兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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不協和音

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「すごい長文になっちゃった!いま出先で電話できないからメールで言うね!」

そう書かれた一行目のあとに、長文が続いた。





サエが初めてCDの存在を知ったのはキヨヒロの家だった。

朝、ベッドの上で目を覚ますとキヨヒロが椅子に深く腰掛け、頬杖をついてイヤホンで何かを聴いていた。

サエが足音を立てずにひょいっと顔を覗くと、キヨヒロは慌ててイヤホンを外し、ニコっと笑っておはようと言った。

一瞬しか見えなかったが、眉間に皺を寄せ神妙な面持ちな表情をしていたようにサエは感じた。

「それ、何?」

サエが聞くと、キヨヒロはイヤホンをサエの耳にかざした。

サエの耳に、独特な音色が流れた。聴いたことのない音色だった。

「古い音楽なんだ、これ。聴くと安心するんだよ」

真面目な表情をして、キヨヒロは言った。

「ふーん」

サエは、その"安心するんだよ"、という言葉に少しの違和感を覚えた。

その日から、サエはキヨヒロがイヤホンをしているところを度々見るようになった。

「ヒロ、ほんとにその音楽好きなんだね」

「うん?ああ、まあね」

「何かの映画のサントラ?」

「たぶん違う。父親から教えてもらってさ」

「ふーん。じゃあかなり昔のなんだね」

「うん、かなり古いと思う」

サエが知っているCDのことは、これが全てだった。




「以上!私が知っていることはそのくらいかなあ」

長文のメールの最後は、そう括られていた。




「詳しく説明してくれてありがとう、サエちゃん。出先なのにごめんね」

タカがそう返信すると、1時間後、またサエからメールがきた。

「ごめん!まだあった!これは私が思ってることなんだけど、音楽ってさふつう聴きたくなる気分とか、暇つぶしとかで聴くものじゃない?でもヒロは、なんだか勉強のために聴いてるような聴き方をしてたんだよね」

「勉強?どういうこと?」

「今から寝るってときに、わざわざ音楽聴いてから寝るとかしてたの。そんなに好きなんだって思って。いくら好きな曲でも眠かったら寝るほうを優先するでしょ?」

「まあ確かに。他なにかある?サエちゃんピアノ弾けるし、ピアノ奏者からして思うこととか」

数十分後、サエから返信がきた。

「強いて言うなら、不協和音?あの音楽はね、不協和音があるの。それは少し気になったかなあ。音程も気になる部分はあったよ。既製品じゃないような。録音した感じもする」

「不協和音て?」

「聴いてて気持ち悪くなる音があるのね。あえてそういう音を使う曲もあるんだけど。音もズレてそうなのあったんだよね。なのに、どうしてヒロは安心するとか言ったんだろうって。気になるのはそこらへんかなあ。音楽気になる?何かあったの?」

「え、音がズレるって何?」

「あえてそうしているのかわからないけど、音程が合っていない音があった気がするのね」

「そうなんだ。この音楽ハルさんの家にもあってさ。ハルさんと俺で、何だろうねって話してたんだよね。それでサエちゃんに聞いたんだ」

「そうだったんだ!そっか」

「うん、とりあえずありがとねー!出先なのにごめんね。また連絡する」

「はーい」



タカはサエからのメールを読み返し、そしてまたCDの音楽を聴いた。

不協和音ってなんだ?気持ち悪い部分?

タカは何度も音楽を聴いた。ときより、息を吸いづらくなり苦しくなることがあった。

これが不協和音か?と思うような、確かに少し不快な音があるような気がした。

何度聴いても、やはり心地の良い音色ではなかった。

なんでこの音楽で安心するんだ?弟を思い出すから……じゃないのか?

いつから聴いてたのか?

タカの頭の中はこの音楽のことでいっぱいになっていた。





サエがふうっと小さく息を吐いて、スマホをバッグの中にしまった。

「そんなに熱心にメールを打ち込んで、よほど大切な内容なんだね」

男が微笑みながら、サエに言った。

「え?ああ、うん、そうなの。すごく大切なことなのかもって思って。って、ごめんね、ほんと」

サエはほんの少し悲しそうな目をして男に言った。

「いや、そんな。謝らなくて大丈夫。電話とかしなくていいの?」

「いいの。メールの方が、残るでしょう?」

男は一瞬目を大きくして、そしてまた微笑んだ。




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