兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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嬉しいな

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「はい」



「ハルさん、お兄さんのこと最近になって沢山思い出していたんじゃないですか。会いたいって強く思っていたんじゃないですか。それが現実の世界でなのかかあっちでなのかは分からないけど。言葉を選んでいたようですが、いまものすごく辛いんじゃないですか」


ハルは、何も言えなかった。

全てその通りだったからだ。
 
やはりタカには全て見透かされているような気分になった。


「僕に見透かされたように感じているかもしれませんが、僕は人が何を考えているかまでは分かりません。視えた内容を自分の経験と解釈で理解するだけです」


「……」


「もしハルさんの機能に制限がかかっていなかったら、きっとお兄さんが視えていたかもしれませんね。でもハルさんは何も感じられなかった。だからお兄さんは僕に見せたんだと思います」



「そう……なんですね。僕、一ミリも感じませんでした。僕にそういう感じる力が残っているのなら、なんで兄の存在は感じなかったんでしょうか。少しくらい視えてもいいのに」



「確かなことはわかりません。でもたぶんそれは……ハルさんを僕に会わせたかったら、かもしれません」


「え……」


「ハルさんが辛い人生を歩んでいたということは、お兄さんが懸念していたことは当たってしまいましたね。ハルさんは無自覚にも影響を受けていたんです。人より感度が高いから余計に。僕の言っていること、なんとなくでも伝わっていたら嬉しいです」


「……はい。だいたいは理解しました」


「これが、最近になってお兄さんに呼ばれた、の真相です」


タカは小さく息を吐いた。



しばらくの沈黙が続き、この間タカは自分がすぐに行動を起こさなかったことを悔やんでいた。

ハルに会えば、当時の感情がフラッシュバックで自分を襲う。そんなの耐えられないと思っていた。

けれど、このまま何もしない選択肢もなかった。



ハルが口を開く。

「ありがとう……ございます」


「え、あ、いえ」



またしばらくの沈黙が続き、タカが口を開く。

「ハルさん、いますごく混乱していると思いますが、何を思っていますか?何か、感じていますか?」


タカがハルの目をじっと見る。

ハルもタカの目を見つめる。



「え……あ……いや……」


また沈黙が続く。


そして5分ほどたって、ハルが言う。


「やっぱりまだ……ショックと、嬉しさと、辛さと、驚きと、なんていうか頭の中がぐちゃぐちゃになっています。けど……少し嬉しさが上回っているというか」



「嬉しい……ですか?」



「……はい」


「……」


「ずっと人生はクソって思っていましたし今もその考えは変わっていません。タカさんが僕の過去をこうして話してくれても、"ああだから僕の人生ってこんなひどいんだ"と思うことは正直できていないです。でも……でもなんか嬉しかったです……うまく言えませんが……」



「……」



「兄のこと知れたのも嬉しいですし、僕のこと考えてくれていたことも嬉しいです。タカさんだって辛いでしょうに、こうやってわざわざ会いに来てくれたことも嬉しい……と思いました」



「そうですか」



「てかすごいブラコンですよね、僕たち兄弟って」
ハルがクスッと笑う。


「えっ!あ、いやぁ、あはは。いや僕からしたら羨ましいくらいですよ」

タカもつられて笑う。





「嬉しいな」

ハルがタカに聞こえないくらいの小さな声でボソッと言った。




「ハルさんがこの話を知って、その後どうなるのか僕は分かりません。僕は……お兄さんが見せてきたものをそのままハルさんに届けただけというか。けどお兄さんは意図があって僕に話したと思います。ハルさんがいま知ったことは、たぶん意味があると思います」



"弟と、合うと思うんだよ"


ハルの兄が言った最後の言葉を、タカはまた思い出していた。
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