僕の死亡日記

はやしかわともえ

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十六話・彷徨う

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 生温い水の中に揺蕩っているようだ。僕は思い出していた。あの日記には確かに鵺を討伐したと書いてあった。でも結局、鵺の死体は見つからなかったんだったっけ。僕のひいひいひいおじいちゃんはかなり念入りに死体を探したと日記に記述を残していた。そう、この間見たら、日記に新しいページがまた追加されていたのだ。そして不思議なことに、まっさらで何も書かれていないページも増えていた。この続きを書くのは、つまり僕ということになる。死亡日記という恐ろしいタイトルの日記に僕は何を書けばいいんだろう?そこまで考えて僕は目が覚めた。ぴちょん、ぴちょん、と不気味な、水滴の垂れる音がする。目の前は闇。そしてすごく寒かった。僕は半袖を着ていたから尚更だ。あまりの寒さに歯がカチカチ鳴る。ここは檻の中?柵を握って揺するとすごい音が鳴り響いた。音が反響する、ということはここは洞窟のような場所だろうか?思っているより冷静な自分に驚く。

「こんなところで死ぬわけにはいかない」

 僕はひとり呟いていた。兄さんや空、そして獅子王にまた会わなきゃいけない。みんな、僕に勇気をくれた人だ。檻には当然鍵が掛かっている。僕はガシャガシャそれを揺すった。重たいそれは開くはずもない。どうしよう。僕はふと、ポケットの感触に気が付いた。もしかしたら。僕はポケットからそれを取り出した。おじいちゃんの家に行った時、兄さんからあの時に預かった蔵の鍵だ。それを鍵穴に嵌めると、カチリと開いた。なんでかは分からない。それに、ここはどこなんだろう?キィと軋む檻のドアを僕は開けた。瞬間、鳥が騒がしく鳴き出す。僕は怖くなって走り出した。あの鳥は、鵺に僕が逃げ出したことを報せたのかもしれない。とにかく僕は走った。道なんて当然分からない。

「小僧、どこに行く気だ?」

 ひゅっと喉から息が漏れた。後ろにいるのは鵺だ。今度こそ殺されてしまう。いや、まだだ。まだ諦めるのは早い。僕は振り返らず、必死に走った。いよいよ鵺が僕の首元を虎の腕で掴もうとする。僕はポケットから鏡の破片を取り出していた。ちょうど真上から光が射し込んでいる。鏡を鵺に翳すと、やつは悲鳴を上げた。どうやら僕は今まで地下にいたらしい。光の射す方向にひたすら向かう。こんな所、もう来たくない。

「わぁぁ!!!」

 僕はガバっと起き上がった。あ、あれ?ここは僕の部屋?

「主人!!よく戻ってきたな!」

「し、獅子王?僕…」

 獅子王が抱き着いてくる。あ、暑いな。エアコンのリモコンどこだっけ?僕はくっついてくる獅子王をなんとか引き剥がしながら、リモコンを見付けた。ピッと電源を入れると、涼しくなる。獅子王が小さくなって、僕の膝に乗っかってきた。僕に甘えたいのかな?獅子王の頭を撫でてあげると獅子王がその場で胡座をかく。そして僕を見上げて笑い掛けてきた。

「主人!本当によく戻ってきたな!」

「一体何が何だか」

「簡単に言うと、あの時主人は心を連れ去られたんだ」  

「心を?」

「あぁ。心を壊されたら、人間は生きられないからな」

 僕はゾッとなった。それは結構危なかったな。枕元に置いたスマートフォンを手に取ると、約3時間程が経過していた。もっと時間が経っていたような感覚がある。怖かったせいだろうか?それにしても戻ってこられてよかった。詳しく話を、と獅子王に促されて僕は起きたことを話した。鍵と鏡の破片は今は持っていなかった。

「主人は本当に愛されているな。きっと鵺を退治できる兆候だ」

 獅子王が真面目な顔で言う。

「主人、鵺はきっと主人をただの子供だと思っていたんだろう。でも今回のことでかなり警戒するはずだ。やつの首を落とすまで油断できない」

「どうしたらいいの?」

「この辺り一帯には俺が結界を張ったから近寄れなくなったはずだ。どうも俺はまじないが苦手で困る。でももう大丈夫だ。安心してくれ」

 獅子王がそう言うのだから間違いないんだろう。

「僕たちもおじいちゃんみたいに噴水広場のような場所を探したほうがいいのかな?」

「確かに、あの作戦はかなり有効だった。主人にはなにかつてがあるのか?」

「つてって言うとちょっと違うんだけど」

 僕はスマートフォンを操作して画面を獅子王に見せたのだった。


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