北海道6000km

おっちゃん

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第二章 広さに圧倒

美しかった礼文島

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 夏の夜明けは早い。4時になれば空は明るくなってしまう。昨夜の雨はすっかり上がって、今日は快晴のようだ。日本最北端の碑の方向から太陽が顔を出した。紫野も目を覚ました。「紫野、日本最北端の日の出だよ」というと、「本当、綺麗ですね」という。気がつくとお腹が空いている。しかし、この時間では店も開いていない。そう言えば、一昨日幌延駅前で買ったスナック菓子が残っているはず、後ろのシートを探ると、ポテトチップスが残っていた。クルマの近くに自動販売機があったので、暖かい紅茶とコーヒーを買ってきて二人で飲んだ。
「先生、私クルマで寝たの生まれて初めてです。」「ごめんね」というと「でも、楽しかった!」という。私だって楽しいに決まっていたが、やはりクルマで寝るのはこれを最後にしようと決意した。
 朝食を取りに市街に向かい、昨夜と同じ店で食べた。他に適当なところが見つからなかったからだ。朝食を済ますとすぐにフェリー乗り場に向かった。日本一美しいと言われる「礼文島」に渡るためだ。車を置いて船に乗り込んだ。オホーツク海やベーリング海は低気圧の墓場といわれることもあって、海はいつも荒れていることが多い。この日も快晴かと思ったら雲が広がり、海も荒れ模様らしい。とはいえ船は出るので安心して礼文島に行くことにした。
出航するとすぐに船は波に揉まれた。揺れる船に不安になった紫野が私にしがみついて来た。その方が安全である。私もしっかりと紫野を抱き寄せた。よく見ると5列程前に昨日の二人が座っていた。見つかると面倒くさいと思っていたら、ひとりが後ろを振り向いて私たちに気づいてしまった。会釈をしてくれ、もう一人に話しかけている。なんだ一緒になっちゃったのかと思った。こうなったら攻めに出るしかない。「私の方から近寄って、「また一緒になりましたね。良かったら一緒に回りませんか?」というと「もちろんです。よろしくお願いします。」と言って来た。紫野は笑っていたが、本当は嫌だったと思う。とはいえ、この礼文島の旅はバスツアーなので、私と紫野は常に並んで座れた。礼文島は変化に富んだ自然が豊かで、どこを見ても感動的な景色ばかりだった。ここに来た男女は必ず結ばれるだろうと思った。旅の最後に昆布を干している場所の近くで手彫りのペンダントが売られていたので、ちょっと古いフレーズだとは思ったが「ロシアより愛をこめて」と彫ってもらって紫野にあげた。紫野は早速それを首にかけた。礼文島の旅を終えて私たちは今夜こそ宿に泊まることにした。観光案内所に頼らず、直談判で宿を探したところ、たまたま礼文島の旅に参加していたアルバイト青年が受け付けをしていた宿があり、その青年が「昼間の船に乗ってましたよね」と私たちを覚えていてくれ、部屋を用意してくれた。畳の上で布団に入って眠れる快適さをしみじみと感じた。
翌朝、宗谷岬からオホーツク海沿いに南下して網走を目指した。
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