。

「に、兄さん、それはもういいよ!とにかくここからなんとか逃げ出さなきゃ!」

「落ち着け、詩史。もしかしたら、あいつはこの蔵に近づけないのかも知れない」

「え?」

「これだ」

兄さんが示したのは大きな鏡台だった。蔵の入口近くにでん、と置いてある。確かおばあちゃんがお嫁に来たときにお父さんから贈ってもらったって言っていた。あまりにも大きいし、おじいちゃんが新しく買ってくれたから蔵に入れたって言っていたな。嬉しそうに話してくれたっけ。

「さっき茶の間を通った時、ばあちゃんが使ってた鏡台を見てあいつは苦しんだ。あいつの弱点は多分、鏡だ。それか自分の姿を映すもの…例えば水たまりとか…雨が降ってないから今は無理だけど」

「じゃあどうするの?」

「ここで鏡を探そう。なければこの鏡台をなんとか壊して使う」

そうするしかここから脱出して、生き残る方法がないんだ。僕は反射的に頷いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ
ホラー
それは、あなたの『隣』にも潜んでいるのかもしれない。 日常風景が歪む瞬間、すぐそばに現れる異様な気配。 襖の隙間、スマートフォンの画面、アパートの天井裏、曰く付きの達磨…。 身近な場所を舞台にした怪異譚が、これから続々と語られていきます。 じわりと心を侵食する恐怖の記録、短編集『隣の怪異』。 今宵もまた、新たな怪異の扉が開かれる──。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると、分からないと怖い話【体験談+】

緑川
ホラー
ショートショートの寄せ集め。 幻想的から現実味溢れるものなど様々、存在。 出来の良し悪しについては格差あるので悪しからず。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

処理中です...