82 / 82
俺もなんだよ
しおりを挟む
その日の晩、ハルのスマホが鳴った。
父からだった。
「はい」
「もしもし。いま大丈夫か?」
「うん」
大きなため息をついたのか、息を吐き出す音が聞こえた。
「何を知りたい?」
「……俺が、喋らなくなったときのこと。それとCDのこと」
「わかった」
父は再び大きな息を吐き出し、静かに答えた。
「子供のころの話はタカさんから聞いてる。タカさんは兄ちゃんからいろいろ聞かされてたみたい」
「そうか」
「でも、父さんの口から直接訊きたい」
「わかった。おまえが急に変わった時のことだよな」
「うん」
「あの時な、俺は母さんと大喧嘩して、感情にまかせておまえに対して酷いことを言った。他の家に養子に出すとか、親戚に預けようとか、施設に預けようとか」
「うん」
「お前を家族から追い出そうと……追い出したかったんだよ俺は。そういう、ひどい発言をした。それをお前は聞いてたんだと思う」
「父さんはどうしてそう思ったの?俺が普通の子じゃなかったから?」
「……違う。おまえが、調整できなかったからだよ」
「……え?」
「おまえ、変わらなかったんだよ」
「は?どういうこと?」
「おまえ、視えるしいろんなこと、感じとるだろ?」
「うん。そうだったみたいだけど」
「おまえの物心がつく前に、おまえにあの音楽を聴かせたんだよ。そのCDのだよ。でも……」
「えっ、ちょ、ちょっと待って。全然分からない。どういうこと?」
「あのCDに入ってる音、あれは……」
「……」
「おかしなこと言うがあれは……俺の家系の、薬みたいなもんなんだ」
ハルの呼吸が次第に荒くなり、瞬きも早くなっていった。
この人はさっきから何を言っているんだ、と頭がおいつかない状況だけが理解できた。
父の唾を飲み込む音が聞こえた。
「俺もなんだよ」
「……え」
「俺も、お前と同じ」
「俺もって……なにが?」
「おまえのその機能は、俺の遺伝なんだよ」
「遺伝……?」
「俺も、昔はおまえみたいに視えちゃいけないものが視えたんだよ。だから……」
「待って。まじで待って。……え?あ……いやいやいや、整理できない。え?じゃあなんで追い出そうとしたの?遺伝?なら……守るのが親なんじゃないの」
「俺が、耐えられなかったんだよ、あの頃の俺は、変わらないお前を受け入れられなかった」
「変わ……はぁ!?何が耐えられなかったの。何が受け入れられなかったの」
戸惑いと驚きと、ほんの少しの怒りがハルの声色に重なる。頭の中を整理するよりも、自分の感情が前に出てしまっていた。
「俺の父親もそうだった。俺の家系が、昔からみんな遺伝しちゃうんだよ。俺は止めることができた。お前も止まる……違うか、調整だな。お前もあの音を聞けば調整できるはずだった。でも変わらなかったんだよ」
「変わらないって……変わらないって、変わらないとどう……何がだめなの?」
「お前のその機能を停止できなかった。音はな、その機能を停止させて同時におまえの命を繋ぐ役割を担っていたんだ。俺はお前の最後を見たくなかった。それに……キヨヒロにも、見せたくなかったんだよ」
「俺の……最後……?」
「お前が悲惨な死に方をするのを、見せたくなかったんだよ」
ついに言ってしまったとでも言いたいのか、言えたことへの安堵感なのか、ハルの耳にまた父の吐息が聞こえた。
その音はハルの胸をゆっくりと貫いてそのまま奥深くに沈んでいくようだった。
父からだった。
「はい」
「もしもし。いま大丈夫か?」
「うん」
大きなため息をついたのか、息を吐き出す音が聞こえた。
「何を知りたい?」
「……俺が、喋らなくなったときのこと。それとCDのこと」
「わかった」
父は再び大きな息を吐き出し、静かに答えた。
「子供のころの話はタカさんから聞いてる。タカさんは兄ちゃんからいろいろ聞かされてたみたい」
「そうか」
「でも、父さんの口から直接訊きたい」
「わかった。おまえが急に変わった時のことだよな」
「うん」
「あの時な、俺は母さんと大喧嘩して、感情にまかせておまえに対して酷いことを言った。他の家に養子に出すとか、親戚に預けようとか、施設に預けようとか」
「うん」
「お前を家族から追い出そうと……追い出したかったんだよ俺は。そういう、ひどい発言をした。それをお前は聞いてたんだと思う」
「父さんはどうしてそう思ったの?俺が普通の子じゃなかったから?」
「……違う。おまえが、調整できなかったからだよ」
「……え?」
「おまえ、変わらなかったんだよ」
「は?どういうこと?」
「おまえ、視えるしいろんなこと、感じとるだろ?」
「うん。そうだったみたいだけど」
「おまえの物心がつく前に、おまえにあの音楽を聴かせたんだよ。そのCDのだよ。でも……」
「えっ、ちょ、ちょっと待って。全然分からない。どういうこと?」
「あのCDに入ってる音、あれは……」
「……」
「おかしなこと言うがあれは……俺の家系の、薬みたいなもんなんだ」
ハルの呼吸が次第に荒くなり、瞬きも早くなっていった。
この人はさっきから何を言っているんだ、と頭がおいつかない状況だけが理解できた。
父の唾を飲み込む音が聞こえた。
「俺もなんだよ」
「……え」
「俺も、お前と同じ」
「俺もって……なにが?」
「おまえのその機能は、俺の遺伝なんだよ」
「遺伝……?」
「俺も、昔はおまえみたいに視えちゃいけないものが視えたんだよ。だから……」
「待って。まじで待って。……え?あ……いやいやいや、整理できない。え?じゃあなんで追い出そうとしたの?遺伝?なら……守るのが親なんじゃないの」
「俺が、耐えられなかったんだよ、あの頃の俺は、変わらないお前を受け入れられなかった」
「変わ……はぁ!?何が耐えられなかったの。何が受け入れられなかったの」
戸惑いと驚きと、ほんの少しの怒りがハルの声色に重なる。頭の中を整理するよりも、自分の感情が前に出てしまっていた。
「俺の父親もそうだった。俺の家系が、昔からみんな遺伝しちゃうんだよ。俺は止めることができた。お前も止まる……違うか、調整だな。お前もあの音を聞けば調整できるはずだった。でも変わらなかったんだよ」
「変わらないって……変わらないって、変わらないとどう……何がだめなの?」
「お前のその機能を停止できなかった。音はな、その機能を停止させて同時におまえの命を繋ぐ役割を担っていたんだ。俺はお前の最後を見たくなかった。それに……キヨヒロにも、見せたくなかったんだよ」
「俺の……最後……?」
「お前が悲惨な死に方をするのを、見せたくなかったんだよ」
ついに言ってしまったとでも言いたいのか、言えたことへの安堵感なのか、ハルの耳にまた父の吐息が聞こえた。
その音はハルの胸をゆっくりと貫いてそのまま奥深くに沈んでいくようだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あの部屋でまだ待ってる
名雪
BL
アパートの一室。
どんなに遅くなっても、帰りを待つ習慣だけが残っている。
始まりは、ほんの気まぐれ。
終わる理由もないまま、十年が過ぎた。
与え続けることも、受け取るだけでいることも、いつしか当たり前になっていく。
――あの部屋で、まだ待ってる。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる