私が愛した少女

おっちゃん

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第二章 濁流の教員生活

女子中学生という謎の生きのも

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 初めて赴任した学校で持たされたのが女子バレー部。この部活は最悪だったが、幸い一年で免れた。その後15年は男子の部活を持ったが、訳あって、また女子バレー部を持たなくてはならなくなった。男子バレー部で3年連続県大会に行っていたので、そののりで行けるだろうとたかをくくっていたらやはりそうは問屋も卸さなかった。男子と同じ指導をしても全く巧くならない。ならないどころかむしろ下手になった気がする。そこで、女子の指導に長けた顧問に訳を聞いてみると、基本の動作を毎日繰り返して定着させること。できるだけ練習内容を変えないこと。全員同じ練習をさせること。など、私のやり方とはかけ離れた練習方法を提示された。私の性格からしてこの練習方法では、自分の気力が続かないと思った。
 確かに、こうした練習をきちんとしている学校が勝ち残っている。でも、それで何が面白いのだろう。顧問にいわれたとおりにだだ、黙々と同じことの繰り返し。
 それより、みんなで、どこの学校もやっていないような新しいバレーボールを作り上げて、勝ち進んで行った方が楽しいのではないかと思う。やや心が揺れたが、やはり自分らしいバレーボールを目指そうと決意した。そこで、あの時と同じように、一番上手そうな子にセッターをお願いし、長身の子にセンターをお願いし、そこそこ打てる子に表裏のWスパイカーをやってもらい。左ききの子にライト兼サブセッターをお願いして、これまたコンビネーションバレーを目指すことにした。
 目指した攻撃パターンは3つ、AをおとりにしたB。BをおとりにしたA。Cをおとりにしたバックアタック。もちろん、カットがきれいにセッターに返らなければ即座にオーブンに切り替える。このチームも夏から秋にかけては負けてばかり。しかし、少しずつカットがきれいにセッターに返るようになるとセンターからAがきれいに決まるようになって来た。こうなると、チームの雰囲気も大きく変わる。それまで、「そんなことができるのか」と疑っていた選手たちが、「やればできるんだ」と絶望から希望に変わる。一つ一つの練習の意味が変わってくるのだ。「あの攻撃をもう一度やりたい」と思うようになると、一球一球の練習を大事にするようになる。とはいえ、ここが女子部活の難しさ。実は男子ならここでチームは一つになれるのだが、女子はそうは行かなかった。表面上は仲が良さそうに見えても、微妙な力関係や上下関係が存在していて、選手たちの気持ちはバラバラだった。鈍感な私はそれに気付かず、てっきりみんな同じ目標に向かって突き進んでいるものと思いこんでいたのだ。
 それだけではない。それぞれの一番大切なことがみんな違う。部長の子はさすがにバレーボールだったが、それ以外の子の一番は、男だったり、習い事だったりして、バレーボールは二の次という子の方が多い。これを変えることは私にはできなかった。迎えた11月のローカル大会で、その地域のNo.1のチームと当たった。
 試合が始まると、あっいう間に15対6というスコアでうちのチームがリードしてしまった。慌てた相手の監督がタイムをとり、流れを変えようとする。しかし、それでも流れは戻らず、20対12と、うちが先に20点に到達した。
 ところが、センターのひとりの動きが急におかしくなったので、タイムを取って事情を聞くと、「コンタクトが外れてボールが見えない」というのだ。「スペアを持ってきていないのか」と聞くと「持っていない」とのこと。これで、流れが大きく変わってしまった。その子が表になると、どんどん失点してあっいう間に23対23と追いつかれてしまった。こうなると、百戦錬磨の相手チームが有利。2セット目もカットの巧くない子が狙われてゲームセット。
 相手の監督が「今日は負けるかと思った」と言っていたが、こっちは「今日も負けた」で終わった。このことがチームをよく物語っていると思う。私にとっては一つ一つの大会がとても大事なのだが、子供たちにとってはそれぞれまちまちだったということ。それは、部活に対する思いと同じなのだ。
 選手達が私を信じていなかったということはない。いつか、ある選手がちょっとした問題を起こした時、「私は顧問をやめる」と言ったら「女バレの子たちが泣いているんだけど、何かあったの」他の先生に聞かれたことがある。したがって、彼女たちにとって私がそれ程軽い存在ではなかったと思う。とはいえ、俗に言う「カリスマ」的存在とは言い難い。そのチームはピークがあの試合だった。その後は結果らしいものは何も残すことができずに引退を迎えた。
 コンタクトのことも、部員の不祥事も結局は私の指導力不足が原因である。チームを育てるということはそれ程難しいことなのだろう。
 
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