私が愛した少女

おっちゃん

文字の大きさ
上 下
1 / 14
第一章 還暦からのスタート

出会い

しおりを挟む
 4月、中学校はどこの部活も新入部員の獲得に躍起だ。私の担当する部活でもやる気のある子を集めようと、部員達が新入生に声をかけまくっていた。しかし、痛い、怖いのバレー部に入る子は少ない。
 結局、入部届を出してきたのは7人。6人いればチームはできるが、7人では練習の時もいつも一人余ることになる。せめてもう一人入ってくれればいいのだがと期待したが、7人で決定してしまった。
 これが原因かどうかは今でも分からないが、長身の子の一人が、徐々に部活に来なくなった。女子の人間関係は複雑なので私には理解できないし、どうしてやることもできなかった。心配しながら遠くで見守っていた。その子にどのようなトラブルがあったかどうか分からないが、その子は全く練習に来なくなり、学校にも来なくなった。
 しばらくすると、その子のことで学校で会議が開かれた。部活の顧問として私も呼ばれた。その時に知ったのだが、彼女は小学校の頃から不登校らしかった。私は不登校については全く理解できない教師だが、彼女は長身で部活には不可欠な人材だと感じていたので、会議の後彼女の家の近所に住む部員に登校の誘いを頼んでみた。当たり前だが数回は誘いに乗って登校したが、しばらくするとまた来なくなった。
 残念ではあったが、私は彼女を諦めることにした。
 その後、校内体制の変更で私はその部活を持たないことになり、春休みの卒業生引退試合が私の最後の仕事になった。私は何故か彼女のことを思い出して、この引退試合に誘ってみた。すると「行きたい」というので、持っているはずのユニフォームを着て参加するように伝えた。彼女がユニフォームに袖を通すのは何回目だろうか。もしかしたら初めてではなかっただろうか。集合写真に写った彼女の表情には笑顔はあったが、どこか陰もあった。
 それ以来彼女とはしばらく会うことはなかった。学校にも来ていないようだった。
しおりを挟む

処理中です...