私が愛した少女

おっちゃん

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第一章 還暦からのスタート

リベンジの誓い

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 高校を辞めた紫野と私は高認を受けるためにうちで週に一度勉強することになった。そして、二人はリベンジを誓った。美沙とこはもうどうでも良くなっていたが、私と紫野にとってこのままでは納得ができない。だから、紫野は高校卒業程度認定試験を受けることにして、私はまた彼女の合格の責任を持つことにした。一単位もとれていない彼女を高認に合格させるには、8教科すべてに合格させなくてはならない。しかも入学試験と違って合計点ではなく、全教科合格点に達しなくてはならない。更に彼女が受けたことのない授業の教科もある。それを合格に導かなくのだ。そんなことが私にできるのだろうか。しかし、やるしかない。合格すれば17才で高校卒業資格を手に入れられる。
 勉強が始まるとやはり、授業に出ていなかったところでつまづく。それを丁寧に教えていきながら一歩一歩前に進めていった。するとどうだろう、彼女は私の説明を理解し、どんどん問題に対応できるようになった。さすが紫野、短期間で驚くべき成果を示してくれた。
 高校入試の時もそうだったが、彼女は頭が良く、さらに集中力もある。私との勉強は6時間に及ぶことも少なくなかったが、私が「もうやめよう」と言わなければ永遠に勉強し続けえいた。ともあれ私は勉強を教えるのが好きだ。だから、勉強する子も大好きだ。必然的に私は紫野に改めて心ひかれて行った。  
 必ず合格させる。そうすることが美沙や高校での嫌がらせに対する二人のリベンジになるだろうと思った。
 勉強は順調に進むかと思われたが、やはり紫野の悪い癖が出てきた。体調が良くないので今日は行くのをやめると言ってきた。私もそれまでなら承諾していたが、今度の挑戦は紫野の人生を取り戻す大事な戦いなので、どこがどう悪くて来れないのか説明を求めた。すると、熱があるといってきた。私はここで、私が毎週紫野に勉強を教えるためにたくさんの準備をしているし、学習の計画がずれてしまうので困ると伝えた。それでも来ないつもりだったので、私は紫野の失われた人生をどうしても取り戻したいからこんなにしかも無償でやっているのに体調を壊して休むなんて言うことは絶対にあってはいけないと釘を差した。
 このことがよほど効いたのか、それからは熱があっても来るようになった。ある時、顔が赤いので熱を計ったら38.5℃もあってこちらが慌てたことがあったほどである。こうして様々なことを乗り越えながら最初の試験当日を迎えた。8教科を2日間で受ける試験で、当日は紫野に同行して励ますことにした。一日目は上出来だった。二日目思いも寄らぬことが起こってしまった。ある科目で問題を見てから選んで解答して良い試験でことも有ろうか試験官がそれを知らずに先に問題を選んでから解答するようにと指示してしまったのだ。正直な紫野は指示通りに解答した、とこらが、選んだ問題が難しくあまり答えられなかった。帰宅後問題を解き直してみると、もう一つの問題に解答していれば楽々合格点をとれていたのだ。私はそれを聞いて憤慨し、文科省にすぐに電話を入れた。すると、3時に担当のものが戻るので折り返し電話をくれるというので待っていた。しかし、というか思った通り文科省からの電話はかかって来なかった。腹を立てた私は翌日、昨日電話をくれるはずだったのに何故電話をして来なかったのか問いただした。すると、受け付けの女性が謝罪し、今日は必ず電話をするというので待っていた。するとどうだろう、担当の職員は電話の近くにいるようだったが受け付けの女性に答えさせて本人は電話に出ようとしなかった。これが文科省の体質なのだ。奴らはかなり高い報酬をもらって働いているというか、あの建物の中にいる。それなのにこの対応である。真面目に税金を払うのがバカバカしくなってしまった。このままでは腹の虫が収まらないので、私は県会議員に相談する事にした、すると、その政治家がかなり理解を示してくれて、国のことなので国会議員につなげて対処してくれることになった。すると、土日を挟んで2日後その政治家から国会議員に文科省の担当部署に厳重注意をしたが、救済措置はとれないとの答えをもらったと連絡が来た。これで少し私の怒りは収まった。すでに問題用紙は受験者が持ち帰っているため、再試験などの救済は不可能であることはわかるが、人生をやり直そうと心を改めて再起をはかろうと受けに来ている若者に対してあまりにも失礼な、あってはならないことではないか。私はこのことをいつか必ずマスコミに訴えるつもりだ。
 結局紫野はその科目だけ落としてしまった。私たちはまた、3ヶ月後の試験に向けて勉強を始めることにした。一科目だけだったので、勉強もしたが、月に一度か二度は2人で遊びに出かけたりもした。それでも11月の試験には余裕で合格することができた。受験料を返せと言いたいくらいだ。
 こうして紫野は高校卒業程度認定試験に合格し、退学から一転、卒業を勝ち取った。
 このことは紫野に大きな変化をもたらした。高校二年生の途中で卒業を勝ち取ったことで、それまで常に何かに抑圧されて生きていた紫野の態度に少なからず自信が戻って来たように見えた。そして、日を追う度にそれは確実なものに変わり、表情にも大きな変化をもたらした。紫野の母親から「明るくなりました」という言葉が聞けた。後は紫野の努力次第で何でもやれると思った。
 そこで、これからどうするのかと紫野に聞くと、とりあえずアルバイトをして専門学校に通う資金を貯めるつもりだという。しかし、彼女の希望する職種はとても特殊な職種で、才能だけでなく運も必要なものだった。そこで、これは老婆心ではあるが、もしその道が難しいと思ったら進路変更したときに有利な資格を取ることを勧めた。その資格とは「医療事務」である。紫野は大人しい子だが、任されたことは正確にこなす。なので公務員向きなのだが、高認で市役所は難しいし、入ってから差別的な扱いをされると可愛そうなので、医療事務を勧めた。
 つまりというか、成り行きで私は「医療事務」の勉強まで紫野に付き合うことになるのだった。
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